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第23話 領都ラミーノ

評価欄下部に筆者の他作品に飛べるリンク(同サイト)を掲載するようにしました。

よろしければ、リンク先もよろしくお願いします。

案の定、宣告の日からグリフィスは事あるごとに俺に突っ掛かってくることになった。

中庭などソフィアの居住棟から出ると、ほぼ毎回だ。

ご丁寧に、他家の子息を取り巻きに引き連れてだ。


あまりにも煩わしかったので、次第に外へ出ることが億劫になってしまった。


そんな俺を見かねたソフィアが街の方へ出ることを提案してきた。

3歳にもなったことだし、市井の生活を知るという観点から見ても、ちょうどいい機会であると。

俺は迷うことなく、その提案に乗ることにした。




「ソフィア様だ!」

「そんなバカなことがあ…ホントだ、ソフィア様だ!」

「今日なんか催しあったっけか?」

「見て、隣に子供がいらっしゃるわ。噂の御子息かしら?」

「綺麗な顔立ち。絶対将来イケメンね!」

「食べちゃいたい位可愛い……どうにかお近づきできないかしら?」


そして、街への外出当日。

早速だが、ソフィアの人気という洗礼を受けていた。

囲まれたりはしないものの、道を歩くと注目が集まってくる。

校内を歩く高嶺の花を見る大勢の学生みたいな感じだ。


「ふふふふ、ご機嫌よう。」


対するソフィアも慣れた様子で、上品なお嬢様みたいな感じで振る舞っている。

とてもじゃないが、屋敷で俺にひたすらベタついてくる人物と同じには思えない。


それだけならまだいいものの、中には俺の存在に気づく者まで出てくる。

まあソフィアに加え、周囲を4人の護衛で固められているところに子供1人いたら明らかに不自然だろう。

おかげで急速に俺という存在が拡散されていったのだった。


平時の屋敷に比べて、不特定多数の人目が多い街中で不用意な言動は慎まなければならない。

まだ俺は3歳児。

3歳児らしい行動をしないと、善悪関係なしに噂として広められてしまう。

注目を避ける為にも、無難に過ごさなくては。


ということで、顔を若干紅潮させてソフィアに抱きつき、恥ずかしいという素振りを見せる。

実は顔を赤らめたことは演技ではなく、恥ずかしがる様子を演じるという行為自体に羞恥心を覚えたため、自然と赤くなった。

お陰で、自然な表情を作れたと思う。


その結果、女性の観衆を中心に黄色い悲鳴が巻き起こった。

お気に召してもらえたようだ。


ただ何事も代償無くして、成果は得られない。

今回の代償は俺の行動に人一倍胸キュンを覚えてしまったソフィアに苦しいぐらい抱きしめられた。

想像以上の力に抵抗する間もなく、暫くされるがままになった。

……ぐふっ、今後はもう少し状況を鑑みて動こう。




当然のことながら、今いる場所は我がピアッシモン侯爵領の領都であるラミーノ。


ラミーノはピアッシモン家の屋敷を中心に扇状に発展した都市である。

一応ただの都市ではなく、屋敷の奥に広がる森を要害として利用し、人工の城壁と組み合わせた半城塞都市であるのだが、今回はその要素は関係ない。


扇状に広がっている為、屋敷の前に大きな広場があり、そこから何本かの大通りへ繋がっている。

その通り同士を繋ぐように横丁が張り巡らされた蜘蛛の巣のように道が広がっている。


日本同様に、大通り、横丁、路地の順で課税額が高くなっている。

そのため、大通り沿いにある物件は、ある程度の商業規模がなくては立ち行かなくなる。

中でも屋敷前の広場に面する土地にある物件は高所得であることを示すステータスだ。

結果として、必然的に高額商品を取り扱う店舗や複数店舗を展開する商会の拠点が多くなるようだ。



今回の外出で気になった店舗が2つあった。


1つ目が、本屋だ。

文化レベルが中世ヨーロッパと同等ということは事実らしく、こっちの世界でも紙は高級品のようだ。

屋敷で見た本以外で何か書き記されていたものは、多くが羊皮紙を利用したものだったからな。

理屈は理解できるものの、やはり前世とのイメージの乖離が激しかった。


ソフィアに甘えて、実際に店舗の中に入る。

本屋の店員は一瞬幼い俺が入ってきた時に怪訝そうな表情を浮かべた。

子供に高級品である本を汚されるかもしれないと思うと良い感情を持てないだろうな。

まあちょっと露骨すぎるようだけどな。

前世だったら、間違いなくクレーム案件だ。


ちなみにソフィアを視界に入れた途端、一転して満面の笑みを浮かべていた。


本屋は棚の中に陳列されているのみで、所謂平積みはされていなかった。

