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第7話 親バカとの邂逅

「「…………」」



その日、2人の男の間に謎の緊張が生じた。

片や歴戦の猛者と言わんばかりの隻眼の美丈夫、片や生まれて1年と少ししか経っていない赤子。

本来相手を会い見えたとしても、そこまで意識し合わないような存在。

だがしかし、この場において両者は何かを感じ取ったのだ。


「ほら、ヴィーちゃん、貴方のお爺様よ〜。怖くないからね〜。」


ソフィアの一言で一瞬の雪解けが訪れた。

お互いの視線が一度ソフィアの元に集まったのだ。

その瞬間を一方の男が隙をついたように動きを見せた。


「マーマー、じいじ怖ーい!」


1歳児の方が、ひしっとソフィアに抱きついたのだ。

当のソフィアも困惑した様に振る舞いつつも、どこか嬉しそうにその子供の背に手を回し、抱きしめ返した。

すると今が攻め時だと判断したのか、その子供はさらに、まるで自分のものだと言わんばかりに、胸元にグリグリと顔を押し付ける。


「――グッ!」


まさか先手を取られるとは思っていなかったのか、歯を噛み締めて悔しそうな表情を浮かべるのはもうすぐアラフィフの男。

言葉を満足に喋れない様な子供に遅れを取るとは全くの予想外。

その後の行動を全て止められてしまった。


他の者にバレないようにチラッとアラフィフの状態を確認した1歳児。

それに対して、依然悔しそうな表情を浮かべるだけのアラフィフ。

ふっ、これは勝ったな。

1歳児の子供である俺は勝利を確信し、笑みを浮かべた。


しかし、それに待ったをかけたのは想定外のところからであった。


「申し訳ございません、ギデオン様。未だ1歳とは言え、愚息の教育がなっておらずに不快な思いをさせてしまいました。」


そう言って俺をソフィアから引き剥がし、無理矢理押さえつけて頭を下げさせたのは、理論上父親であるレオンハルトだった。

公爵の機嫌を取ることしか考えていないのか、俺を引き剥がした後のソフィアの方には一切目を向けていないようだ。


なんとか顔を動かし、ソフィアの方に視線を受けるとそこにはシュンとした表情を浮かべた彼女。


ギリッ!


思わず、まだまだ生え揃っていない乳歯を噛み締めてしまった。


いや待て、今のは変だぞ。

歯軋り音が実際に聞こえてきた。

俺の歯はまだまだ生えてきている途中でとてもじゃないが、歯軋りなんて出せない。

じゃあいったい…


恐る恐る最も可能性のある人物へと目を向けてみる。

すると、そこにはレオンハルトを射殺さんばかりの視線を向けたアラフィフがいた。

その視線に孕まれた威圧感には流石に恐怖を覚えた。

しかし、当のレオンハルトは気付いていないようであった。

こいつ本当に侯爵家当主なのか?


