第18話 領都ティネウェア
すみません、リアルがちょっと多忙で、暫くの間更新頻度が落ちます…
申し訳ございません…
ピアッシモン侯爵領を出発した時に思ったことをフラグとして完全回収してしまった今回の道中。
気づけば、フィアンソロフィー公爵領の領都が目前に迫りつつあった。
昨日泊まった宿泊地は、その前日に泊まったロンデバルよりも規模は小さかった。
しかし、ロンデバルが侯爵領有数の街であったのに対して、昨日泊まった街は公爵領基準で中の上程度だったらしい。
そこはかとなく経済レベルの差を感じた。
そして、今日の道程。
先2日にあったイベントのようなことは何も起こることなく、順調に進んでいった。
というかその進行スピードが段違いだった。
ここ2日間のスピード比でおよそ1.2倍ぐらいは違った。
その要因の1つが、整備された街道にあった。
ピアッシモン侯爵領内を進んでいた時は、地面は明らかな凹凸があり、所々に剥き出しの石が目立っていた。
しかし、今や馬車の下の街道は石畳になっていた。
いつから街道の材質が変わったか気付いていなかったが、少なくとも公爵領に入ってからなのは間違いない。
馬車にかかる抵抗が少なくなった分、速度が速くなっていたようだ。
領都にほど近い高台から見えてきたのは、まるでイタリア旅行に来たかのような風景であった。
そう、テレビの旅番組で一度は目にしたことがあろう都市、ヴェネツィアを彷彿とさせた。
まあ俺は転生前に足を運ぶ機会があったので、なおさらヴェネツィアのように感じた。
フィアンソロフィー公爵領は王国の東側にあると言うことで、海に面している。
そんな公爵領の領都はここから見る限りではあるが、大きなラグーンの中にあった島や周囲の浅瀬を中心に建設された都市のようだ。
陸上、水上問わずに建物が建てられ、移動には水路が使われているように見える。
水場であることを利用した二重の堅牢な城壁の間は完全にラグーン内の水で満たされており、かなり完成され尽くした防衛システムを組み上げているように思えた。
内面の思考はおくびにも出さずに、外面の俺は純粋なキラキラとした目を街に向ける。
そんな俺の様子に気づいたソフィアは、ニコニコしながら頭を撫でて来た。
「ヴィーちゃん、あれが今から行く街でママの産まれた所よ。ティネウェアって言うのよ。あそこでお爺様 が待っていますからねー。」
お爺様、すなわちあのアラフィフが待っているのは、おそらく都市の中心部に見える、少し小高い所にある宮殿なのだろう。
スペイン南部で見た世界遺産の宮殿に近い形をしている。
城の方が違和感なさそうだが、流石に公爵と言えど一領主ということで、それにはしていないみたいだ。
王国の法とやらで決められているのだろうか?
そして、高台から馬車は進み、無事ティネウェアに入都した。
この世界では、ある程度の大きさの街の中へ入るには入り口の門の所で身分確認というものが必要になっている。
最初の泊まった街ロンデバルに入った時は驚いたが、治安維持とか防犯のためだろうと自分の中で得心のいく答えを得た。
郷に入っては郷に従え、というやつだ。
そんな身分確認は、貴族とそれ以外とで行われることが変わる。
貴族は印章と呼ばれる紋章を刻まれた証のような物を提示し、それの真偽を魔法で判定される。
印章が正規のものであれば、一定の規模以下の場合は特に人員や馬車の中身を検められることもなく通過できる。
また、大規模であったとしても、ごく簡易的なチェックで済む。
しかし、もしここで偽物の印章と判定されようものなら即捕縛されるらしい。
らしい、というのは、ロンデバルの時に身分確認についてソフィアが教えてくれたのだが、この辺りのことをぼやかされてしまったからだ。
貴族以外の者は、クラスや犯罪歴などの個人情報を照合する水晶玉にここで触れさせられ、危険性をチェックされるらしい。
危険性が認められた場合は、これまた捕縛されるとのこと。
こちらの身分確認は、確認作業の手間や元々の貴族以外の者の多さにより、時間がかかってしまうそうだ。
遊園地やテーマパークのアトラクションを彷彿とさせる。
俺達はピアッシモン侯爵家ということで、勿論印章を用いた貴族用の身分確認だ。
フェルナン率いるフィアンソロフィー公爵家の者もいるのだから、顔パスでいいんじゃないかと思ったが、そこら辺のチェックはきちんとされるらしい。
なりすましや変装とかできる能力を持つクラスがあるんだろうな。
外側の城壁の所で身分確認を済ませ進むは、二重の城壁の間。
高台から見た時は水で満たされているように見えた空間だ。
実際に着いて分かったのだが、文字通り全てが水で満たされているわけではなかった。
内側の城壁へと通ずる道だけが干上がったように目の前に開かれていた。
イメージするのは、フランス西部にある某海に浮かんでいるように見える世界遺産の修道院。
所謂内側の城壁内を1つの陸地とみなしたタイダル・アイランドというやつだ。
そして、一度内側の城壁の中に入れば、馬車は侯爵領を出発した時とは比にならない歓声に包まれた。
四方八方からソフィアを褒め称える声が飛んでくる。
流石生家のお膝元、支持者というかファンが多いな。
ソフィアも羞恥心からか頬に朱が入ってしまい、馬車の窓についていたパーテーションで外から見られないようにしてしまった。
外の景色が見れなくて非常に残念である。
歓声という名のアーチを抜けた先にあったのは、高台から見えた街の中心。
そう、公爵家の屋敷と思しき場所であった。
外からの歓声がなくなったので、パーテーションはすでに取り払われている。
どうやら水路が主要な移動手段のようではあるが、貴族の馬車のためか屋敷まではきちんと道が整備されているようだ。
「やあ愛しの我が娘よ。よく来たね。大丈夫だったかい?途中変な目に遭ったりはしなかったかい?」
「はい、お陰様でこの通り無事です。護衛の方をつけていただきありがとうございます。」
「……なあ、ソフィア。もう少し砕けた態度でいいのだぞ?せっかくの帰郷なのだ。昔みたいにパパとーー」
「他の者の目もありますので。」
馬車を降りた先は、屋敷の入り口であった。
そして、当然の如くそこには過保護なアラフィフが待っていた。
……普通当主は自分の部屋なりで待機しているものだと思うんだがな。
それにしても……途中変な目に遭わなかったか、ね。
あの盗賊襲撃の一幕は該当しないのだろうか?