また、棚自体も大人の腰ぐらいの高さより上の部分しか陳列できないようにされていた。

どうやらとことん本が汚れそうになる要素を減らそうとしているようだ。


俺の目線の高さ的には、1番下の段の本しか視界に入れることはできない。

だが、見た限り大衆向けというよりも専門書のような本が多いように思えた。

無論漫画などというものは存在していない。


「ヴィーちゃん、何か欲しいお本ある?」


「んーと、えーとね……」


ソフィアのありがたい申し出につい乗ってしまいそうになる。

だが、ここは外だ。

小難しい専門書を強請る3歳児などありえない存在だ。


「なかったー。」


いくつか興味深い物はあったものの、今回は俺のチョイスは断念することにした。

だが、流石にこのまま帰ると冷やかしにしかならないので、何冊かソフィアが適当に選んで購入していた。

屋敷に戻ったら読んでみることにしよう。



もう1つの気になった存在は、本屋と違って、現代日本でついぞ見ることがなかった存在。

少なくとも、表社会で周知されていなかった。


それは、奴隷商だ。


奴隷、すなわち人身売買であるが現代日本では禁止されていた制度だ。

だが、裏社会の方では制度が廃れることなく、水面下ではまだ生きていた。

俺が関与したわけではないが、我が統世グループも黒い部分の方でその恩恵を享受していたのだ。


だが、この世界では一般的な物として認識されている。

現に屋敷でも奴隷らしき存在を確認している。


屋敷の書庫にあった本で知ったのだが、奴隷かどうかを判別する要素は首輪と身体に刻まれた紋の2種類が存在するようだ。

そして、どちらの印をしているかによって奴隷の扱いも変わってくる。


首輪をしている者が、金銭的な問題で奴隷落ちした奴隷、所謂借金奴隷である。

基本的に借金奴隷は奴隷である期間が有限である。

金銭的問題が解決さえすれば、奴隷から解放されることが可能になるため、着脱可能な首輪という措置が取られている。


一方の身体に紋を刻まれた者は、犯罪等の処罰で奴隷落ちした奴隷、所謂犯罪奴隷である。

ちなみに、戦争などの敗残兵で奴隷落ちする場合はこちらに該当するようだ。

なぜなら、奴隷であることを示す奴隷紋は、刻まれたら生涯消えることがないように施される。

そのため、先の借金奴隷とは違い、犯罪奴隷になった者はそれ以降死ぬまでその身分から脱却することは叶わないことになっている。

また奴隷紋は、手の甲や首元など比較的他人から見えやすい位置に刻まれる。

そのおかげで、いかに振る舞いを変えようが、すぐに見分けがつくようになっているようだ。


ちなみに我が屋敷にいる者は、皆首輪をしているため、借金奴隷の方だけで構成されている。

犯罪奴隷をわざわざ貴族宅に置くのは、相当な物好きらしい。


広場前にあった店は、一見すると商会と変わらないような見た目であった。

外からでは、何を取り扱っている店なのか分からなかった。


個人的には、ペットショップのように販売している奴隷をディスプレイとして配置していると考えていたが、どうやら違うらしい。

強いて言うならば、首輪付きの奴隷が門番のように入り口の所に佇んでいたぐらいだ。


いくらか奴隷商というものには興味を持っていた。

人道的観点からすると甚だ愚かな所業なのかもしれない。

だが、商売的観点からすると、かなり狙い目なジャンルであった。


だから、建物の中へ入ってみたいという欲が出た。

しかし、残念なことに入店することは叶わなかった。

ソフィアが珍しいことに俺のやりたいことに難色を示したのだ。

まあ子供が来る場所ではないからな。


と思っていたのだが――


「うーん、まだ早いかな。ヴィーちゃんが5歳になった時まで我慢ね。」


想像していた言葉とは違うものが返ってきた。

どうやら5歳児になったら、行ってもいいらしい。

3歳児と5歳児、あまり差がないように思えた。

では、何故5歳になったら許されるのか?


帰り道にその謎は解けた。

あくまでも子供に語る口調だったので、しっかりと話を聞けたわけではないが、ニュアンスとして理解できた。 


5歳になったら、奴隷を持つことになるらしい。


これは貴族の慣習らしく、5歳から成人するまでの期間、奴隷を1人以上側仕えとするようだ。

目的までは教えてもらえなかったが、大方身分が高い者としての振る舞い方、配下を管理する力をつけさせるためなのだろう。


別に側仕えに奴隷が欲しいとは思わないが、経験としては是非積みたいものだ。



街への外出は、個人的に満足のいく物となった。

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