第21話 2度目のチャンス
今話よりサブタイトルをつけていこうと思います。
そのため、以前投稿した分も含めて、サブタイトルを更新しました。
内容自体に変わりはありません。
また、読みやすいように一定の期間ごとに章分けすることにしました。
あくまでも目安程度のものとなりますので、予めご了承ください。
「い、如何されましたか!」
リーラの叫び声は今日一番のボリュームであった。
そのため、案の定扉の外にいた使用人が部屋の中へと駆け込んできた。
「何でもありませんよ。ただ私がもう令嬢としての教育を受けていると言いましたら、リーラさんが驚かれてしまって…」
「す、すみません。つ、つい驚いてしまって…」
レイナは動揺を見せることなく、使用人にでっち上げた。
表情1つ崩さないのは、前世を含めた教育の賜物だろう。
使用人はその説明で一応の納得を得たのか、再び部屋の外へと出て行った。
その際、リーラのことを母親であるアマンダに言いつけておく、と言い残して行った。
どうやら、この後リーラはお説教コースらしい。
若干血の気が引いた顔色をしていたからな。
「け、結婚ってどういうことですか!」
だが、それでも先の発言が気になってしょうがないようで、声のトーンを落としつつ詰め寄ってきた。
「どういうこともなにもな。その言葉の通りだが?」
「だ、だって、その言い方だと、前々から好き合っていたように思えて…」
「ええ、おそらくそうだと思いますよ。少なくとも私はそうでした。」
「俺も元々好きだったぞ。何ならほぼ一目惚れだ。」
「ふふふ、初めて会った時にビビッと来ましたものね。」
良かった、どうやらその辺りの記憶は残っていてくれたようだ。
レイナとなっても忘れない、大切な思い出になっていてくれたことが嬉しく思える。
「え、だって、教室で散々宝城君が婚約者だみたいな感じで振る舞ってたし…」
やっぱりその点で引っかかるよな。
「それは事実だぞ?」
「そういうことにはなってしましたね。」
そう、麗奈が宝城の婚約者であったことは紛れもない事実だ。
我が家にも両グループ当主の連名で通達されていたから、書面にも残っている。
「じゃあなんで?」
うーん、素直に教えていいものか。
「彼との関係はあくまでも婚約者。別に結婚したわけではありません。それに元々高校卒業後に駆け落ちするつもりでしたし。」
「お、おい。」
「ええーーー!」
まさかのレイナさんの口から真実が語られるとは。
しょうがない、ここまで言ったのなら真実を語ってもいいだろう。
「はあ、実はな――」
俺と麗奈は幼い頃にほとんど一目惚れに近い形でお互いに好意を抱き、将来を誓い合った。
それは小学校、中学校、高校と時間が経とうとも変わることはなかった。
だが、お互いにグループ会社創業者の家系に生まれた身。
そこに自由など存在しなかった。
小学生になろうとした時分に、俺は当主である祖父に麗奈と婚約したいという旨を申し出た。
しかし、現実は残酷なことで、祖父はその懇願を一蹴した挙句、婚約者は既に選定済みだとさえ言われたのだ。
しかも、麗奈の方も己の知らない所で宝城グループの方と縁談を組まされていた。
政略結婚というやつだ。
後日、再会した時に俺と麗奈はこの世の非情を嘆いた。
非情を嘆いても、お互いの婚約者と会っても、お互いの心に宿った想いが消えることはなかった。
むしろ年を経るごとに、強くなっていったようにさえ思えた。
遂には、中学生になった時期に、なんとかして一緒になろうと決意し、計画を立てた。
その方法は勿論、駆け落ちだ。
麗奈と宝城の婚約関係は高校在学中までの間で、高校卒業後に結婚という運びになるという流れになっていた。
だが幸いにも、この流れには1つの穴があった。
高校在学中は婚約、高校卒業後に結婚。
一見すると、全くもって穴などないように思える。
しかし、高校を卒業してから、結婚を行うまでという極僅かな時間。
ここは何も縛られていないことに気付いたのだ。
通常であれば、これは屁理屈なのかもしれない。
だが、勝機を見出すには十分過ぎる隙となった。
駆け落ちが実行できるとなれば、下準備を行わないといけない。
俺達はその日から努力を開始した。
俺はまず統世グループ全体を司るサーバーの中枢システムをハッキングし、要所の管理権限を奪取。
この権限を盾に実家からの介入を防ごうとした。
麗奈に関しても同様のことを行ってもらった。
ちなみに、この事実はこの世界に転生してくるまで、露見することはなかった。
また、2人とも自分が自由に使える資金を用いて、為替や株式などの証券取引を行い、駆け落ち後の生活資金の拡充に精を出した。
勿論口座は、某国にある足がつきにくく、信用のできる金融機関に用意した。
平時は他人の振りをしつつ、水面下では強固なつながりを持つ。
他者にバレることなどないよう、万全を期して動いたのだった。
