第4話 カプセルトイとスロット
少し長めです!
あと、今日でプロローグ的な物は終わり、明日から転生後の世界に入ります。
こ、これは!
――ガチャガチャだ!
いや、正式名称だとカプセルトイか。
スーパーの店頭とか商業施設の一画に置かれている、硬貨何枚か入れてレバーを回転させると景品が出てくるアレだ。
ただ、目の前にあるこれは明らかに大きい。
特に景品が入っている上部のスケルトン部分のスペースが大きい。
俺の身長の2倍はある。
それだけ様々な種類の物が入っているということだろうか?
「じゃあ、先にクラス決めしようか!勘のいい人は今から何するか分かるだろうけど、説明しとくね。目の前にある機械のレバーを回すと、その中から玉が出てくる。普通は1個だけど、運がいいと2個出てくるよ。それ以降は引いたら説明するから、実際に引いてみてね。ああ、引き直しはできないから一発勝負だから良いのが引けなくても文句言わないでね。ついでに、お口チャックも解除するね。」
まあやはりといった展開だな。
中身がまるで分からないブラックボックス。
景表法違反待ったなしだ。
誰が最初に引くのかという空気が漂う。
だが、その探り合う空気もすぐに霧散した。
「しゃあ!俺が引いてやるぜ!」
雷山、流石陽キャというべきかな。
何も躊躇うことなく、一番手に名乗り出て、カプセルトイもどきの前に立った。
ガチャガチャガチャ、ポンポーン。
「いきなり2つだ、これはついてるぜ!」
運が良ければ2つと言われていたこともあるのか、まるで自分の強運を見せつけるかのように出てきた玉を2つを掲げた。
……見た目は量産品であるプラスチック製のボールに見える。
そして、そのボールの中央あたりに文字列が見て取れた。
《戦士》と《武人》と書かれている。
見るからに戦闘向きと言ったクラスだ。
「いきなり2つ出るなんてすごいね。じゃあ出た玉は皆引き終わるまで持ってて。さあ、次は誰が引く?」
「俺が引く!」
「あーしも引く!」
「ぼ、僕も……」
「…………」
皆が群がるようにして、ガチャガチャを回し始める。
それぞれが結果に一喜一憂…というより、喜んでいるように思えた。
結果を見せびらかす者もいれば、静かに集団から離れる者もいた。
1人が、菱宮 麗奈だ。
彼女は別段見せびらかそうとはしなかったが、傍に寄ってきた男に結果をバラされてしまった。
バラした本人曰く、素晴らしい結果が出て当たり前だろうから、らしい。
ちなみに結果は、雷山同様に2つの玉が出たようだ。
それぞれのクラス名は《魔導士》と《結界師》。
物理攻撃に特化してそうな雷山と打って変わって、魔法主体の戦いで圧倒的なアドバンテージを持っていそうな構成だ。
もう1人が、麗奈の結果をバラした張本人である宝城 聖司だ。
これまで誰も当てなかった、レアなクラスである《○者》系統を当てた。
しかも、なんとファンタジー定番である《勇者》を引き当てやがった。
「やはり僕は選ばれし者であったのだ!」
こう言った時の顔と言ったら、広辞苑に載せたいレベルのドヤ顔の見本だった。
より一層自己肯定感を高めてナルシスト一直線だな。
そして、皆が引き終わり、ついに自分の番になった。
自然と注目が集まる。
俺はそれらの視線を物ともせず、カプセルトイもどきの前に立つ。
結果なんてどうでもいい、とか意識高めの孤高キャラじみた思考などしない。
おそらくこのクラス決めは自分の命運を左右する。
ダメだ、感情が昂ってきてしまった。
目を瞑ったうえで自分の顔の前で合掌を作り、その両手に息を吹きかける。
これは物心ついてから行なっている、思考をクリアにするためのルーティン。
幼い頃から行ってきたので、もはや癖になっており、一定の思考の乱れに到達すると、自動的に行ってしまう。
「おい、早くしろよ、敗北者!カッコつけてんじゃねえぞ?」
外野が何か吠えている気がする。
しかし、今の自分には聞き取れない。
深い集中状態になっているからだ。
俺はカプセルトイもどきのレバーを掴み…
そして、回した――
ガチャガチャガチャ、ポーン。
玉の排出は1つ、残念ながら2つではなかった。
幼い頃から鍛えてある動体視力で玉に書いてある単語を読み取ろうとする。
