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スターゲイザー 7

 二月になった。日本には最大の寒波が来ていた。


 外は雪がチラチラと降っている。グランドは土が全く見えず、雪で真っ白に染まっている。僕は掃除の時間、教室の窓からそれらを見ている。雪は好きだ。人の心の中にも静かに降り積もって何かを隠そうとしてくれるみたいだから。


 黄昏れていると井上晴香に声をかけられる。


「ねえ、掃除をサボっている石川くん。土曜日空いてる?」


 掃除をサボっている僕を注意しつつスケジュールを聞く器用な彼女に僕は答える。


「土曜日か。土曜日は本屋に行って本を買って家で読むから暇じゃないな」


「なるほど、要するに暇ということだね」


「読書している人を暇人みたいに言うな。彼らは休日の読書を楽しみに平日という地獄を乗り切っているんだぞ」


 この世は地獄なのだ。学生だって例外ではない。


「石川くんって普段は熱がないのに読書の熱だけはあるよね」


 幼馴染の明里にもそんなようなことを言われたことがある。


 どこか彼女は明里に似ているところがある気がする。


「それで暇ってことで良い?」


「良くないって言ったらどうなるんだ?」


「土曜日、午前十時に駅によろしく」


「やっぱりそうなるのかよ」


 明里に井上のことを大切にしろと言われているので行くしかない。仕方がないが読書を諦めるしかないか。


 僕は溜息を吐いてから頷いた。







「それでまたクラスメイトと出かけることになったんだけど」


 僕は夜の散歩中に学校であったことを明里に話している。僕自身初めての経験なので百戦錬磨の明里からアドバイスが欲しかったのだ。


 明里はニッコリと笑ってから口を開く。


「二回目のデート楽しんできて。以上」


 話は終わりとばかりに笑う明里に僕は慌てて口を開く。


「待て、別に自慢がしたかったわけじゃない。相談がしたかったんだ。あと、デートじゃないし」


「相談?」


 目をパチクリとさせ首を傾げる彼女に僕は頷く。僕がこんなことで浮かれるわけがない。幼馴染ならわかっていて欲しいものだ。


「そうだ。僕はデートなんかしたことないからアドバイスが欲しいんだ」


 なんでこんな悲しいことを言わないと伝わらないのだろうか。


「アドバイスと言われても。私だってしたことないのにアドバイスなんてできないよ」


 明里の言葉を聞いて僕は目を丸くする。明里がデートしたことないなんて初耳だった。


 中学から男子から人気の高かった彼女だから高校に行けば彼氏の一人、できていると思っていたから意外だった。


「あ、やっぱりあるかも。うん、あった。デートしていた、私」


 明里は思い出したように言って僕はその場で転けそうになる。彼女は時々抜けている。忘れられるくらいの男だったのか。その男が不憫に思った。


「あるのかよ。……別に良いけど」


 僕は複雑な気持ちを抱えながら言った。


 別に明里が他の男とどこに出かけようが気にしないけど、そいつが明里を傷つけるなら幼馴染として許すことはできない。


 そんなことを思っていると少し考えた彼女は腕を組んで言う。


「……いきなり告白しないこと?」


「するわけないだろ」


 僕は即答する。


 もしかしてその男にいきなり告白でもされたのだろうか。それとも他の男か。どちらにしても僕はそんなことをするはずがない。


「しないか。うーん、そうだな。相手のことを思って優しく時間をかけてする?」


「卑猥なことを疑問形で言うな」


 下ネタを挟む辺りがこの女から気品を感じない。


 僕は溜息を吐いてから言う。


「よくそんなので憧れられていたよな」


 明里は中学の時にファンクラブがあった。ファンクラブには男子だけではなく女子も多く入会していた。この幼馴染がハイスペックなところが憎い。


「親しみやすくて優しい存在だからじゃない?」


「自分で言うな」


 ツッコまれ彼女は嬉しそうに笑う。


「そう考えると私ってユーモアもあるし完璧な存在だね。スターになれたのも納得だ」


 しみじみと彼女は言った。


「だから、自分で言うなって」


 出来の良い幼馴染を持つと苦労する。親からなんで明里ちゃんはできて歩はできないの、とか。同級生からなんであんな冴えない男が隣にいるんだと何度言われたことか。夜ならその心配もないので助かっている。


 幼馴染でなかったら関わりなどなかったのだろうなと思う。


「もし僕がハイスペックだったらどうなっていたのかな」


 独り言のように僕は呟く。


「歩がハイスペック? 想像できない」


 笑いを堪えるように明里が言うので想像できるように僕は補足する。


「背が高くて頭が良くて人気者で誰にでも優しい、そんな男だよ。これで想像できるだろ?」


 今度は笑いを堪えられず彼女が吹き出す。


「それはもう歩ではないね。誰にでも優しい歩とか気持ち悪いもん。うん、気持ち悪い」


「気持ち悪いは酷すぎるだろ。あと、二回言うな」


 僕はムカついたので小さな石ころを蹴る。それが電柱にぶつかってカンと音がする。そして闇に消えていく。


「歩は歩のままで良いんだよ。それが好きな子がいるだろうし」


 井上のことを言っているのだろうか。


 僕は彼女に恩義を感じているが恋心を抱いてはいない。


「どうすれば良いんだろうな?」


「凡人なんだから沢山悩んでください」


「馬鹿にするのもいい加減にしろ」


 彼女の頭を僕はチョップする。


「いた」


 頭をさすりながら恨めしげに僕を見る明里に言う。


「僕は僕のままで良い。その言葉、信じるからな」


 涙目になっている彼女は頷く。


「そこらへんの占い師よりは信用して良いからね!」


「それは語弊があるから他の人には言わない方が良いぞ」


「大丈夫。歩にしか言えないから」


「そうか、それなら良いけど」


 明里の言葉に僕はほっとした。


 彼女も幼馴染という僕との関係性を大切にしてくれていると思ったからだ。


「デート、楽しんできてね」


 明里は大人っぽい笑みを浮かべて言った。どこか寂しそうに見えたのは勘違いだろうか。彼女の感情を確認する術を僕は持っていない。


「だからデートじゃないって」


「そうだったね。また話聞かせてね」


「ああ、勿論」



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