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君と星座になれたら 1

私には好きな人がいる。それはクラスメイトの男子、石川歩くんだ。


 彼は目立たなくて勉強も運動もそれほどできるわけではない。人付き合いも苦手そうだ。


 そんな彼には幼馴染がいた。松川明里ちゃん。可愛くて綺麗な人気者の女の子だ。彼女は勉強も運動もできて性格も良かった。そして面白い。なんで私ではなく明里ちゃんが学級委員長をやらないのかクラスメイトだけでなく先生も思っていそうだった。


 そんな彼女と私は自然と友達になった。誰にでも優しい明里ちゃんは学級委員の仕事もよく手伝ってくれた。


 石川くんを好きになったきっかけは明里ちゃんだった。彼女に振り回される彼を見て、とても優しい人だなと思ったのだ。


 だけど、彼の隣には絶対、明里ちゃんがいた。


 冬休み、明里ちゃんの訃報をお母さんから聞いた。クリスマスイブの日に交通事故に遭ったと言われた。私はそのことを理解するのに時間がかかった。


 明里ちゃんが死んで彼女と親友だった私はとても悲しんだ。お葬式では沢山の涙を流した。でも、いくら泣いても彼女は生き返らなかった。当たり前だ。人が死んだら生き返ることなんて絶対にない。


 高校一年生の冬休みが終わり三学期が始まった。


 教室に入ると空いたままの明里ちゃんの席の机には花瓶に入った白い百合が一輪置かれていた。


 お葬式で見た棺の中の彼女は眠っていて白雪姫の演劇の主演でもやっているかのように見えたのに机に寂しげに置かれた花はその残酷な事実を告げているようだった。


 そして、王子様である石川くんは学校に来なくなった。


 私は思ってしまった。明里ちゃんがいないのなら石川くんと一緒になれるのではないかと。そんな卑怯なことを思った。


 どうにか石川くんを学校に戻したくて届け物なんて(てい)の言い訳をして不登校だった彼に会いに行った。初めて学級委員長をやっていて良かったと思えた。


 最初に出てきたのは石川くんのお母さんだった。疲れている顔をしたお母さんが彼を呼びに行っている間、私はうまく取り繕えるかドキドキした。


 今まで私と石川くんは全然話をしたことがなかった。相手は私のことなんて忘れているかもしれない。だから、それを利用して明るく振る舞ってみた。明里ちゃんの話し方を意識してみた。


 久しぶりに会った彼は少し痩せているように見えた。ご飯中だったので申し訳ないなと思うのと同時に生活リズムが乱れてしまったのだと思い少し悲しくなった。


 そんな彼にかける言葉を必死に探したけど見つからなかった。沈黙が怖くて「学校には来られる?」なんて失礼なことを聞いてしまった。


 石川くんだって学校を休みたくて休んでいるわけではないことを知っているはずなのに。


 その日、私はもう帰ることしかできなかった。


 家に帰って彼の辛そうな顔を思い出す。彼は未だに苦しんでいた。だから私がどうにかしないといけないと思った。


 リベンジとして私は彼を強引に遊園地に誘った。


 チケットは自腹で買って用意した。彼を励ましたかったし、明里ちゃんのように彼と遊びたかったからだ。


 彼と出かけるのはとても緊張した。電車で彼の腕に掴まってしまったときなんて顔から火が出そうになった。


 遊園地で私は明里ちゃんみたいにはしゃいだ。きっと彼は私が明里ちゃんと似ていると思っただろう。でも、違う。私は明里ちゃんみたいに完璧ではないし、自然な明るさは持ってない。そして優しい人間ではない。ただ私は親友みたいになりたくて必死に演じていた。


彼は少し意地悪だった。私のポテトは摘むし、素直じゃない。だけど私の好きなままの彼だったので安心した。


 死んでしまった明里ちゃんと会っていると彼が言った時、私は心底驚いた。彼がそんな嘘を吐くとは思えなかったがそんなはずはないと思った。だってそうでしょ。死んだ人間は生き返らない、お葬式の日にそう実感したのだから。