全ては見て取れなかったが、一部は分かった。
――語尾が、者であった、ということだ。
否が応でもテンションが上がってしまう。
俺は落ちてきた、玉を掴み一目散に書かれている文字を確認する。
そこに書かれていたのは――
――《敗北者》であった。
それまでの熱が抜け、一気に身体が冷めていく錯覚に陥る。
血の気が引くなんて今まで経験したことなかったが、まさに今がそうなのだろう。
この時ほど、俺が無用心になった時はなかった。
周りに気を回す余裕もなくなっていたのだ。
いつの間にか俺の背後に隼也が忍び寄ってきていたことに気付けなかった。
「おいおいおい、こいつ『敗北者』だぞ!」
その瞬間、周りから侮蔑と嘲笑の視線と言葉が俺を襲う。
「ギャハハハハ、お前こんなところでミラクル起こすなよ!お似合いすぎて笑っちまったぞ。」
「やはり君は選ばれし者ではなかったようだね。安心したまえ、君のような庶民の平和のために僕は勇者としての責務を果たそう!」
「ええー、まじありえなーい。」
「……気を落とさないでね。ぷふ、多分なんとかなりますよ。」
この時、俺にそれらの視線や言葉を投げつけなかった者は2人いた。
麗奈と、本清 紫だ。
前者は同情するような視線を向けながらもどこか信じるような眼差しであった。
後者の方に関しては、何か他の事物に思考が囚われていたのか、まるっきりこちらに関心を示していなかった。
「はいはい、じゃあ皆にクラスが行き渡ったね。ということで、ホイっと。」
俺のことをひとしきり馬鹿にする時間が過ぎたところで、自称神様が再び口を開いた。
俺も散々時間はあったので、もう意識は切り替え終わっている。
別にクラスが全てではないだろう。
生きていく分には努力さえすれば何とでもなるのだ。
何かの掛け声と共に、皆の前にカードのようなものが浮かび上がった。
縦7cmと少し、横12cm程度のプレートのようだ。
ヲタクグループのテンションが再び爆上がりになった。
ああそう言えば、異世界モノに出てくる定番のものにあったな。
「今君達の前に浮かび上がったのは、所謂ステータスプレートってやつだね。別に君達だけの特権というわけではなく、これから行く世界の5才以上は皆持っている物だ。持つこともできるし、他人に見せることもできるよ。普段は君達の体内に収納されている上に、一定距離離れると自動的に戻ってくるからなくす心配もなし。そこには、名前、身分、自分のクラス、それの持つ能力、適性魔法、ついでに今は何も書かれていないけど犯罪歴が書かれるようになっているよ。今決まったクラスと僕から送ったプレゼントも書かれているだろうから、確認してみてね!」
俺は警戒しつつも、そのステータスプレートを手に取り、手元に持ってきて確認する。
チラッと周りを見るも、どうやらおっかなびっくりしながらも、皆も確認しているようだ。
名前:未定
身分:未定
クラス:《異世界人》LvMAX
《敗北者》Lv1
適性魔法:♡内緒♡
シンプルにこれだけ書かれていた。
うーむ、思ったよりも情報量が少ない。
というか、気になる点がいくつかあるんだが。
最後の文言については、かなりイラッときたし。
ついイラッとしたので、プレートのその文言を指で突く。
何度かしている狙いが滑ったのか、上の《異世界人》の文字に触れてしまった。
すると、まるで画面が切り替わったかのようにプレートに書かれている文字が変わった。
《異世界人》LvMAX
〈言語理解(基本)〉常時発動
→ラライブフの共通言語を介した会話能力を付
与する。ただし、書いたり読んだりするには
改めて修学する必要あり。
〈既存知識保護〉常時発動
→転生前の知識を一部だけ保持し続けることが
できる。ただし、その一部は人により様々で
あり、その範囲は全知識の1割から3割程度
である。知識の選定は転生時点で行われ、失
う知識は当人が必要でないと無意識化でも判
断する物が優先される。
〈成長保障〉常時発動
→成人を迎えるまでに、人為的でないものに対
して無病息災で過ごせる。また、自動的に転
生前の身体能力以上になることが確約され
る。
お、クラスの持つ能力の詳細が見れたぞ!
わざと説明しなかったのか?