そして、いよいよタイムリミットが近づこうという時に、今回の転生騒動に巻き込まれたのだ。
「――ということだ。」
「うーん、何だか違う世界の話を聞いているようで、脳内の処理が追いついてないかも。」
頭を抱え唸るリーラ。
まあ、突然赤の他人同士と思われていた2人が駆け落ちしようとしていたとか言えば困惑してしまうのも無理もないだろう。
それにしても、リーラに語ったおかげで、この世界に来れて良かったと思えてきた。
駆け落ちなんてしなくても、一緒になれるチャンスが生まれたのだ。
これで、もう転生前の地球に思い残すようなことはなくなった。
しかし――
「まあ、結婚してくれと言ったものの…」
「ええ、この世界もまた政略結婚のある文化ですからね。」
悲しいかな、貴族身分であるが故にまたも大人の事情に翻弄されてしまう恐れがある。
この世界では婚約は10歳以降にならないと交わせないという不文律のルールがある。
古来から守られているため、今更表立って破ろうとする者はいない。
しかし、これはあくまでも建前。
実際は幼い頃から、水面下での事前交渉が行われている。
勿論それは口約束、絶対なものではない。
普通に解消されることも少なくなく、いざ蓋を開けたら別人と結婚していたなんてこともあるらしい。
だが、婚約者を早く探さないといけない者、特に貴族にとってはかなりありがたい暗黙の了解となっている。
10歳になってから相手を探すなんて悠長なことなんてしていられない。
貴族の婚姻は両家のルールのすり合わせや、協力関係の構築など時間を要するのだ。
予め決めておくことに越したことはない。
まあ幸いにして、俺にもレイナにも、未だ婚約云々を耳に挟んではいない。
けれども、いつ組まれてもおかしくはない。
もしかしたら、既に交渉されているのかもしれない。
とりあえず俺はソフィアに頑張って強請ることにしよう。
「とりあえずお互いに婚約者を作られないようにしようか。」
「ええ、そうしましょう。と言っても今生の祖父は過保護なので心配なさそうですが。」
どうやら前世よりもレイナとの未来は明るそうだ。
「そう言えば、レイナは前世の記憶をどれぐらい保持しているんだ?」
俺とのことを覚えてくれていて嬉しかったものの、〈既存知識保護〉がどれくらい有効なのか気になった。
「広く浅くといった所でしょうか。それぞれの細かい所までは、頭の中には残っていませんね。」
まあ俺と似たような物か。
あらゆる分野に精通せざるを得ない創業者一族に生まれたのだから、当然と言えば当然か。
ちなみにリーラは知識で言うと、基本的にゲーム関連の物ぐらいしか覚えていないらしい。
例えばだが、当時の日本の首相は誰だったか聞いてみたが、まるで覚えてなかった。
というよりも、首相という概念すら若干曖昧らしい。
要は基本的にゲームの知識と小学生レベルの一般教養といったところだ。
それから、しばらくは転生後にあった話をした。
今は俺とリーラが出会い、この世界の真実を教えてもらうというくだりであった。
「へえ、この世界は恋愛ゲームの世界とやらに似ているですか。」
「うん、そのゲーム、菱宮グループ傘下のスクエアアミューズメントで作られたやつなんだけどね。覚えてたりしない?」
「いえ、残念ながら記憶には…」
「まあ、まだβテストの段階だったから無理もないか。ゲーム以外も菱宮グループやってたもんね。」
ん、ゲーム?
そう言えば先ほどリーラからレイナリアというキャラクターの説明を受けたのだが、こうしてみると違和感がある。
《誘惑者》という強力なクラスを持つから気をつけろ、と散々注意を促された。
しかし、よくよく思い出してみれば、レイナか転生前のカプセルトイで当てたクラスは《魔導士》と《結界師》であった。
この差異はどうなったんだ?
「なあレイナ、自分の持っているクラスって分かるか?」
「え、クラスですか?」
「あ、そうだ、クラス!クラスって何か分かる?」
どうやら、リーラも気付いたようだ。
「え、えーと、ステータスプレートが出せないので確認しようがないのですが…」
5歳まで見れないようになっていることをすっかり忘れていたな。
このリアクションを見るに、能力の詳細とか見てないパターンか。
「なあ、リーラ。ゲームのレイナリアってストーリーに結構絡むんだよな?重要キャラって認識で合ってる?」
「う、うん…」
「レイナリアが出てくるシーンを飛ばしたとして、ストーリーは最後まで行くのか?具体的には、魔王とやらを倒せるまで。」
「可能性はなくはないけど、厳しいかもしれない…」
「魔王に負けたらどうなるんだっけ?」
「……人類側が敗北して、BAD ENDだね…」
「「…………」」
思わぬ所で破滅フラグが立ってしまった。
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