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4つの国の出来事

作者: アケビ ワタナベ

 ある時代、地球上に四つの巨大勢力が存在していた。これら四つの勢力はそれぞれ広大な地に強力な国家を形成していた。

 だが、まだお互いの存在に気づいていなかった。

 なぜならこの時代には、すぐれた交通手段である船や、飛行機、車がまだ生まれていなかったからである。唯一、馬やラクダ、ゾウや牛など動物たちの力を借りる方法はあったが、それも比較的財力のある者に限られ、それ以外の者は自分自身の足で歩くしかなかったからだ。

 しかしこれらの手段では自分達の勢力範囲を旅するぐらいが精一杯である。それゆえ、自分達以外の人間とは、周辺に住むいけ好かない少数民族だけだとどの勢力もそう考えていた。

 それが証拠に、Aの勢力の者とBの勢力の者が船の発明、発達と共に、地球の片隅で初めて出会った時の驚きはただものではなかった。

 なぜならA勢力内とその周辺の地域には白い肌と金色、褐色の髪を持つ人間はいたが、B勢力とその周辺に住む人間の様に褐色の肌を持ち、褐色、黒色の髪、とび色の目をした人間はいなかったからだ。

  初めて見る異色の人間に双方ともの驚きは大きかったが、それでも全く拒否したのではなく、自国にはない相手国の特産物を手に入れる為に徐々にではあるが交流も行われた。

  ただ、共通の言語を持たないことで誤解や疑惑も交錯し、時として争いに発展することもあった。が、やがてそれなりに付き合うこつもやがて覚え、物質面のみならず、文化面でも交流を持ち始めた。

 そうこうする内、A、B勢力から少しかけ離れた位置に存在したC勢力とD勢力間も同じように交流が始まった。

 

 これがやがて、冒険者達の、ついにはA、Bを含む四勢力間に付き合いは拡大した。

 しかし行き来きが盛んになればなるほど、自然に力関係が生まれ、交流によるメリットだけとはいかなくなった。

 そうなると、少しでも自分の方が有利な立場になりたいと思うのが自然の成り行きで、それがこうじれば、なんとか他の勢力を亡きものにしたいと考えることも有り得る。

 

 その内、どの勢力も下心をかくすことなく、あからさまな態度を取り始め、相手国を傘下に入れんと難題を持ちかけたり、言いがかりをつけたりした。

 当然の事として四勢力間での争いが頻繁に起こった。

だがどの勢力も大国であるからそう簡単に敗れはしないのである。微妙な均衡はしばらくの間は保たれた。

 その間、どの勢力も他の勢力を呑み込む方法をそれぞれ考えていたのである。きっかけさえあれば、ここぞとばかり国をあげての戦いが始まるのは目に見えていた。

 

 そんなある日、A勢力とB勢力間でささいなことから宗教をかかげた争いが始まった。こうなると、どちらも簡単には負けられない。 

 聖戦の名の元にはげしい戦いが幾度となく繰り広げられ、どちらかが一方を組み伏せるまで終わりそうもない。

 そうこうする内、仲介を買ってでたはずの他の二勢力、B・Cをも参戦し、あわよくば勝者側に付かんとたくらみ戦況をあやつった。だが、それもすぐに仲間割れを起こし、結局四つ巴に成って戦った。

 

 神の名の元に繰り広げられる戦いは、どの勢力にとってもやぶれる分けにはいかず、しだいに必死の形相を帯び、し烈な戦いになっていった。

 このままでは共倒れになりかねないと、どの勢力ともが考えたのも無理からぬほど、長く続いた戦いにすべての者が疲れきっていた。

 

 そんな折、A勢力の策にたけた者が現状を打破するために、自国の長老に一つの提案をした。

「いつまでもこのままではらちがあかない。B・C・Dの神を亡きものにしてしまえば、彼等は闘志を失い、一度に事が解決するのではないか。神の館に行って、神と名乗る者の首をはねてしまえばいい」

「そうだ、隠れ住んでいるだろう神を名乗る者を引きずり出し首をはねてしまえば、教えを請うている者達は、どうしていいのか分からずに右往左往するに違いない。その時に一気に叩き潰してしまえばうまくいく」

こう言ったのである。

「だが、彼等の神は本当にいるのだろうか」

「いるものか、祭壇にあるだろう神の象徴となる物を持ちかえれば上等だ。もしいたとしても偽者に違いないから、心配するな」

「そうだ。本当の神は我々の神だけだ。恐れることはない。すぐさまだま実行に移そう」

こうして策略はまとまった。


 しかし偶然ながら、こういった事を思いついたのはA勢力のみではなかった。どの勢力も同じ考えに行き着いていたのである。にもかかわらず、それぞれ自分達だけの名案だと思っていた。

 

 いよいよ実行するにあたって、A勢力は思いがけない行動を取った。

 敵であるはずのB勢力にC・D勢力を無きものにしようと呼びかけたのである。

 声を掛けられたB勢力は、自分達のA地の神を殺すたくらみを押し隠し、A勢力に同意した。

 双方の思惑から両勢力は手を結んだのだ。

要するに、同時に三勢力の神を殺した場合、神を殺された方が一番に怪しむのは神の現存する勢力である。同時に三勢力の反撃を受けたのでは、不利と考えたA・B勢力の考えが一致した結果だ。

 手を結び、C・D両勢力を手分けしてねらえば手を下した相手がC・D勢力には分かりにくいというメリットと共に、もしかしたらC・D相討だったと考える事も有りうるわけで、より複雑さがます可能性がある。

