第20話 待ち望んだ再会
かなり間が空いてしまい、申し訳ございません。
目の前にいる存在は確かに幼くして、既に美女になるだろう片鱗が見えていた。
窓から差し込む夕焼けの色と相まって、一枚絵になりそうであった。
なるほど、異性の男なぞ簡単に手玉にとれそうだ。
現に隣にいる同性であるはずのリーラも、ヤバイとか言って絶句してるぐらいだ。
「初めまして、レイナリアと申します。遠い所よくおいでくださいました。」
彼女の容姿で呆気に取られている俺達に対して、丁寧な言葉遣いで挨拶をしてきた従姉妹。
しかも、綺麗な動作のカーテシー付きでだ。
どうやら教育が行き届いているようで、俺と同い年の子供とは思えないな。
流石ゲームの主要キャラと言ったところか。
「ほら、ヴィーちゃん、リーラちゃん、ご挨拶は?」
「ヴィクトルです。よろしくお願いします。」
「リーラと申します。」
ソフィアに促されたので、無難ではあるが挨拶を返す。
ちょっと大人びた子供程度の言葉遣いだ。
着席を促され、レイナリアが座っているソファーの机を挟んだもう一方のソファーに俺とリーラが座る。
当然のことながら、俺はソフィアというチャイルドシート付きだ。
初対面の女子の前であるため、いつも以上に気恥ずかしい。
それから、しばしの歓談となった。
挨拶の時点で把握していたが、やはり早熟した受け答えをしている。
小学生でもこんな上手にリアクションできないぞ。
だが、しかしながら、何というか違和感があるな…
「あ、ごめんなさい。ちょっと席外すわね。」
しばらく経ったあたりで、ソフィアが席を立とうとした。
今までの経験上、お小水のためだろうな。
俺も慣れたもので、すぐにソフィアの上から退き、ソファーに座り直す。
そして、ソフィアが部屋から去ったことで、会話が一時途絶える。
まあ初対面同士が残されれば、何らおかしくない展開だ。
せっかくだし、俺から話題を提供するかな。
だが、状況は違う方向へと動いた。
「使用人の皆様、一度部屋より退出してもらえますでしょうか?」
レイナリアが突然こんな提案をしてきたからだ。
レイナリア側の使用人達は予め打ち合わせしていたのか、すぐに部屋から出ていく。
しかし、俺達側の使用人は突然の提案に戸惑いを見せた。
身内とはいえ、俺達から目を離すことが憚られたからだ。
だが、この提案はいいチャンスになるかもしれない。
向こうはおそらく極力他者の耳に入り難いことを話したいという意思表示をしているのだ。
それすなわち俺と対話したいことがあるということだろう。
一応リーラも使用人に類する立場であることは告げているからな。
俺も先に認識した違和感を解決させたかったため、提案に乗るのも吝かではなさそうだ。
まあ可能性として、《誘惑者》のクラス能力で俺を虜にしたい場合もあるうるので注意が必要だがな。
「せめて、リーラを残してもいいでしょうか?」
極力人を減らしたいと思われるレイナリアと、俺を1人にはできない使用人達。
この状況を進展させるため、折衷案になるかどうか分からないが、俺はそう提案してみた。
「ええ、構いませんよ。」
レイナリアはあっさりと俺の提案に乗ってきた。
どうやら俺の推測したことである可能性は高いらしい。
一方の使用人サイドは渋々ながら肯定する形となった。
まあ遠回しに俺から使用人達への命令になってしまったからな。
納得せずとも同意せざるを得ないってところだ。
使用人達が去り、部屋に残ったのは側から見たら子供という3人だ。
少なくとも俺とリーラは精神年齢20歳に近いから、詐欺もいいところだろう。
「……去りましたね?」
確認するようにレイナリアは口を開いた。
それと同時に纏っていた雰囲気が僅かながら変わった。
「ええ、僕達3人だけです。」
警戒しながら、俺は適当な返事をする。
一応、部屋に入る前にある布石だけは打ってあるが、果たして役に立つのかは分からない。
「ふぅ、では……」
来るか!
