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よすがを頼って



「ただいま」


とは言っても誰もいない。


「おかえり」


隣の少年は言った。


「ありがとな」


頭を撫でる。


「ふふ」


かわいい。


「ところでお前さん、名前は?」

「ん、ゆうきくんは、ゆうきくん」

「そうか、ユウキか、私はシルファン」

「へへ、知ってる」

「そっか、会いたかったって言ってたもんな」

「うん」


私も、よすがを頼って街道まで歩いたことがある。

そして運良く男爵に拾ってもらった。

奴隷商などが通りがかっていたら、

もっと悪い人生になっていたかもしれない。

あの時は私も見習いとして働いていたが、

この子にはまだ無理だろう。

手伝いが必要なほど広い家でもないし。

まあのんびりとしていてもらおう。

そう考えていた矢先、

ユウキが棚から何かを取り出してきた。

本だ。

質の良さそうな紙に、上等な装丁。

男爵の家でもこのような本は見たことがない。


「なんだい?それ」

「持ってきた」


持ってきた。

ということは、ユウキがこの家に持ち込んできた。

何故こんな上等な本を?。


「ユウキ君、君はどこから来たんだい?」


可能性を恐れて、少し畏まる。


「あっち」


ユウキが指したのは、森の方角。

その向こうには、国境がある。


「いっぱいあるいてきた」


やはり密入国者か?。


「ん」

「?」


ユウキは両手を上げた。


「すわらせて」

「あ、ああ」


体を持ち上げ椅子に座らせる。


「さんきゅー」


聞きなれない言葉だ。

ユウキはすぐに本を開く。


「読めるのか?」

「うん」


この年で識字をこなす英才教育。

もしやこの子、大使の子息か?。

派遣から帰ってくる途中野盗に襲われ、

命からがら逃げ出してきたのか?。

大使の子息ではないにしても、

それなりの地位がある人物のはず。

男爵に報告すべきか?。

ただ私の知る限りオオシマという

家名の貴族はいない。

いずれにせよ、

男爵家の連絡係がやってこなければ

何も始まらない。

余計な詮索は不信感を募らせるだけだ。

ここに住まわせると誘った以上、

中途半端なことはしない。


「ところでその本はなんだい?」

「おはなし」


要領を得ず題名を見るが、読めない。

男爵から字は教わったが、

それとは全く違う種類の字だ。

隣国の亡命貴族という線も見えてきたが、

考えないことにする。


「あっそうだ」


ユウキはおもむろにこちらを向く。


「きょうって…えーと、なんせつの、なんにち?」

「今日は確か…亡者の節の27日だ」


ユウキは跳ねる。


「じゃあじゃあ!きょうのよるね!

おおかみがでるよ!」

「狼?」


確かに村人から出没の報告は来ている。

推測から来る警告だろうか。


「なら、明日の警戒を強化するとするよ」

「うん!約束ね!」

「ああ」



女男爵は現実主義だった。

男も女も最後には地力がものを言うと信じており、

またそれを家臣たちに教えこんでいた。

戦災孤児であったシルファンには

武術や理学を説き、

シルファンもまたそれに恭順していた。

その一対一のやり取りを

寵愛だと勘違いした他の連中から、

やっかみの対象になることもしばしばあった。

シルファンは武の才で領内にその名を轟かせ、

国中にその威を示した。

盗賊や反乱の征伐に参加し、

騎士の称号を与えられるまでになった。



歪みが出現する場所の法則を探るため、

メグミに朗読してもらいながら探索していたが、

両方に成果はなかった。

現在は館を探索している。

他の場所とは違いここだけ具体的だ。

自分の時も、

局所とドラゴンから逃げてきた場所は

線がはっきりとしていた。

ただこの館のように、

配置まで確かな場所はなかった。

それだけ物語、

あるいは本人との繋がりが強い場所なのだろうか。


「ここだけやけに鮮明ですね」


メグミも気づいているようだ。


「ただ…ここには何も無いかもしれない」

「それはなぜ?」

「まだ仮説の段階だが、

ユウキが物語に現れ始めた地点に歪みが発生する…

と私は思うんだ」

「なるほど…」


私の時は目の前に馬車や田舎風の建造物があった。

あれは私の家と、近くの街を現していたのだろう。


「物語を追いながら、

同じ速度で行くのがいいのかもしれない」

「そうですね」


気になるのは、奴の存在だ。

私に姿を似せてきて、帰れと連呼?していた奴だ。

こうやって地に足つけても一向に現れない。

現れない方が我々にとってはいいのだが、

現れる法則を知ってはおきたい。

メグミも奴の幻影に怯えながら館を探索していた。

ユウキも来た時には見ていないと言っていたし、

やはり帰る時に現れるのだろうか。





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