 石川くんは未だに明里ちゃんしか見えていなかった。見えるはずのない彼女を彼はまだ見続けていた。そんな彼を私は痛ましく思った。それと同時に私と遊んでいるのに私を見てくれないの、と明里ちゃんに嫉妬した。彼女がそこまで輝いていなければ私が彼の隣にいられるのにと悔しかった。死んだ人間に嫉妬するなんて情けないけどそれくらい私は彼に本気だったのだ。


 どうにか彼を振り向かせたくて私は観覧車で彼に学校に来て欲しいとお願いした。私の想いが伝わったのか彼は頷いてくれた。


 翌日、彼が学校に来て、私は明るく大きな声で挨拶した。


 久しぶりの学校に戸惑っている彼が少し面白かった。


 お昼は彼と一緒に食べた。いつもは彼の隣で明里ちゃんが食べていたけどその席には私が座った。罪悪感はあったけど迷いはなかった。


 途中、クラスの男子が石川くんに失礼なことを言ったから物凄く腹が立った。少し、素が出てしまったので反省した。


 放課後は彼と一緒に帰った。他のクラスメイトだけでなく私にも興味ないのだとわかって少し悲しかった。


 だからまたお出かけに誘った。一緒に恋愛映画を観てレストランで食事をした。帰りに明里ちゃんの弟さんに会うまでは楽しかった。


 明里ちゃんの弟はとても悔しそうに私を睨んでいた。当然だ。姉の大切な幼馴染の隣には泥棒猫がいて楽しげに歩いているのだから。私は明里ちゃんの弟に同情した。彼もまた明里ちゃんに囚われているのだと。


 石川くんを明里ちゃんから救いたくて私は公園で真実を話した。彼に否定されたけど負けずに泣きながら真実を伝え続けた。私の努力は実り、彼は正しい過去を思い出してくれた。


 石川くんの叫びを聞くのは辛かったけれどこれも彼のためだと思って我慢した。


 そして今、私は彼に拒絶されている。


 なんでこんなことになってしまったのか、天国から見ている明里ちゃんが泥棒猫の私に罰を与えているのだろうか。明里ちゃんはそんなことしないと思いたかったが人の内面まではわからない。私は良い人間ではないからあんなに優しかった彼女でも疑ってしまう。本当に悪い女だと自分が嫌になる。


 明里ちゃんの気持ちを確認できれば良かったのに彼女はもう死んでしまった。だから確認しようがないと思ったが私は思い出す。夜、石川くんは明里ちゃんと会えていると言っていたことを。


 そんなはずないと思っていたけど明里ちゃんならそれくらいのことができてしまうのではないか。不思議と今はそう思った。


 自分の部屋にいた私はスマホで時間を確認する。午前零時過ぎ、真夜中と呼べる時間だった。


 私は天井を見上げて口を開く。


「明里ちゃん、今から会えないかな?」


 自分で言うのも馬鹿馬鹿しいことを呟いてしまう。


 もし、本当にいるのなら会って彼女の気持ちを知りたかった。


 私はスウェットに茶色のコートを羽織る。お母さんの私を心配する声が聞こえたけど「すぐ帰ってくる」と玄関で言ってスニーカーを履き私は外に出た。


 寒風が頬に当たる。痛いくらいだった。マフラーも必要だったかなと思ったけど時間が惜しかったので家には戻らない。


 明里ちゃんの家は石川くんの家の隣だったはずだ。


 でも多分、明里ちゃんは石川くんの元に現れるのだろう。それくらい彼女は彼のことが好きだったのだ。それだけはわかる。


 私に彼女が見えるか不安だけど行くしかない。


 私は白い息を吐きながら石川くんの家まで走った。




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