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第9話 第一転生人との遭遇

キィィィィィィーン。


それは、丑三つ時ぐらいのことであった。

お菓子に囲まれた夢を見ていた俺は、不思議な音を耳にした。

それは決して心地よいものではなく、どこか不快な感情を俺に抱かせた。


その音は消えない。

未だに鼓膜の縫うようにして通り抜け、頭の中に響きをもたらす。

てっきり夢の要素の1つじゃないか、と考えていたが、当てが外れてしまった。


寝苦しい。


そう思った俺はそれまで入っていたベッドから抜け出した。

すると、唐突に尿意が感じられた。


ふぅ、危なかった。

このまま寝ていたら、間違いなく明日の朝は世界地図を描いていたところだった。



「……んっん、ヴィーちゃん、どう、したの…」


どうやら一緒に寝ていたソフィアを起こしてしまったらしい。

ただ起きたと言っても、かくらかくらと船を漕いでいるような状態でまともに動けるようには見えない。


そのため、最低限のやり取りに止め、ソフィアがまた夢の世界へ行けるように促す。


「おトイレしに行ってくる。心配しないで。」


「……そう、気をつけ、るのよ…すぅ…」


そう一言言って、ソフィアはすぐ眠りについた。


それにしても寝付きがいいな。

普通だったら、今の状況で寝れるはずがないのだが…

この煩わしい音が聞こえていないのか?


考えても仕方ないので、先に尿意の方を解決することにした。

部屋の前の扉に待機していた使用人に付き添ってもらい、用を足す。


この時代には、トイレという文化が存在しない。

中世ヨーロッパ同様に、基本的に人目のつかない野外、もしくはオマルようなものにして使用人に外に捨ててきてもらうと言った方法がポピュラーだ。らちなみに俺は、他人に自分の排泄物を見せるのに羞恥心を抱くため、屋外で済ます。


出すものを出しきり、顔を上げるとその先には森が広がっていた。

我が家は敷地内に小さな森が抱えている。

小さな森と言っても、その面積は某有名な野球ドーム1個分以上はある。

勿論、その森の中に住んでいる者などいない。


しかし、その森の中にちらりと光の玉が見えた気がしたのだ。


「ねえ、アレ…」


「どうしたのですか?」


俺はすぐに側に控えていた使用人の方を向いて呼び、その光の方を指差す。

使用人は訝しみながらも、俺の指差す先を見た。


「……特に何かあるようには見えないのですが、如何したのでしょうか?」


なっ!

俺は慌てて自分が先ほどまで見ていた場所を見る。

しかし、そこには光などなく、どこまでも暗い森が広がっているだけであった。


「坊っちゃまは、どうやらまだ目が覚めておられないようですね。用がお済みでしたら、早く寝所に戻り、お眠りになられると良いでしょう。」


「……う、うん。」


そうなのか?

いや、実際証拠がない以上はとやかく言っても意味がない。

俺は大人しく見間違えたということにして、部屋に戻ることにした。


そして、再び寝ることになったが、いつの間にか煩かった音は聞こえなくなっていた。


気のせいにして片付けるには、不思議な出来事であった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


謎の出来事があった後も特に生活に変化があったわけはなく、生活は続いていく。


不審者騒動で初回はお開きになった使用人の子供達との交流会も数を重ね、ある程度の面識を持てるようになった。

そのため、一度に皆集めるということは少なくなり、仲の良いグループごとの数人単位で会うことが増えた。

ひたすらお話しするだけのグループもあれば、多少身体を動かして遊ぶグループと様々だ。


そして、今日は――


「「……」」


沈黙が部屋を支配していた。

もし、ここに針で刻む式の時計があったら、チクタク音が響いていたことだろう。


今回の相手は、なんと1人だけ。

どうやら仲の良い友人などはいないらしい。


この沈黙に耐え続けるのはなかなかに堪える。

何とかしようと言葉を掛けようとしたところで、先に相手が口を開いた。


「……あの、人払いしてもらってもいいですか?」


そう言った彼女――リーラは部屋の中に控えていた使用人の方を見た。

使用人達は当然の提案に呆気に取られたらしく、戸惑った様子で俺のことを見てきた。


いや、それにしても俺と同い年が口にする言葉なのか?

今時人払いなんて、高校生あたりでも言わないぞ。


だが、それでも憚ることなくその言葉を口にした。

何か他の人に聞かれると困ることである可能性が高いな。

そうなると、やはり……


「いいよ、彼女と2人っきりにして。」


「「坊っちゃま、それは!」」


「大丈夫、もし何かあったらすぐに叫ぶから、扉の前で待っててよ。」


害意がないことは、転生前の経験上分かっていた。

だから、リーラの提案に乗ることにした。


使用人達は渋々ながら部屋から出ていった。

その際、リーラに口煩く粗相を働かないように注意していた。

座り方的に大丈夫なんだけどな。



「では、改めて自己紹介させていただきます。私はリーラ、()()そう名乗っています。初めまして、ヴィクトル様。いえ、太郎様と言った方がいいですか?」


俺の仮初の名前を知っているとは。

やはり、転生者か。


驚きはあれど、予想はしていたことなので冷静に対応する。


「いや、ヴィクトルで構わない。転生前の名前なぞ何の意味もなさないからな。あと、同じ転生者であることは分かったから、人前でない限りは敬語で話さなくていい。」


「そう、助かるわ。この世界は不敬罪なんてものがあるから、一々気を張らないといけなくて大変なの。」


「まあそうだろうな。だが、代わりにこちらの質問に答えてくれ。君はいったい誰なんだ?」


「あら、先ほど名乗ったわよ。リーラよ、家名はなし。あなただってよく知っているでしょ?」


「違う、それではない、今ではなく、転生前誰だったのか教えてくれ。」


「さっき、転生前は関係ないとか言ってなかった?」


「それとこれは別だ。」


「はいはい。転生前は紫、本清 紫よ。あなたと同じようにいじめられていた側の人間ね。」



本清 紫か…



これは想定外の人物だな。

てっきり不良陽キャグループの女子かと思ったんだが、当てが外れたな。


それにしても、こんな話し方する人間だったのか。

まともに話したのが転生前含めて今回が初めてだから、知らなかったのも不思議ではないが。

人のパーソナルスペースを軽々と越えてきそうな感じだ。


「今回は何故こうやって接触してきたんだ?」


「質問は1個だけじゃないの?」


「そんなことは言ってない。こちらの質問に答えてくれれと言っただけで、さっきの質問に答えてくれと言ったわけではない。」


「屁理屈ね。まあ別に構わないのだけど。」


「じゃあ答えてくれ。」


すると、彼女はニコリとした笑みを浮かべ、俺に新たな提案をしてきた。



「取引しましょ。これがうちの目的。()()()()()()()()()()()()()?」

次回更新日は明日です。お見逃しなく…


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