まあ良い、もう1つのクラスも確認しておこう。
《敗北者》Lv1
〈どうあがいても敗北者〉常時発動
→自分の半径250m以内の、生まれてから5年以
上経った知的生命体の最も弱い個体に負ける
戦闘能力になる。たとえどんなに善戦したと
しても、最終的に敗北する運命を辿る。
……言葉も出ないとはこのことか。
かなり重い足枷をした上で生涯を送らないといけないのか。
どう生きていくのか、考えようとしたところで待ったがかかった。
「色々と気になっている人もいれば、もう他のことに意識を取られている人もいるようだね。じゃあ良い時間だし、問いに答えてあげよう。」
まるで俺の思考を読んだかのように、自称神様は言葉を発した。
まあ気になることもあるにはあるんだが、正直それどころでないとも言える。
だが、聞ける話は聞いておかなければ…
「見慣れないクラスが1つあるだろう?それが僕からのプレゼントであるクラスだ!いくらか君達に恩恵を与えてあげる。所謂転生ボーナスの一環だよ。ああ、このクラスが他の人に見られると困ったことになるだろうから、同じ転生者以外には見れないようにしてあるから、心配ナッシング。」
確認してみたが、確かに多少とは言えアドバンテージになるだろう。
まあ、かなりの不安要素も垣間見えたが。
「名前と身分が書かれていないのはこれから転生するからだよ。まだ身分スロットも回していないのに、決まっているわけない。名前なんて生まれた先の都合で決められるんだから、なおさらだよ。」
うむ、正論中の正論だろう。
「適性魔法の欄は、5歳になるまで見れないようにしている。そもそも論、これから行く世界で魔法は5歳にならないと使えないという制限が概念として定められているんだって。だから、赤ちゃんの頃から魔法使ったり練習したりして俺TUEEEみたいなのはできないよ。てか、テンプレ過ぎて面白くないからさせない。まあ、心配しなくても5歳になれば確認できるから。」
ヲタクグループのテンションが見るからに下がった。
あいつら、完全にそのプランだったんだな。
「まあ、ステータスプレートに関する説明はきっと転生後にもされるから、そこで確認してね。まあ5歳になるまで普通はステータスプレートは見れないはずだから、もし他の人に使っているところがバレたら、大変なことになるかもね。勿論、悪い意味で!ということで、優しい僕は転生後5歳になるまでステータスプレートを出せないようにしてあげよう。」
まあ能力の確認は終わったのだ。
ステータスプレートが見れなくなっても困ることはない。
「――以上だね、じゃあ早速転生先を決めようか。決まったらすぐに転生するからよろしくね。」
はっ、ちょっと待て。
クラス云々に関する説明がほとんどなかったぞ?
クラスの能力の詳細が見れるかどうかの説明もなし。
クラスの能力がいつから発揮できるのかの説明もなし。
……もしかして、意図的になのか。
ちゃんと確認できた者に対する転生ボーナスってことだろう。
自分の能力を知っているか否かでだいぶ生き方が変わるからな。
1人で納得していると、自称神様がパンパンと手を叩いた。
すると、カプセルトイもどきの上から何かが落ちてきた。
その影は大きく、決して小さくない物のようだ。
グワッシャーーン!
カプセルトイもどきは見るも無惨に上から落ちてきた物により、踏みつぶされ粉々になった。
改めて、落ちてきた物に目を向けてみる。
今度はスロットのようだ。
スロットと言っても、リールがいくつもあって絵柄を揃えるような代物ではない。
リールが1つだけで、そこに色々と文字が書いてある。
今正面に見えるのは、イーナンナ男爵家第1子、と書いてある。
「王家の子供が生まれることもあり、ベビーラッシュだから転生先には困らないよ。なんと今なら高確率で貴族の仲間入りさ。ああ、性別は今のままできるから安心してね。意識があるのに異性に生まれ変わったら嫌でしょ?さあ、誰から回す?」
今度は誰も名乗り出ない。
先の文言を聞いていたからだろうか。
――転生先が決まり次第転生する。
つまり、スロットの結果が確定次第、すぐにこの場から消えるということだ。
そうなると、他の者がどこへ生まれ変わるかを知ることはできなくなってしまう。
可能な限り、誰がどこに生まれ変わるかは知っておきたい。
まあ、本当に俺以外がそう考えているかは分からないが。
それに、〈既存知識保護〉の対象になるかも分からない。
誰も言い出せないまま時間は進む。
視線でのみ働きかけ、お互いに牽制し合うような形だ。
その結果、自称神様が痺れを切らし、ついに口を開いてきた。
「ああもう、面倒臭いな。僕いい加減飽きたんだけど!埒が開かないから、さっきと逆順で回して行ってね。ということでそこの君、早く回して!」
この瞬間、俺が最初に回すことが確定した。
おいおい、嘘だろうこの仕打ち。
せめて皆の転生先ぐらい知らせてくれよ。
だが、それは許されないようだ。
皆の視線が突き刺さる。
はあ、しょうがない。
俺は失意と共に、スロットもどきの前まで移動し、レバーに触れる。
思ったより軽く、簡単に引っ張れそうだな。
というか、気づいたらレバーを下げ切っていた。
ガコン、プルルルルルルルルル。
リール上の文字が次々に変わっていく。
騎士爵、農民、子爵、騎士爵、商人、男爵、伯爵。
本当に貴族が多いな。
おっ、今王族なんてのもあったぞ。
まさかベビーラッシュの理由となった王子になることもできるのか?
次第に回転が遅くなり、俺の目の前で1つの結果となって表示された。
――ピアッシモン侯爵家第2子。
そして、この瞬間俺の意識は暗転した。
追記(1/6):家名の変更。
フィーリングだけで付けていたものを、意
味を含ませたものに変更しました。
次回更新日は明日です。お見逃しなく…
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