第5話 異世界での産声
本小説のタイトルの一部変更を行います。
今のままだと若干のネタバレになってしまっているので。
あと、今日から転生後のストーリーが始まります。
章自体はもう少し進んでから作る予定ですので、今しばらくお待ち下さい。
「ーーーっ。ーーーーーーーーーーー!」
「ーーーー!ーーーーーーーーーーーーー!」
なんだ、声らしき物が聞こえる…
ただ上手く聞き取れない。
伝わってくる気配的に何か焦っているような感じがする。
ああそうか、転生したんだったな。
音が聞こえにくいのも単に聴力が落ちているからか。
聴力は胎内から既に発達しているはずなんだがな。
やはり身体機能の変化に追いついていないのか。
それにしても…なんだか息苦しいな。
自発呼吸が上手くいっていないせいだろう。
何もないのに泣くという若干の気恥ずかしさもあるが、神様に言われた通りに泣くしかないな。
そうしないと、酸素濃度が上がらずチアノーゼになってしまう。
最悪の場合、新生児仮死に陥ってしまう。
身体の底から湧き上がる、赤子としての本能に従おう。
「オギャーオギャーオギャー!」
「ーーーーー!ーーーーーーーー。ーーーーー!」
「ーーーーー、ーーーー!」
「ー、ーーーーーーーーーーーー。ーー、ーーーーーーー!」
「ーーーーー、ーーーーーーーーーーーーーーーーー?ーーーーーーーーーーー!」
「ーーーーーーーーーーー。ーーーーーーーーーーーーーーーー。」
「ーー、ーーーーーー!」
色々と言葉が飛び交っているようだが、やはり聞き取れない。
自分の生まれた状況も大雑把な環境しか知れていないのは、困るな。
はあ、早く成長しないかな…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇当時の出産の様子
「公爵様っ。赤子が泣いておりません!」
「なんだと!早く回復魔法を使用するのだ!」
「泣きました!赤子はご無事です。男の子です!」
「でかしたぞ、ソフィー!」
「ぶ、無事に産めて良かったです。ああ、私の赤愛しい子!」
「それにしても、レオンハルトの奴はどこにいるのだ?娘の初出産だと言うのに!」
「大方第二妃の方でしょう。彼方側は大奥様出身家の者ですので。」
「ふん、実に忌々しい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
やっと五感が発達し始め、首がすわるようになってきた。
睡眠時間が不規則だから正しい日数は分からないが、生まれてから3ヶ月ちょっとと言ったところか。
《異世界人》のクラス効果〈言語理解〉もきちんと働いているおかげで、周囲の音声の聞き取りも問題なく行えるようになった。
おかげで今俺の周囲を渦巻いている環境に関する情報も仕入れることができた。
あと、〈既存知識保護〉の能力の保護対象がどこまでかかなり心配していたが、正直問題ないレベルでしっかりと残ってる。
知識自体はかなり消えている。
その消えた知識というものは、世界中の株価や為替、国債や先物取引といった数値であり、その全てが消し飛んでいた。
それもおよそ戦後からだから、50年以上分。
また、一部電子機器の回路や傘下や取引先にいた人間の情報も分からなくなっていた。
だが、これだけで済んだのだ。
日本最高学府の大学に全分野で合格できるであろうの知識に一切の衰えはない。
この点は、教育を施してくれた身内に感謝しておこう。
まあ言い換えてみれば、どれだけ無駄な知識の蓄積があったのか窺い知れる。
俺の今世での名前は、ヴィクトル。
隣国との国境と接する、北東のピアッシモン侯爵家の次男坊らしい。
だから家名込みで名乗ると、ヴィクトル=ピアッシモンとなる。
以前、母親が持っていた手鏡越しで自分の容姿を確認することができた。
といってもまだまだ乳児でこの先どう成長していくかまでは、定かではない。
一応《異世界人》の能力で最低保障はさせているんだが。
現時点で確認できたのは、ごく一部。
髪の色が深めの青、確か紺碧と呼ばれるものに該当する。
瞳の色は、明るめのグレー、銀色である。
父親はレオンハルト=フォン=ピアッシモン。
ちなみにだが、この世界の貴族の当主は、名前と家名の間にフォンという言葉が入る。
この3ヶ月で数回程度しか姿を見ていないが、長身で体格も良く、金髪の似合う騎士然とした美丈夫だった。
そして、妻が2人いるらしい。
その妻の1人が俺の母親である、ソフィア=ピアッシモン。
フィアンソロフィー公爵家出身の令嬢で、レオンハルトの第一妃。
カールしたフワッフワな水色の髪をしており、性格も髪型に負けないほどゆるふわな感じだ。
あと、授乳の時に恥ずかしくなってしまうぐらい、綺麗な顔とスタイルをしている。