ここで1つの想定外のことが起きた。

そのアラフィフがすっとレオンハルトから視線を外して、俺を見てきた。

必然的に俺と視線が交錯する。

だが、その金色の瞳に宿っていたのは、先ほどまでの殺意ではなく、どこか俺を確認するようなものであった。


しばしの静寂が訪れる。

その間、俺とアラフィフは見つめ合ったままだ。


だが、時間が経つと共に、アラフィフの方が何を思っているのかがだんだんと分かってきた気がする。

完全にではないものの、お互いの望むものは一緒であると。


俺はレオンハルトに頭を押さえつけられた状態から何とか

脱出して、アラフィフの前に立つ。


「じいじ。」


俺は小さな手を差し出し、握手しようとする。

当然俺の行動は側からみれば不自然極まりない。

現にレオンハルトが慌てて再び俺を押さえつけようとしてきた。


しかし、レオンハルトの思惑通りに事は進まなかった。

アラフィフが俺の手を取り、強くしっかりと握り返してきた。

勿論、力加減を考えてくれているのだろう。

痛すぎず、かと言って弱すぎない程度の力だ。


「ヴィクトルよ。」


ここに、男、いや漢の約束が酌み交わされた。


ソフィアを悲しませる奴は許さない。

俺は子供として心を、アラフィフは親として立場を守らんとする誓い。

言葉を交わさずとも、お互いがお互いに求めるものが通じ合ったのだ。


その後は、使用人達を部屋から退出させてアラフィフもといギデオンと共に家族水入らずの時間を過ごした。

途中レオンハルトとギデオンがOHANASHIをすると言って1回部屋から退出していった以外は平和な時間が過ぎていった。

まあそのOHANASHIから帰って帰ってきた時のレオンハルトの表情は決して明るくはなかったが。


そして漢の約束をした日からしばらくの間、ソフィアに対するレオンハルトの態度が目に見えて変わった。

毎日のようにソフィアの居住棟に足繁く運び、毎晩床を共にしようとした。

ただ残念なことに俺にべったりになってしまったソフィアが俺と一緒に寝るのは譲れないと言うことで、残念ながら事は致せなかったようだ。

ざまあみろ、いい気味だ。



しかしまあ、喉元過ぎれば熱さを忘れる、とはよく言ったもので1ヶ月も過ぎれば全て元通り。

再びソフィアの居住棟に足を運んでくるペースは月数回になった。

しかも、突然にぱったりと。

当のソフィアもそのことを気にした様子ではないのが幸いだ。

こう見ると、完全に夫婦仲冷めきっているんじゃないか、と思ってしまう。


ただ今回のレオンハルトの行動に関して言うと、元通りになった理由はなんとなく分かっている。

明らかに不自然であったからな。


レオンハルトが来なくなる前日にイリジナの居住棟にある人物が複数の護衛及び使用人と共に入って行くところを偶然窓越しに見たのだ。

その人物はまるでイリジナが少し歳を取った結果のような風貌であった。

見知った顔ではなかったものの、俺はどこか革新めいたものを得た。

レオンハルトの母であり、俺の父方の祖母にあたるコーネリア=ピアッシモンであると。


普段はレオンハルトの父であり、前当主のレイモンドと王都にある屋敷で過ごしている。

それは俺が生まれてからも続いている。

そのため、俺は直接対面したことはなく、覚えている限りでは、俺が生まれてから初めての帰領となるだろう。


では、何故そんなことをしたのか?

推測の域を出ないが、わざわざ離れた侯爵領まで足を運んだのは、同じ実家出身のイリジナの嘆願によるものだろう。

これまで見聞きした情報から考えるに、イリジナとコーネリアは隣国にある実家のポーリニア伯爵家を通じて繋がっている。

それで今回のフィアンソロフィー公爵の来訪に対抗する形で動いたのだ。


では、その目的はとなると、単純に考えたパターンと深く考えたパターンの2つがある。


単純に考えたパターンは、文字通り単純に身内が蔑ろにされたのが嫌だったから。

イリジナが愛し合っているレオンハルトをソフィアに取られたのを嘆き、そのことをコーネリアに相談したと言う流れだ。


イリジナが独占力が強いタイプで、行動力も兼ね備えていた場合、十分にあり得る話だ。

まあかなり子供じみた観点からの理論になるが。


で問題となるのは、深く考えだパターンの方だ。

ずばり、ピアッシモン侯爵家の乗っ取りだ。


多分一般的な思考回路からでは突飛な考えすぎで鼻で笑われるのが関の山だろう。

だが、グループの創業者一族出身の身からすると、先の説より十分現実味がある話になるのだ。


実際、うちの統世グループは過去に事例があった。

戦前、日本で有数の規模を誇っていた某企業を内部から掌握し、裏から操っていたのだ。


手順としては、代々創業者一族の当主となる者に対して、年頃の娘を用いて婚姻関係を結ばせる。

そして、2人の間から生まれてきた子供に対して、統世グループに利することを刷り込ませていく。

また、その子供に対して、年頃の娘を嫁がせて、同様のことを施すと言った手法だ。

代を経るごとに刷り込みはより根強くなり、次第に統世グループの利することしかできなくなっていくのだ。


結果として、某企業は悲惨な末路を辿ることになった。

創業者一族の中に有能な者がいる間は、その者を操り、統世グループの商売敵と苛烈に経済競争を繰り広げさせ、両者の弱体化を図った。

代々子供は男の子1人であり、無用な混乱を生まぬよう血統制限するために、他の子供は殺していたなんて物騒な話もあった。

そして、有能な者がいなくなった途端に統世グループに強制的に併合し、全ての権利を奪い取ったのだ。


正直、今のピアッシモン家の状況はその某企業の陥ることになった状況に酷似している。

祖父母より古い代の情報は何も知らないが、少なくとも婚姻による計略は2世代経過している。

おそらく次の代、つまりグリフィスがピアッシモン家の当主になった時、次のステージへと移行してしまうだろう。


どうか前者のどこか微笑ましい話であって欲しいと願う。


だが、権力が存在する現実は甘くないことなぞ、とうの昔に知っている。

用心することに越したことはない。


もし後者なら、俺は勿論排除対象になり殺される。

さらには、俺を産んだということで、ソフィアも排除対象になるかもしれない。


この世界で大事なものは、2つある。

俺自身と、母親であるソフィアだ。


もし、どちらかあるいは両方が脅かされる時が来たら、その時は全身全霊を持って対応しよう。

それを生み出す存在を完膚なきまでに叩き潰そう。


俺は1人、決意を新たにした。



……まあ、ソフィアの胸に抱かれて、一緒にベッドに入っている1歳児の身で言っても、格好つかないんだけどな。

次回更新日は明日です。お見逃しなく…


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