「改めて挨拶しますね。此度はフィアンソロフィー公爵家三女として生を受けた、レイナリア=フィアンソロフィーと申します。どうか今生ともよしなに…」
そう言って、ソファーに座ったままであるがお辞儀をするレイナリア。
綺麗な所作であったものの、その礼はどこか既視感を覚えるものであった。
身構えたものの、何故か2度目の挨拶が来た。
始めは呆気に取られ、リアクションすることが叶わなかった。
しかし、今の挨拶を反芻していると理解が追いつき、レイナリア、いや目の前の女性の正体にだんだんと分かってきた。
「……なるほど、転生者か。」
明らかに大人びた言動、それが転生者であるが故というのなら得心がいった。
そして、その事実を俺達に開示した。
これが示すのは、あの場にいた誰かであるということ。
リーラもとい紫から聞いた話だと、彼女は俺の次に転生することになったという。
そのため、誰がどこへ転生したのか分からない。
だが、俺達が転生者であることを知っている。
つまりは俺達の転生を見ていて、なおかつ転生先を把握していたということだ。
「ええ、そうです。私も貴方達同様に転生した者です。」
「なら俺達も子供の演技は止めさせてもらおう。それで、一体誰なんだ?」
「あら、他ならぬ貴方なら知っているのではなくて?」
ああ、知っているとも。
この打てば響くような切り返しに、先程既視感を覚えたお辞儀。
おそらく十中八九彼女であろう。
だが、俺は確証を求めた。
「見当はついたのだが、それが合っているか自信がない。1つ質問するから答えてくれないか?」
「はい、どうぞ。」
「俺の転生前の名前は?」
「しょっ…太郎さん。負田 太郎さんです。」
ニッコリと微笑みながら質問に答えてくれた。
一瞬言葉に詰まったかのような反応を示した。
これは偶然のように思えるが、その実違うことは表情を見れば分かる。
敢えてその答え方をしたのだと。
俺の本名を知っている人物などたかが知れている。
ここまで来れば間違いなく彼女だと答えを得た。
「久しぶりだな――麗奈。」
レイナリアの正体は、菱宮 麗奈であった。
菱宮グループの令嬢で、幼馴染で、俺の初恋の相手。
「ふふふっ、お久しぶりですね。太郎さん。」
「ああ、まさかここで会うとは思わなかったな。」
思わず笑みが溢れてしまう。
心の底より歓喜という感情が湧き上がってくる。
それは出逢えたということに対するものだけではない。
この世界ならきっと前世の願いを叶えることができると思うと、より気分が高揚してきてしまう。
いかんいかん、落ち着け落ち着け。
先走っていいことなどないのだから。
「え?あ、え?菱宮さん?」
呼吸を整えてリラックスを図ると、若干1名がパニックなっていることに気づいた。
ああ、そう言えばリーラは何のことだか分からないだろうからな。
「悪い悪い、置いてけぼりにしてしまったな。リーラ、レイナリアの正体はクラス委員長やっていた菱宮 麗奈だ。で麗奈、リーラの正体は本清 紫で、今は俺の侍従見習いをやっている。」
「きちんとお話しするのはこれが初めてかもしれませんね。改めてよろしくお願いします、本清さん。それとも、リーラさんと呼んだ方がいいでしょうか?」
「え、えーと、リーラでお願いします。よ、よろしくお願いします、菱宮さん?」
「私のことはレイナと呼んでくださいませ。あ、太郎さんも同様にお呼びください。」
「分かった、レイナ。俺のことはヴィクトルと呼んでくれ。太郎はちょっとな。無論アレもな。」
「ふふふ、かしこまりました。」
未だリーラの理解が追いついてなさそうではあるが、真の意味での自己紹介を終えることができた。
どうやらこの世界でも麗奈はレイナらしい。
ありがたい偶然、いや必然だったのかもな。
やがて、事態が飲み込めたのか、リーラは俺に疑問を呈してきた。
「ちょ、ちょっと、ヴィクトル。菱宮さんと知り合いだったの?」
「ああ、そうだぞ。ま、それについて話すと必然的に俺の生い立ちについて聞くことになるけどいいか?後悔することになるかもしれないぞ?」
「な、なに、その自分で話のハードル上げる感じ。そこまで言われると聞きたくなっちゃうんだけど。」
「まあどうせ過去の話だから構わないんだが、俺は予め忠告はしたからな?」
そして、俺は自分の名前が負田 太郎ではなく、統世 勝利であること、統世グループの跡取りとして、英才教育を受けていたこと、麗奈とは古くからの知り合いで幼馴染であることをかいつまんで話した。
あまり詳しく話すと時間が足りないからな。
少なくとも大学の2単位分の講義になってしまう。
「え、嘘!ヴィクトル、あの統世グループの御曹司だったの!」
「しっ、声がデカイな。あまり大きな声出すと、外にいる使用人達が入ってくるぞ。」
「ご、ごめん。あまりにも驚愕の事実すぎて……なんか宝城君が教室でぶいぶい言わせてたのが可哀想に思えてきた。」
「言ってやるな。もう過去の話だ。俺達はこの世界で生きて行かなきゃならんのだから。」
ふと、レイナと目があった。
お互い視線をずらすことなく、見つめ合う。
レイナの瞳に宿るは、期待、緊張、そして親愛。
ここしかない。
ここで言わなくてどうするのだ。
前世の宿願を果たすのは今この時ぞ。
「レイナ、俺はこの世界で再び巡り逢えたら言おうと思っていたことがあるんだ。」
「奇遇ですね、私もですよ。」
俺はニヤリと笑い、レイナはニコリと微笑む。
ふっ、まさか覚えていてくれたとわな。
「俺と――」
「私と――」
「「結婚しよう(しましょう)!」」
「え、え、えーーー!」
そして、リーラの絶叫が響き渡ったのだった。
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