客観的に見たとしても、違和感に溢れていた気がする。
個人的にはあの一件は伝えた方がいいと思うのだが。
まあフェルナンをはじめとする護衛隊から報告が上がるだろう。
俺でさえ異常性を感じたのだ、この世界で生きている者ならことさら分かっているはずだ。
「――ヴィクトルよ、よく来たな。」
「ほら、ヴィーちゃんもお爺様に挨拶しましょうねー。」
おっと、いつの間にか親子の一幕が終わっていた。
アラフィフの興味が俺に移ったようだ。
アラフィフは一言だけ述べると、前分かり合った時と同様に手を差し出してきた。
口数は少ない、しかし俺に目で問いかけて来た。
(ソフィアを悲しませてはおるまいな?)
全て見抜かんとする鋭い目。
とてもじゃないが、3歳児に向ける視線ではない。
転生前を含めて20年以上生きてきた俺にも、若干クるものがある。
俺はしっかりと目を合わせ、アラフィフの手を握る。
可能な限り、強い力を込めて。
「じいじ、お久しぶりです。」
(悲しませるなんて愚かなことするわけないじゃないか。)
挨拶を返しつつも、目だけでアラフィフの問いに答える。
側から見ると何してるんだ、となるだろうが、何故か通じ合えてしまうんだよな。
「もう、ヴィーちゃんったら、お爺様って呼ぶように言ったでしょ?めっ!」
「よいよい、さあよく来たな。今日は家族水入らずで過ごそう。」
一気に破顔して、好好爺らしき表情に変化した。
あいも変わらず、表情の高低差が凄いな。
これは腹芸もなかなかのものなのだろうな。
「あら、そう言えば姪っ子はどこにいるの?産まれてから会う機会がなかったから楽しみだったのよねー。たしか…3歳だっけ?」
「ああ、そうだ。ちなみにだが、愛しの孫娘は上の階におるぞ。誰か案内してやってくれ。」
姪っ子か。
この言い方から察するに、俺に近い年齢の可能性が高そうだ。
この世界の高位貴族の子供の知能レベルを知れるいい機会になるかも知れん。
だが、まあ俺は今やるべきことをやらなくてはな。
「ねえ、じいじ。お耳貸して。」
「ん?」
「どうしたの、ヴィーちゃん?」
「ママは先に行ってて。じいじとお話ししたいことがあるから。」
俺からのお願いと姪っ子との会いたさから、素直に聞き入れて先に屋敷の中へと入っていくソフィア。
そして、俺はしっかりと盗賊の一件を伝えた。
まあだが、俺はまだ3歳児に満たない幼児に過ぎない。
3歳児が事細かに小難しい言い回しまでして報告しようものなら、怪訝な存在と思われてしまう。
あくまでも俺は子供という意識しながら報告するのは、なかなか骨が折れた。
「ふむ、そうか…」
一瞬だけ眉間に力が入った。
しかし、それはほんの一瞬のことで、すぐににこやかそうな顔に戻った。
「じいじは、やらなねばならぬことができてしもうた。後から行く故、先にソフィアの元へ向かっておくのだ。」
アラフィフは俺にそう言うと、使用人を誰もつけずに何処かへと去っていった。
その時、表情が真剣なものに変わっていたのを俺は見逃していなかった。
……後は権力者の大人に頑張ってもらおう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ビスマーク、おるか?」
「ここに。」
ギデオンの背後より現れるは、執事服を纏った老齢の男。
だが、その挙動に歳の衰えを感じる要素など皆無。
「会議を行う。急ぎ招集をかけてくれ。」
「御意。」
瞬間、ビスマークと呼ばれた者の姿は立ち消える。
その場にはギデオン1人残った。
そのため、ギデオンがポツリと溢した言葉は本人の耳に戻るだけで、他者に共有されることはなかった。
「……傑物か…」
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