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第19話 悪役令嬢に備えて

前半部分は第三者視点でギデオンが行う会議の様子です。

召集をかけたギデオンはそのまま会議室へと赴いた。

召集対象は今の時間帯だと屋敷周辺にいるため、長時間待つことにはならないためだ。


そして、やはりというか、ギデオンが会議室に着く頃にはほとんどの者が揃っていた。

いないのは、先ほどまでソフィアの護衛の任に就いていたフェルナンだけであった。

そのフェルナンも数分もしないうちに姿を現した。



「――まずはフェルナン。ソフィアの護衛、大儀であった。」


「いえ、当然のことで。」


「うむ、そうか。」


ギデオンはそこで言葉を紡ぐことを止めた。

本来であれば、淡々と次の話題へと変じていくはずなのだが、今回はそうではなかった。

だが、集められた側近達も薄々と感づいていた。

今日は何かが違う、と。


「……フェルナン、護衛途中に何か感じたことはあったか?」


ギデオンは再び護衛の話題を蒸し返した。

フェルナンは意表を突かれ、それに応えるべく数瞬の間思考を巡らせた。


武力方面の側近といえど、公爵家の側近。

その一言だけでフェルナンは何を求められているのかを理解した。


「……これは後ほど報告に伺おうと思っていたのですが…」


そして、フェルナンは盗賊襲撃の事の顛末を詳らかに報告した。

無論フェルナンもヴィクトル同様に盗賊やピアッシモン侯爵家側の騎士達に対する違和感を持っていたことを告げた。


「……やはり、か…」


「?やはりとはどういうことでしょうか?」


側近の1人がギデオンに先を話すように促す。


「本格的にポーリニアが動き始めた可能性が高い。」


会議室内は一気にざわつき始めた。

ギデオンはそう断じ、そう判断した理由を述べ始めた。


今回の盗賊襲撃の一件は、ピアッシモン侯爵家を完全に手中に収める為、継承権を持つヴィクトルとその親であるソフィアを狙った襲撃であるということ。


最初に盗賊に扮した第一陣が襲撃し、その第一陣だけでは仕留めきれないと判断したところで第二陣として近くに伏せていた騎士達を送り込んだという流れだ。

だが、生憎フェルナンという公爵家側近の中でも武闘派がいたため、任務の遂行を断念し、盗賊の捕縛というシナリオに切り替えた。

そして、第一陣を捕縛されて、拷問等によって情報漏洩してしまうことを避けるため、盗賊達の引き渡しの要求を迫ってきたのだ。

事実今述べたことは推測の域を出ないものだ。


ちなみにだが、盗賊はポーリニア側が派遣した傭兵、現れたピアッシモン侯爵家の騎士達はイリジナあるいはコーネリアの息がかかった騎士達であるとギデオンは踏んでいる。


不可解であった点の整合性が取れたことにより、一気にポーリニア伯爵家の暗躍の事実が現実味を帯びてくる。

ただ証拠はものの見事に相手の手中に収められている。

盗賊の引き渡し要求をしたとしても、おそらく既に処刑済みとでも宣うに違いない。

今回は完全に後手に回ってしまっていた。


ギデオンも含め会議室内にいる者の表情は苦々しいものへと変じていった。

中でもフェルナンは一際苦虫を潰したような顔をしていた。

なぜなら、自分の判断でその証拠をみすみす相手に譲ってしまったからだ。


証拠がない以上、ピアッシモン侯爵家及びポーリニア伯爵家を糾弾することはできない。

だが、何もしないという選択肢はない。


ピアッシモン侯爵領方面の警備を厳重にして、有事に備える。

侯爵領及びポーリニア伯爵領内に間者を送り込み、情報収集に力を入れること。

これらを実行することになった。


ひと段落ついた所で、フェルナンは先ほど気になったことをギデオンに問うた。


「ギデオン様、此度の件なのですが、予め知っておられたように見られたのですが、どうしてなのでしょう?」


「ああ、実はな、ヴィクトルの奴めが先に儂に報告してきたのだ。」


「「「なっ!」」」


「とてももう直ぐ3歳児という時分には見えんな。同じ齢のころ、儂なぞ騎士相手に手加減してもらって木刀を奮っておっただけだぞ。彼奴は儂を超える傑物よ。」


その一言により、会議室はまた騒がしくなった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――ねえ、ちょっといい?」