 まさか、最も仲の悪いA・B勢力が手を結ぶなどとは考えにくいだろうから、効果が期待できる。

 ところがおかしなことに、人間とは同じ様なものの考え方をするものらしく、A勢力の名案も決して彼等だけのものではなく、C・D勢力も同じ考え方をしていた。つまり手分けしてA・B勢力を狙おうというのだ。

 四勢力は二手に分かれ、相手側の二人の神を同時になきものにしようとしている。

 手を組んだ相手の始末はその後でも遅くないと、四勢力とも安易に考えていた。例えば、祝勝パーティの折、密かに狙えばいいのだから。


 それから何日かたったある日の明け方、四勢力は考えを実行に移す為に、まだ暗いうちにそれぞれ刺客を送り出した。

 A勢力はC地をめざして、B勢力はD地をめざして、C勢力はB地をめざし、D勢力はA地をめざして進んだが、うまい具合に、途中で狙う勢力の刺客に出会わない組み合わせになっていて、どの勢力の刺客も自分達だけが大任を帯び行動していると思っていた。

 A・BもC・Dも互いに手を組んでいるなどとは刺客に教えていなかったのである。

  

  刺客達はほぼ同時に、めざす相手の縄張りに入り込んだ。

  ただ、A勢力の刺客だけは途中で急病になり、高熱と吐き気に悩まされ、動くことさえ出来ないでいた。当然、C地に到着してはいなかった。

 この事が、後になって大きな意味をもってくるのだが、当の病気の本人はもとより他の刺客達も知る由もなかった。

 

 それぞれの目的地に着いたB・C・Dの刺客達は、神の館から引きずり出したそれぞれの神の姿を見て驚いた。神々達がA・B・Dの住人に姿形がそっくりだからだ。

 これで相手の神が偽者であると確信し、どの刺客も安心して行動に移った。

 最初からそうだろうとは思っていても、神と名のつく人物の首をはねようというのだから、いかにも神らしい顔付きでは振り上げた刃物を下ろすに下ろせなくなろうというものだ。それが憎い相手と変わらない顔付きをしているのだから、なんと言っても気が楽というものだ。

 B・C・Dの刺客達は無事にそれぞれ目指す相手の神をしとめ、役目を果たした。

 意気揚揚と引き上げ各自国にたどり着いたところで、刺客達は驚いた。

 まだ日が高いはずであるのに、どの勢力地もまるで夕方のように薄暗い。

 なぜだかわからずに、行き交う人に尋ねてみても誰もが首を横に振るばかりで一向に原因が分からない。逆に問い掛けてくる者がいるしまつだ。不安感からか誰一人として冷静な者はいない。

 あらゆる所で右往左往している人が溢れている。

 まさかとは思うが、刺客達に思い当たる事はたった一つ。

 B・C・Dの刺客達は慌ててほかの勢力地をそれぞれ調べに行った。するとA勢力地を除きあとはすべて同じように薄暗い。

 それを目にして、彼等は自分達の不安が的中した事を確信した。

 そして偶然にも、A勢力地内で彼等三人は出会った。太陽の明るさに驚き、身を震わせ、行き交うA地の住民等の中で唖然として突っ立っていたのはB・C・Dの刺客達だけだったことから、彼等は自分と同じ使命を持った人間のいた事を知った。

 C「なぜだ!なぜここは明るいんだ」

 B「なぜ、明るいんだ!」

 D「なぜ?」

 B「おれはDの神を手に掛けた」

 C「おれはB、お前の国だ」

D「おれはここAの神を手に掛けた、それなのになぜ明るいんだ」

C「ちょっと待て、わが国の神は健在だ。だが国内は薄暗い、明かりをもたなきゃ歩けやしない」

 刺客達は自分達の話を付き合わせることによって、A勢力地が明るいのは、A勢力の刺客がC勢力地の神をまだ手にかけていないからだと気がついた。

 おそらく、今にも、C地の神を狙おうとしているだろうA地の刺客を探し出し止めなくてはと、三人は全速力でC地に向かった。

「早く止めなくては、この世がすべて闇となってしまう」


 A勢力の刺客はまだC地の手前でいた。

 その様子から、かなり病は重態だったと見え、すっかりやせ細っていた。

 彼を見つけ出したB・C・Dの刺客達は事の重大さを説明し、このまま引き上げる様に頼んだ。

 しかし、ひとり使命を達成してないA地の刺客は、あせりからか、彼等の説明や説得には耳を貸さず、C地の神を亡きものにすれば地球上は全くの暗闇となってしまうだろうことも、とほうも無い話だと信んじなかった。

 それよりも自分達の神が殺されたことのみ真に受けて、烈火のごとく腹を立て、引きとめようとする三人の刺客を、だまし討ちして、C地の神をねらい突き進んだ。

 

 C地は闇に包まれていた。

 たどり着いた時が日中であったならば先程の話に納得もしようが、真夜であれば暗闇も不思議ではなく、A勢力の刺客は何の疑いも持たず神の館へと向かって行った。

 C勢力地の神はやはり住民と同じ体型、同じ肌の色、同じ髪の色をしていた。

「やっぱりこいつは偽者だ」

A勢力の刺客はありふれた顔付きの神を見て勇気づき、一気に首をはねようとしたその時、神が一言何かをつぶやかれたが、その言葉の意味は分からなかった。

 思いがけない神の一言に一瞬おくした刺客だが、あらためて勇気を奮い起こし、力いっぱい刃物で突き刺した。

 すると、それとまったく同時に世界中が暗闇となった。


 神は四つの姿を持っていらした。

ゆえに、他国の神を手にかけることは自分の信じる神を殺すことだったのだ。

A地に戻った刺客は、暗闇の中で、何度も神に許しをこうたがもはや神は遠くに旅立たれ、地球上にはいらっしゃらない。

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