第24話 妹の誕生
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ピアッシモン侯爵領が果たしてどの緯度に位置しているのか分からない。
書庫にある本だと基本的にこの国の地図しかないからな。
だが、緯度の推測程度であれば自然環境から立てることが可能となるのだ。
室内から窓越しに外へと目を向ければ、粉雪が舞う様子が見て取れる。
つまり四季が存在する中緯度ということだ。
そんな雪降る季節に我がピアッシモン家には新たなイベントが起きた。
――妹の誕生、である。
妹と言っても、厳密には違う。
ソフィアとレオンハルトの夫婦仲を見れば、とうに夫婦の営みが催されていないことは明白。
火のないところに煙は立たぬ。
つまり、妹など生まれようがない。
そう、所謂義妹、イリジナが産んだ娘――
「はーい、今日から私がママですよー。」
「あーぶ!」
だが何故か、ソフィアはその子を抱いてこのように告げている。
側から聞いたらおかしな宣誓にも思える。
一応ピアッシモン家という家族の括りで判断するなら、ただ正しいことを告げている。
ソフィアはレオンハルトの第1夫人だし、義妹も彼の第3子に該当する。
直接の血の繋がりはないが、間違いない。
だが、ソフィアの言葉が持つ意味は違う。
文字通り、義妹の親権がイリジナからソフィアに移ったことを示す。
ただ同じ父親を持つだけの義妹から、同じ家屋の下で暮らし、同じ母親より面倒を見られる義妹へと変わったのだ。
そう、義妹はイリジナから捨てられたのだ。
事実、周りにいる者は元々ソフィアの居住棟を出入りしている者だけで、近くにはイリジナはいない。
さらに言うと、義妹を連れてきたイリジナ側の使用人は渡し終えるや否やすぐにここの居住棟から去っていった。
義妹――ミリーナ=ピアッシモンが生まれたのはつい先日の晩秋の出来事であった。
ふと疑問に思ったのが、グリフィスの宣告の日のイリジナ。
本来であれば妊娠後期であり、腹が膨らんでいてもおかしくはなかった。
だが、実際はとても妊婦のようには見えず、従来通りの整った容姿をしていた。
当初は驚いたものの、どうやら魔法で見た目を変化させていたようだ。
これは人前に出やすい貴族社会で割とポピュラーなことらしい。
なんというファンタジー。
でミリーナの出産なのだが、かなりの難産だったらしい。
使用人達の会話から得た情報によると、逆子でなおかつへその緒が絡まった状態であったようだ。
幸いにも、イリジナは相当苦しんだようだが、ミリーナの容体は比較的安定していたみたいだ。
それを聞いた時、よく無事で生まれたものだと驚いた。
魔法やスキルで代用できるかもしれないが、医療技術が発展していないこの世界だと奇跡だろう。
現代地球でも下手すれば、赤子は死んでしまうレベルのものだった。
そんな生まれたミリーナは、生まれた当初かなり可愛がられたようだ。
なんといってもイリジナからしたら苦しんで産んだ玉の子だ。
レオンハルトもとても人前には出れない顔をしていたらしい。
是非ともその間抜け面を拝んでやりたかった。
だが、そんな日々は早々に崩壊した。
ミリーナにある問題があったのだ。
ミリーナは"忌み子"だったのだ。
ポーリニア伯爵家がある隣国ーーアロンゾニア王国では、"忌み子"というものが存在する。
無論それは隣国だけの話で、今いるスターディオン王国などの他国ではその制度を導入するどころか、非難している。
"忌み子"であることは、目に見える形で現れる。
初めてその言葉を聞いた時は、さぞおぞましい証があるのだろうと勝手な推測を立てた。
本来あるはずの部位がない、とか。
反対に普通よりも多い部位がある、とか。
そんなふうに思っていた。
しかし、実際はなんてことはない。
ただ1つ左目の下に泣き黒子があっただけであった。
十字架のような形をした泣き黒子が。
言われてみれば違いに気づくというレベルだ。
確かに明らかに特異なものかもしれない。
動物の持つ、自分達と違うマジョリティーを排除したがる本能に基づいた感情を抱いたのだろう。
それに関しては、俺はイリジナ側を糾弾するつもりはない。
まあ、ソフィアはどうか知らないが。
だが、ソフィアや使用人達の話を盗み聞きしたところ、この黒子を持つ者は他者より魔力に恵まれ、総じて優秀な魔法を用いる者になるらしい。
大成を保証された証というわけだ。
では、何故イリジナ側のアロンゾニア王国では忌み嫌われるのか?
