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第一話

〈屋敷〉

【トリジイ】

『未来の発明家へ。』


【トリジイ】

『いつか読んだ書物に次のような内容が記載されていた。』


【トリジイ】

『生まれつき目の見えない視覚障害者や聴覚障害者は、日常生活においてハンデを背負って生きざるをえない。』


【トリジイ】

『しかしその生きにくさというハンデが、ない物の代わりではないが新たな力を与えることがよくあるそうだ。』


【トリジイ】

『俗にいう、代償能力というものである。』


【トリジイ】

『盲人が風の動きで人込みを避けて歩いたり、難聴者が声を掛けられると振り向いたりすることもあるという。』


【トリジイ】

『なぜこのようなことが起きるのか、詳しいメカニズムは専門家に任せるとして、最も一般受けしているのが“本能的に生きるために順応した”という説である。』


【トリジイ】

『過去とは未来への糧とするものであって、追うものではない。失った目や耳を嘆くのではなく、その状態でよりよい生活が出来るように適応し順応するべきである。』


【トリジイ】

『だからいつまでも居なくなった女のケツを探すのはやめたらどうじゃ、コウスケ――』


俺はそこでイヤホンをぶち抜いた。


偶然見つけたボイスレコーダーにどんな遺言が残っているかと聞いてみたが、しかしまるで参考にならなかった。


ボイスレコーダーの残時間は2時間強。これでも一応恩人だ。停止ボタンを押しポケットに押し込む。


壁の時計を見ると既に16時を回っていた。俺は暖炉の残り火を消す。


【コウスケ】

「……帰るか。」


重い腰を上げ、俺は屋敷の外に出た。


※場面転換※


〈道〉

【コウスケ】

「うぅ、さっむッ!」


4月。山間に位置するこの街“陽ノ上町”では、マフラーを巻き付けるほどにまだまだ寒い。加えて屋敷は町はずれの辺鄙な場所にあるため、空気がより一層冷たく感じられる。


汗が乾くのを待ったはずだが、完全に乾ききっていなかったのか内に冷気がまとわりつく。


森を抜け素人作りに整備された道を下り、正規の坂道まで出てきた。


【ソウタ】

「よっ、コウスケ。」


【コウスケ】

「……ソウタ。」


【ソウタ】

「こんなところで何やって、……て、どうせ発明家のじいさんの屋敷にでも行ってたのか。」


【コウスケ】

「まぁ、な。……そっちは、三年にもなってまだ助っ人業なんてやってんのか。」


【ソウタ】

「こんな山の中にある人の少ない学園だからな。加えて、どっかの誰かさんも“下”の学園に行っちまうし。」


【コウスケ】

「……。」


【ソウタ】

「今はそこの空き地でサッカー部と練習中。もうすぐ大会だってのに、うちのグラウンドは野球部と相撲部が使っててね。」


“上”のエースこと、ソウタ。勉学はもちろんのこと、スポーツから手芸までできる完璧超人である。


【コウスケ】

「んじゃ寒いんで、俺はもう行くな。」


ぶっきらぼうに背を向ける俺に対して、しかしソウタは興奮気味に呼び止めた。


【ソウタ】

「携帯っ、……見ていないのか?」


【コウスケ】

「えっ?」


言われてポケットに手を突っ込む。しかしその手はボイスレコーダーを掴んだ。


【コウスケ】

「やっべ、屋敷に忘れてきたな。……何かあったのか?」


【ソウタ】

「……。いや、見てないならいいか。大した事じゃないんだ、別に。」


【コウスケ】

「……?」


気になるが、今からあの道を戻るのはしんど過ぎる。それに忘れてきたと言えば、面倒な親の小言から目を逸らすこともできる。


それにソウタと長く話すわけにもいかないか。


俺は町の裏切り者で嫌われ者なんだから。


【コウスケ】

「用はそれだけか? だったら早く練習に戻ってやれよ。大会が近いんだろ?」


【ソウタ】

「そうするよ。悪かったね、引き留めて。」


ソウタの背後に映る嫌悪の眼差しを無視し、俺は坂道を下り始めた。

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