「うぉ!」


早速ソフィアと従姉妹のところへ向かおうしたところで、背後から声が掛けられた。

俺にこんな話し方をしてくるのは1人しかない。


「なんだ、リーラか。」


案の定の人物であった。

まあ一応俺の侍従見習いであるため、側にいてもおかしいことは何もない。


「何のようだ?これからソフィアの元へ向かわないといけないんだが。」


「相も変わらずマザコンね…まあいいわ。ちょっと時間貰える?契約を結んだ以上はやるべきことはやらないといけないからね。」


……契約…

ああ、恋愛ゲームの主要キャラと会うことがあったら、その前に情報を教えてくれというやつか。

このタイミングで話しかけてきたということは、従姉妹がその主要キャラというパターンか。


俺はアラフィフに部屋に案内するよう指示を出されていた使用人に少しばかり待ってもらい、リーラから情報を仕入れることにした。

外聞的には、従姉妹と会うことに対する緊張を解す為と伝えた。

これならここでリーラと話すことに対する違和感を緩和できるだろう。


「従姉妹が主要キャラの誰かということであっているか?」


「ええ、そうよ。正しく言うと、悪役キャラの1人ね。まさかこんな早く会うとは思わなかったわ。」


悪役キャラ、この場合は悪役を務める貴族令嬢ということで悪役令嬢と呼称すべきか。

流石に身内にいるとは思いもしなかった。


だが、それならそれでもっと早く教えてくれても良かったのではないか?

フィアンソロフィー公爵家と繋がりがあることは重々承知していると思うんだが。


「俺の母の生家といい、お前の母の仕え先なのだから前もって教えてくれてもよかったんじゃないか?」


「うっ、いや、ね、作中だと、既にこの時期から王都の屋敷で放蕩三昧で過ごしていたはずだから、会わないと思ってたんだよね…」


なるほど、原作とは違う展開。

つまり、何かしらのイレギュラーが起きている可能性があるということか?

まあだが、登場キャラなら恋愛ゲームのストーリーに絡んでくるのは必至。

情報の信用性は若干落ちたものの、予め情報を聞いておくに越したことはない。


「リーラ、話してくれ。」


「オッケー。」



レイナリア=フィアンソロフィー。

3公爵家の1つ、フィアンソロフィー公爵家の次期当主の三女。

肩甲骨あたりまで伸びるソバージュがかった漆黒の

髪に、瑠璃色の瞳を持つ。

末娘ということで両親から甘やかされ、その結果自分の思い通りにならないと気が済まない、強欲な性格になってしまった。


ゲームだと事あるごとに主人公に嫌がらせを行うTHE悪役令嬢キャラ。

女主人公の場合は、その攻略対象キャラを誘惑したり、主人公に関するある事ない事を吹聴する。

男主人公の場合は、主人公を誘惑したり、その誘惑している様子を攻略対象相手に見せつけたりする。


そんなレイナリアの持つクラスは、そのものずばりで《誘惑者》。


魅了系最高位のクラスで、能力に対抗するスキルを持たない異性は命令に従うだけの人形のようになってしまう。

作中の解説であったらしいのだが、歴代《誘惑者》のクラス持ちは容姿に恵まれる傾向にあり、それ故に傾国の美姫と称されてきたらしい。


一方で個人の戦闘能力としてはイマイチで、そこに活路を見出すことができる。

ゲームでも、自分の狙う男性キャラを誘惑されたことに怒りを覚えた女性キャラによって打倒されるという展開があったらしい。

まあ、実際は周囲を守る虜にされた男達との戦闘があり、作中屈指の難易度だったらしいが。



「……なるほどな。」


俺はリーラから聞いた話をまとめながら、溜息を吐きたくなった。


転生前に似たような存在の女性と会ったことがあるからだ。

一応俺の婚約者ということになっていたエリザベス嬢がそれだ。

傾国とまではいかないものの優れた容姿に、甘やかされた末に形成された傲慢な性格。

異性に愛されて当たり前というか、当然のように常に数人の美形を侍らせていたっけな。

何度か会うことになったが、非常に居心地が悪かった。


クラスとかファンタジー要素がない世界でもあれだったのだ。

《誘惑者》持ちの令嬢ともなれば、そのレベルも段違いだろう。

もし既にクラス能力が発現していたら、俺なぞ格好の標的になるだろう。


ここからは油断できないな。

腹を括って、気を引き締めていかなくては。


俺はリーラとの会話を待っててくれた公爵家の使用人に準備ができたことを伝えた。


そして、その使用人に案内され、件の従姉妹が待つ部屋へと向かった。

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