第二話
〈見晴台〉
【コウスケ】
「相変わらずいい景色だな、ここは。」
通称、見晴台。段々畑の最上段に作られたここからは、“下”の街がきれいに見下ろせる。
最近はめっきり来る機会が減っていたが、自然と足は向いてしまった。その原因があるとすれば。
【トリジイ】
『だからいつまでも居なくなった女のケツを探すのはやめたらどうじゃ、コウスケ。』
【コウスケ】
「……分かってるさ、そんなこと。もう何年も前から……。」
もともとここは、俺とあいつで見つけた場所だった。だからこそ、あえて踏む入れることを避けていた。
もし彼女がいなくならなかったら、俺の今は変わったのだろうか。うじうじと薄暗い洞窟に迷い込んでしまったかのような生活から抜け出せたのだろうか。
美しい夕景に瞳を焦がしながら、そんなありもしないif物語を考えてしまう。
そんなことに何の意味もないと知りながら、知ってなお、知り続けて、答えを求めている。
【コウスケ】
「……どうせ残すならもっとマシな事にすればよかったのに、いらんお世話だよ。全く。」
――と。
[効果音]ぴちゃ。
不意に水滴が頬を濡らした。
まさか涙を流したのかと拭ってみたが、しかし温かさはまるで感じなかった。
【コウスケ】
「……こんな涙脆いわけねぇわな。」
人の涙がいつ出るかなんて詳しいことは知らないが、やはりそれは感情が、心が大きく動いた時なのだろう。
つまり今の俺にはそれがない。もはやありもしない空想を思い描いているような、最初から叶うことがないと知っている夢を見てしまっているのだ。前提から諦めているのだ。
当たらないくじをいつまでも買い続けている。俺は中途半端なクズ野郎だった。
顔を真上に上げると、小粒の水滴が幾千幾万と降り注ぎ始めていた。
雨は嫌いじゃない。だが濡れて喜べるほどガキでもない。
俺はゆっくりと歩き始めた。