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第10話 リーラとの取引

「この世界のことだと?」



リーラの言った言葉の意図が掴めず、怯んでしまった。

当のリーラはどこか楽しそうにニコニコしている。


この世界のことという酷く抽象的な言い方が気になる。

おそらくだが、この歳で親の目を掻い潜り、ちゃんとした書物に目を通せるようになったのだろう。

だから、その情報を教えてやるということか。


ただ書物で手に入る情報はいずれ俺自身の手でその書物を読めば事足りる。

情報を手に入れるのが早いか遅いかの差しかないのだ。

果たして聞く意味があるのか…


ここは不用意に借りを作る形は避けるべきか。

断ろうと口を開こうとしたところ、機先を制される形でリーラが捕捉してきた。


「んー、多分だけど考えていることはハズレ。適当な本とかで知れるような情報なら、こんな提案しないわよ。あと、それならこの世界なんて言い方しないで、世の中のことって言い方にする。」


なんだと、まるで意味が分からなくなってきた。


書物で得られない情報であり、なおかつこの世界に関する情報であると。

どんなものか想像がつかないな。


「……是非を決める参考にするためにいくつか質問に答えて欲しい。」


「しょうがないわねー。んー、まあ直接関係ない質問になら答えましょう。」


「まず、その知識を知っている者はどれぐらいの数いるんだ?」


「いい質問ね。知っているかもしれない人物はいるわ。けど、あくまでも知っている可能性がある程度。仮にいたとしても、片手で足りる人数じゃないかしら?」


「クラス能力で知れたってことか?」


「いえ、違うわ。転生前から受け継いでいる元々の知識よ。」


ということは、知っている可能性があるのは俺と同じ転生者達ということだな。

あと、言い方から察するに〈既存知識保護〉の対象になるかならないか微妙な線であるようだ。


俺が転生していなくなった後にあの場で何か語られたということだろうか?


そうなると、話を聞いておいた方がいい気がしてくる。

この場を逃すと、別の転生者にあって話を聞く必要が出てくる。

しかも、その転生者に会えるという保証はない。



「仮に取引に応じるとしたら、君は俺に何を求める?」


「え、取引してくれる気になった?」


「いや、これも参考にするための質問の延長だ。」


「つれないなー。まあいいや、こちらの求めることは1つ。わたしの身と生活の保障。」


「保障だと?」


「うん、この世界ってどこまでいっても身分とクラスがものを言うでしょ?今のわたしの身分は使用人で、平民。地球の頃と違って、簡単に身分が上の者から搾取されてしまう側。だから、そうならないように後ろ盾になってもらいたいの。」


「なるほど…」


「後ろ盾になってもらう以上、ちゃんとあなたのところで働くわよ。下手に離れたら、他の貴族からちょっかいかけられるかもしれないから。まあ、侍女ってことになるかしら。」


「ふーむ…」


「あー、役に立つか損得計算してるんでしょ?それなら安心して。わたし、きっと役に立てるから。取引に応じてくれたなら、わたしのクラス教えてあげる。この世界の知識とクラスの能力できっと役に立つから、ね?」


なんだか気づいたら、俺が求められる側になっているぞ。


まあ、いい。

聞いていたが、そこまで俺にデメリットがある話ではなさそうだ。

むしろメリットの方が大きい。

転生者を側仕えにしていたら、四六時中気を張る必要がなくなって、楽になりそうだ。


だが、立場が逆転した以上は、少しは要求しておくか。


「取引に応じてやらんこともない。だが、約束してくれ。侍女になってもらう分には、言動に注意を払ってくれ。俺の身分も正直安定しているとは言い切れない。それで変な厄介事を持ち込まれたら、堪ったものじゃない。」


「それは勿論。わたしだって、重々承知しているよ。」


その後も、お互いに契約の穴を埋めるように話を進めていく。


「よし、これで契約成立だ。これからはビジネスパートナーだ、何と呼べばいい?」


「うーん、リーラって呼んで。名前いじりされていたってこともあって、紫っていう名前そんな好きじゃないのよね。わたしはそっちの事なんて呼べばいいの?ヴィクトル?太郎?ああ、よそ行きの時はちゃんとヴィクトル様って呼ぶわよ。」


「ヴィクトルで頼む。太郎って名前は訳ありだから使わないでくれ。」


俺は身を乗り出し、手を差し出す。

2歳児の身体だから、テーブル越しに握手するのも一苦労。

なんだか、格好がつかないな。


しかし、リーラは一度手を差し出そうとしたものの、手を引っ込めた。


「?どうしたんだ?」


「口約束よりもいい方法があるの。わたしのクラス教えるついでにちょうどいいから、そっちにしようかなって。」


ここで使えるクラスって一体何だ?

クラス能力を知れるに越したことはないから、許可を出す。


するとリーラは、何もない空間から2枚の紙を出した。

そのうちの1枚を自分の前、もう1枚を俺の前に置いた。


「見てみて。」


俺はリーラに言われた通り、目の前にある紙に目を通す。

紙は、所謂羊皮紙のようなものできており、その割にとても光沢感がある仕様だ。

その紙には、今お互いが相手に要求した事項が羅列されており、下部に判子を押すような空欄がある。


「わたしのクラスは《契約士》。そして、これがわたしのクラス能力の〈契約書作成〉。ね、こんなのじゃあ守ってもらうしかないでしょ?」


なるほど、このクラスじゃあこの世界では生き辛いだろう。

契約に納得できなくなった者に殺されるリスクがある。

確かに誰かの庇護下にいた方が安全そうだ。


「それでこれをどうすればいいんだ?」


「んーとね、お互いの目の前にある紙の下の方にある空欄に血判を押すの。両方に押されると契約が結ばれる。やってみて。」


リーラはどこかに持っていたであろう針を俺に渡してきた。

一応毒とかを警戒して、布で拭った上で右手の親指にプスっと刺した。

次第に血が染み出してくる。

俺はそのまま指を紙の上まで持っていき、血判を押す。


しっかりと血をなじませるように置いた後に、指を離した。

離した指から血が滲み出ることはなく、いつの間にか傷口が塞がっていた。

どうやら血判を押すと、契約書の効果なのかすぐに傷口が治癒されるようだ。


「判を押したが、この後は?」


俺が先を聞こうとしてところで契約書に変化が起きた。

紙が急に輝き出し、光の塊に変わった。

その光の塊は紙の形から次第に球状に変化していき、俺の身体の中へ飛び込んできた。


咄嗟のことで反応できず、慌ててリーラの方に目を向ける。


「はい、これで契約成立ね。お互いの身体の中に契約書が保管されるの。契約書が見たいと思えば、頭の中で内容をいつでも閲覧できるからかくにんしてみて。」


「説明不足で何が起きたか分からなかったんだが…」


「ごめんごめん、次からは気をつけるよ。ちなみに契約書の内容はもう変更できない。例え作った本人であるわたしでもね。だから安心して契約内容を履行してね。ああ、契約内容を破ったらどうなるか聞きたい?」


「いや、いい。何となくだが想像はつく。」


「そう?まあ、身体の中に契約書が溶け込んでるってことで大体分かるでしょうけど。」


お互いの身体が人質ということか。

なかなかにえぐい対価だ。


だが、こちらとしての履行内容は容易だから問題はない。


「じゃあ早速この世界のこととやらを教えてもらおうか?」


すると、リーラは居住まいを正して、それまでの比較的朗らか表情を真剣なそれへと一変させた。



「では、教えましょう。この世界、いえ()()()()()()()()()()のことを。」

次回更新日は明日です。お見逃しなく…


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