第16話 初めての越境
少し遅れてしまいました…
フォレストウルフの襲撃後、特に異変が起こることもなく宿泊予定の街へ辿り着いた。
異変が起こることはなかったとは言ったものの、正直確証はない。
なぜなら、フォレストウルフとの戦闘を見てあまりにもテンションが上がってしまった代償に、まるでスイッチが切れたかのように馬車の中で眠りについてしまったからだ。
くっ、やはりもうすぐ3歳児の身体では活動時間は短いな。
俺は眠りは深い方ではない。
そのため、何か騒々しい音がすれば自然と目が覚める。
今回はそれがなかったということは、フォレストウルフほどのイベントはなかったと言えるだろう。
護衛の装備品も見た感じ消耗していなかったからな。
着いた街の名前はロンデバル。
ピアッシモン侯爵領側にある、フィアンソロフィー公爵領を結ぶ街道の領境に最も近い街だ。
領を行き来する商人が利用することが多いため、ピアッシモン領の中でも有数の規模を誇る街になっている。
正確な規模は分からないが、入門してから町の中心までかかった時間的に半径2km弱ぐらいか。
そして、街の中心部にある宿にチェックインという流れになった。
市内観光と洒落込みたいところではあるが、ソフィアの反対され、あえなく断念。
流石に抜け出してまでの観光はしたくなかった。
もうじき日が沈み、昼の店は閉店し夜の商売が始まる、街の様相が様変わりする時間だ。
とてもじゃないが幼児の身で出歩けるような環境ではない。
喧嘩に巻き込まれたり、誘拐されたりと何か騒動に巻き込まれる可能性が非常に高い。
そんな展開は絶対にごめんだ。
大人しく宿で待機することにする。
リーラも母親であるアマンダにおねだりしていた。
アイツは恋愛RPGに手を出すぐらいだ、このようなファンタジーな世界観に惹かれるのだろう。
俺よりもしぶとく食い下がっていたが、最終的には叱責されていた。
諦めの悪いやつで、その後もぐちぐち言っていた。
泊まった宿は、ここロンデバルで最も高価な宿であることをソフィアから教えてもらった。
いたるところに美術品が飾られており、この世界基準での価値を知らないため、万が一のことを想像して萎縮してしまった。
小さい子が遊び始めたら絶対に壊すだろうと思ったが、どうやら対策が取られているらしい。
魔法を使ってその場から動かないように固定しているんだとか。
あと、今回は特例で泊まれるが、そもそも普段は子供は泊まれないとも言われた。
食事も普段侯爵家で食べているものとは違って、満足のいくものであった。
貴族ということで、毎日豪勢な食事をしているのかと言われると、その答えは否である。
栄養バランスという概念があるのかどうかは分からないが、野菜主体で健康的な食事が多い。
まあイリジナ側ではどうなっているのかは定かではないがな。
ただやはりというか、いかにここが高級宿と言えど衛生事情は周りと変わらないようだ。
トイレはなく、おまる用のポットの中に排泄する方式。
非常に残念でならない。
裏を返せば、水洗トイレシステムを開発すれば一山当てれる可能性は非常に高いということだ。
将来的には、まず最初はその分野で商売するのが良さそうだ。
翌朝、日が昇った後に宿を出発した。
朝早いと考えてしまうが、この世界は基本的に太陽と共に生活するしている。
この世界の明かりは蝋燭などの火主体でたり、地球のように照明器具は発展しているとは言い難いため、
そのため、夜中心に生活する夜型になることなど非常に稀なケースだ。
元々転生前は家の教育上の関係で夜型だった。
夜に与えられる課題を必死にこなして、日中学校で居眠りなどをして英気を養っていた。
おかげで、劣等生扱いされて虐められてたんだよな。
未だにその考え方が抜け切ってないため、この生活に違和感を感じている。
「ほら見てヴィーちゃん、ここから先がお爺様の領地よー。」
魔物や盗賊に襲撃されることのない平和な道中。
気付いたら領境に差し掛かっていた。
ソフィアの言葉を聞いて、俺は馬車の窓越しに外の様子を伺う。
どうやら、今俺達は橋の上にいるようだ。
視線をずらせば、その橋の下を流れる少し幅広の河川が見える。
地球にいた頃地方の山間部で見たものと同じような澄んだ水が流れている。
ソフィアの発言を解釈すると、今までいた岸側がピアッシモン侯爵領、これから踏み入れる岸側がフィアンソロフィー公爵領ということか。
地形を利用した領土の決め方は地球でもメジャーなものであった。
どうやら世界が変わっても、その考え方は導入されているらしい。
橋を渡り終えたところで、騎士の格好をした集団が待機していた。
フルアーマーとまではいかないものの、しっかりとした装備をしている。
「ソフィアお嬢様、お待ちしておりました。」
その中でも、最も目立つ格好をした騎士が馬車の扉を開けて、臣下の礼をしてきた。
顔には横一文字の古い切り傷があり、思わず狼狽えてしまった。
歴戦の猛者とはこれ、と思わんばかり体躯をしている騎士の装備品に目を向けると、どこかで見たことのある紋章が描かれていた。
「あら、フェルナン久しぶりね。元気してたかしら?」
「ええ、おかげさまで。最近は部下の鍛錬が楽しくてしょうがないですな。」
「まあ、可愛そう。フェルナンは加減を知らないんだから、少しは手心加えてあげてね。」
「いえいえ、公爵様の為の剣と盾になるのが、我らの使命。生半可なことではいけませんからな。」
ああ、思い出したぞ。
フィアンソロフィー公爵家の紋章だ!
家族と考えるにはあまりにも他人行儀に思えるから、公爵の側近といったところだろう。
会話を聞いているに、軍事方面の重臣の線が濃厚だ。
ふーむ、そうなるとこの見た目にも納得だ。
その後話は進み、彼らは公爵領に入ってからの護衛らしく、これから先同伴するということが分かった。
なんで侯爵領からではなかったのかと思ったが、統治の都合上というピアッシモン侯爵側の意向に汲んだため、実現できなかったそうだ。
言いたいことが分からんでもないが、ちょっと違和感がある話だな。
妻が大事なら、万全の態勢を整えると思うんだが…
俺の疑問は解決することなく、旅は続く。
それからしばらく進むと、遠くの方から馬が嘶く声が聞こえた。
しかも、それは一頭だけではなく、何頭ものだ。
俺はチラッと窓の外に目を向ける。
すると、遠くの方に土煙がたっているのが見えた。
明らかに不自然な気がした。
俺がそう思うと同時に、護衛達が慌ただしく動き始めた。
フェルナンと呼ばれた騎士が陣頭に立ち、指示を飛ばしている。
どうやら順調な道程もここまでらしい。
そして、正体不明の者達に囲まれた。
良かったら評価の方よろしくお願い致します。
ブックマーク、感想、レビュー等頂けたら励みになりますので、併せてよろしくお願い致します。