その答えは実に単純で、実に馬鹿らしいものだった。
十字の黒子は生後すぐに身体に現れるわけではなく、暫く経ってから突然表出する。
その突然現れるという現象が問題なのだろう。
アロンゾニア王国では、黒子を持つ者は強力な魔法を使えるため、悪魔に見出された者と認識されているらしい。
まるで自己中心的、いやマジョリティーによる異端審問的発想だ。
無論何も繋がりがないことはアロンゾニア王国以外では多くの者が認知している。
さらにいえば、一部の者達がこの黒子を持つ者に嫉妬された結果流された俗説に過ぎないとも考えられている。
そう、ただの僻みなのだ。
先のマジョリティーを排したがる性に関しては同意したが、俺はこの僻みという感情は許せない。
なぜなら、僻む暇があれば努力を重ねれば良いのだ。
絶え間ない努力を重ねていれば、目標となる者を除いた他者なぞ自分の眼中から消えてしまう。
僻むということは、その行為自体に何も生産性はない。
ただただ積み重ねられるはずの物を唾棄している無駄な行動に他ならないのだ。
だから、俺は僻むという行為を嫌悪する。
そんな愚かな思考で排除されたミリーナ。
自然と同情を寄せてしまう。
彼女だって好きだってそんな黒子を持ったわけではないというのに。
俺はミリーナの側に近寄り、その身体に触れようとする。
自分の身の近くに乳児がいるなんてどれぐらい振りのことだろうか。
壊れてしまわないだろうかと、恐る恐る手を近づけていく。
すると、ミリーナは俺の差し出した右手の人差し指を握り、にへぇと笑った。
他意のない喜び。
成長と共に淘汰されていく感情が伝わってきた。
自然と身体の奥底の方から何やら温かい気持ちが溢れてくる。
「お兄ちゃんだよ。」
言葉が理解できるわけがないことは分かっている。
でも、そう声を掛けずにはいられなかった。
目尻が下がり、口角が上がっていたことに気づく。
それから数秒経った後のことだ。
突然ミリーナは、びええと泣き出してしまった。
何かやらかしてしまったのだろうか?
今まで体験したことの状況に思わず戸惑ってしまう。
咄嗟にミリーナを抱いているソフィアに目を向ける。
「ふふふ、あらあらあら。」
俺の動揺など問題ないと言わんばかりに、早速ミリーナをあやしにかかる。
慣れたものなのか、ものの数秒で泣き止む。
そして、そのままミリーナは眠ってしまったようだ。
俺の人差し指を握っていた手の力が抜けていく。
そう言えば、俺も泣き真似とはいえ乳飲み子だった頃、ソフィアにあやされたことあったが何故か安心感を覚えていたな。
これが母性というものか。
イレギュラーとはいえ、まさか俺に妹ができるなんてな。
血の繋がっていない存在とはいえ、俺は兄になるとミリーナに言った。
言葉にした以上は兄として、ミリーナを守ってやらないといけない。
――またこの世界で守る者が増えてしまった。
ちなみにだが、この日のイリジナはグリフィスを連れて国境沿い中心に領内視察に赴いていたとか。
どうせ視察と名ばかりのグリフィスの売名だろう。
ミリーナを捨てたすぐの行動とは信じられない。
――この出来事を境に俺はイリジナ側に寄せる家族の情は捨てた。
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