もう1人のレオンハルトの妻であり第二妃が、イリジナ=ピアッシモン。
縁者であるポーリニア伯爵家の令嬢であり、当のレオンハルトがゾッコンな相手。
綺麗な顔立ちをしているが、正直母親であるソフィアの方が綺麗だと思う。
そして性格は良いとは言えず、事あるごとにソフィアに突っ掛かって嫌味を言ってくる。
そして、その子供で俺の兄であるゲッタウルド家長男が、グリフィス=ピアッシモン。
俺より2歳年上で、レオンハルトそっくりの金髪である。
始めのうちは初めての弟ということで、俺のことを愛でてこようとした。
しかし、ごく最近になって、まるで俺を仇敵を見るような目で見てくることも増えた。
おそらくだが、母親であるイリジナの影響だろう。
親子兄弟に関しては以上だ。
結論から言って、だいぶ複雑な家庭環境だ。
前世で読んだ歴史書や小説から得た知識だと、間違いないこの侯爵家で跡継ぎを巡って権力闘争が起こること間違いなしだ。
原因が両妃の出身家が絡んでいるようだが、今の俺にどうこうすることはできない。
祖父母達が信用できないってどんな世界線だよ。
個人的にはそこまで侯爵家という地位に執着はない。
自分の周囲の環境はある程度把握できたが、この家を取り巻く環境は未だ知れていない。
沈みゆく泥舟だったのなら、迷わず乗り捨てて藁を掴もう。
せっかくの新しい人生だ。
今度はしっかりと自由を持った上で生きてやる。
それを脅かす存在が現れるのなら、全力で打ち砕いてやる。
「ヴィクト様、授乳の時間ですよー。」
おっと、物思いに耽っていたら、授乳の時間になってしまった。
思考力が健在でも、身体能力はどうしても赤子なのだ。
栄養を自発的に摂取することもままならない。
部屋の扉が開き、恰幅の良い1人の女性が入ってきた。
勿論今生の母親であるソフィアではない。
彼女は産後にも関わらず、抜群のプロポーションを保っている。
前世で会っていたら、求婚したいレベルの女性だ。
入ってきたのは、乳母であるアマンダだ。
侯爵家に仕える使用人の1人で、ソフィアの実家であるフィアンソロフィー公爵家から派遣されている。
そして、なんとエルフだ。
初めてエルフと知った時は驚愕した。
何せ既存知識で持っていたエルフのイメージとの乖離が激しかったからだ。
それこそ尖った耳に気づかなければ、ただのヒューマン種としか思えなかった。
ちなみに彼女は、俺が産まれるのとほとんど同時期に子供を産んだらしい。
まあその子供には当然だが未だ会えておらず、性別までは把握できてはいない。
時期的に、俺と同じ転生者の可能性があるため、結構気になっている。
アマンダは、俺の傍に控えていた使用人と場所を入れ替わり、授乳の体勢になる。
当たり前だが、俺は部屋に1人でいるわけではない。
赤子なのだから、身辺警護してもらわないと何かあったら即御陀仏だ。
常に3人の女性使用人が控えている。
彼女らもまた公爵家派遣の人材だ。
……それにしても、授乳されるのは未だ慣れないな。
精神的には自我が確立し、第二次性徴期も終えている身だ。
言葉で言い表しにくい、キツいものがある。
あと数ヶ月辛抱すれば、離乳食に移行できるはずだ。
今は耐えてみせよう。
離乳食を食べるようになる頃には、ハイハイすることに手をつけないとな。
厳密には少し早いかもしれないが、早熟ということでいけるだろう。
ハイハイという行動は、実は全身を使った動きであるため、運動能力を育てるためにはかなり重要なことなのだ。
ハイハイをしっかりすることで、背筋を始めとした筋肉が鍛えられる。
また、複数の部位を一緒に動かすという協応動作の向上にも繋がり、転倒時などの危機回避能力を鍛えることにも繋がる。
将来的にバランス感覚に優れた運動神経の良い人になれる。
一方でハイハイを疎かにして、すぐに立つことや歩くことにシフトしてしまうと、今後の発育への影響が懸念される。
転生のおかげで、脳が既に発達しているとはいえ無視できない。
俺は羞恥心を受け入れ、しっかりとハイハイをしてやろう。
協応動作が上手くできるようになれば、きっと魔法も上手く使えるようになれると考えている。
……多分、きっと、おそらく。
まあ乳児である俺に今できることなぞほとんどないのだ。
しっかり寝て乳を飲んで、元の身体以上に成長していこう。
追記(1/5):家名の変更。
フィーリングだけで付けていたものを、意
味を含ませたものに変更しました。
追記(1/12):グリフィスの年齢変更。
あまりにも年齢差があると、後々のイベン
トに支障をきたすため、3歳差から2歳差
に変更しました。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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