本の中の本
ふむ。
序盤を読み進めてみたが、いかんせん行間が広い。
ここを詰めれば、もっと本が圧縮されるだろう。
それこそ表紙と同じ厚みになるほどに。
ん?。
本を閉じ、表紙の厚みと全頁を見比べる。
確かに、行間を詰めた際の厚みは、
表紙の厚みと同じになりそうだ。
この本の厚み、どことなくユウキが持っていた
『とある騎士の一生』と同じように見える。
何となく振ってみる。
『シャカシャカ』
空洞の中で、
何かが打ちつけられているような感触。
中に何かがある?。
メグミを探して辺りを見渡すと、
丁度メグミがどこかから
物々しい物体を持ってきていた。
それは金属光沢のある長い円筒型に、
一方の端には蛇腹の管とさらに太い円筒、
もう一方の端には口のような物が着いていた。
『キィィィィィィン』
「!」
メグミがかの物体を弄ると、
大きく高い音と共に風の音が聞こえ始めた。
そして物体の口の方を地面に押し付けている。
こんな大きな音が出ていては、
話しかける声すら聞こえないかもしれない。
尋ねるのは今度にしよう。
今は内容を読み進めるとしようかね。
「ふぅ⋯」
八割方読み終えて一息入れる。
あとの展開は粗方予想ができるし、
一旦これで終いとしよう。
メグミは先程の騒音を出す物体をどこかへ片付け、
同じく一息入れて茶をすすっているところだ。
早速聞いてみよう。
「ねぇメグミさんや」
「はい?」
「この本なんだけどね」
「はいはい」
メグミは立ち上がり本を覗き込んできた。
「ああこの本ですか、この本が何か?」
「この本の表紙が、妙に分厚いんだよ、
それに中に何か入っているような気配もあるんだよ、
この世界の本はそういうものなのかい?」
「ええ、これはハードカバーといって、
分厚めの表紙に綴じられてる本なんで⋯す⋯」
メグミが先程の私と同じく本を振った時、
同じ違和感を感じ取ったように見えた。
まるで中に開いた本がある、
そういう風な想像をさせられるのだ。
「⋯確かに、何かありそうですね」
「だね」
「ん?この形⋯」
メグミが何か思い当たったようで、
本を上下左右傾けて凝視している。
「昔⋯こんな感じの本を見たことが⋯
ちょっと探してみますね」
「二階に行くのかい?」
「いえ、例の一件で曰く付きになったので、
金庫と倉庫に隔離していたんです」
「⋯まさかそれって」
「はい、おそらくそのまさかだと思います」
机の上に三つの本が並ばれた。
一つ目は『とあるくノ一の一生』。
二つ目はユウキが私と初めて会った時に
持っていた『とある魔女の一生』。
三つ目は灰色の装丁に手書きで書かれた
『とある魔女の一生』。
風呂から上がったシルファンも揃い、
三人で三つの本を見つめる。
「まずこの二つをこうして⋯」
メグミが『とある魔女の一生』の
灰色の装丁の方を半分開き、
その厚みをハードカバーと比較した。
「灰色の方が少し薄いくらいの厚みだね」
まるですっぽりと中に入りそうな程に。
メグミがハサミを取り出した。
取っ手が可愛らしい色をしている。
「いきます」
メグミは『とあるくノ一の一生』の
カバーの端に刃を当てた。
「ふんッ⋯うくく⋯」
カバーは軋みながら、
その断面を少しずつ露わにする。
「ふぅ⋯ふぅ⋯」
「変わろう」
シルファンが変わったことによって
すぐに中身が明らかになった。
暗い隙間から、灰色の装丁が覗く。
シルファンの手によって、
余裕のある空間から
スルスルとそれは取り出されていく。
正しく、それは『とある魔女の一生』の
ものと同じ形の本だった。
題名は『とあるくノ一の一生』。
「貸してみてほしい、先程元の本を少し読んだ」
目を通すが、やはり内容に変化はない。
動く文字や加筆も無さそうだ。
「うん、現時点では内容に変化は見られないね」
灰色の本を机の真ん中に置く。
「で⋯なんですが、
まず勇気があちら側に行ったとされる時、
地下室の機械の前には
この灰色の本が置かれていました。
しかしこの家にはこんな灰色の本など
最近まで見たことはなく、
ハードカバーの中にあるなどなおのことでした」
「だろうね」
「なので勇気があちら側に行った原因は、
大島大五郎の遺品整理の際に地下室が開き、
元々鍵が刺さっていた機械にハードカバーの
『とある魔女の一生』を持った勇気が
近づいたことによって前回の件が
引き起こされたと考えられるでしょう」
いささか偶然が重なりすぎているが、
事故というものは往々にしてそのようなものだろう。
「じゃあ私のはどうなるんだ?」
「それは『とある騎士の一生』を持った勇気が⋯
いやでも鍵は金庫に入れていて⋯
破られていたんでした」
改めてとんでもない子だ。
「両方の件が勇気が起こしたものとして見て
間違いないですね」
「ああ、当人がどれほど自体を
理解できているかは定かではないがね」
「一度、使い方をきちんと確かめるために
起動してみましょうか、『とあるくノ一の一生』で」
「それはいいが、
入ってもすぐに出られなかった場合はどうする?」
「そ、それは⋯確かに」
出入りが本当に自由かを
確かめなければ安全ではないし、
不自由だった場合は詰む可能性もある、
難しい問題だ。
⋯そういえば。
「私とメグミがユウキとシルファンを
助けに行った時、
自由に出入りできそうな歪みはあったかな」
「あー⋯、前に進むことしか考えてなくて
見てませんでしたね」
「私もだ。まあ少なくともあの時点で
気づかなかったということは、
すぐ見つかる場所には無いか、
もしくはただ無いかのどちらかだね」
「いっその事気になることを全部確かめるために、
一度全員で行くというのはどうだ?」
「確かにそれが一番手っ取り早いですが⋯」
一番危険な選択肢でもある。
「⋯今言うのもあれなんだが、メグミ、
私は正直ユウキが子供のうちに
危険なことをするのは反対だと考えてる」
「それは私も同じ気持ちです」
「ああ、だから⋯ユウキが必死にねだらない限りは
向こうの世界に行くべきではないと思う。
一人を救い出すとしても、
四人の命を賭けるには少々分が悪い」
シルファンの意見に反対する者は誰もいなかった。
四人と一人を載せた天秤、
それが確かに正常に傾くほど、
銀鱗の竜は私たちに戦慄を覚えさせているらしい。
「何にせよ、
ユウキに聞いてみないと最終的な判断はできないね」
「ああ、あのごねりには叶わないからな」
「ひとまず、私達も寝ましょうか」
「ああ、そうしよう」
私はソファーで、シルファンはメグミのベッドで
メグミはユウキが寝ているベッドで
寝ることとなった。




