第1話 よくある始まり
自身2作目です。
今回はオーソドックスな転生無双モノです。
色々な要素を詰め込み、皆様満足できるような作品を目指します。
1話あたり3,000〜5,000字程度を見込んでおります。
「む?」
俺は高校の昇降口に着いて、靴を脱ごうとした時に異変に気付いた。
昨日である日曜日に交換したばかりのスニーカーの靴紐が切れていたのだ。
別段激しい運動をした覚えはないのだが?
日課のトレーニングはいつも通りこなしたが、勿論今履いている物とは違う専用の靴を履いていた。
不幸なことの前触れか?
いやいや、そんなはずはない。
所詮迷信に過ぎないのだ。
だって今日は登校中に大好きな猫達を5回も見ることができたのだから。
あの真っ黒な毛並みは最高だったな。
気を取り直し、靴を履き替え、俺はそのまま教室へと向かった。
パリーン!
どこかからか、ガラスか鏡らしき物が割れる音がした。
「きゃあ、私の手鏡が…」
どうやら、鏡だったらしい。
誰のか知らないが、片付けの時に手を切らないことを願うよ。
そして、俺は数時間後に後悔することになる。
黒猫、靴紐、鏡。
縁起が悪いと言われた現象に3連続で見舞われていたことに。
気付いていたら、なんてたらればの仮定が無駄なのは分かってはいるが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2-Aの表示がある教室の後ろにある方のドアから中へと入る。
もうすぐ朝のホームルームと言うこともあり、多くの人がいて賑やかだ。
俺の席は所謂主人公席と言われる、窓際の最後尾にある。
残念ながら友人と呼べるような者はいないので、真っ直ぐとその席へと向かおうとする。
しかし、そこで待ったがかかってしまう。
「おい、敗北者!今日もしけたツラしてんな!ギャハハハハ!」
「おいおい、可哀想だろ?こいつだってボッチなりに頑張ってんだよ、ガハハハハ!」
「そうだったな、けどお前がそんな根暗眼鏡ぼっちなのが面白いから悪いんだぞ。」
廊下側最後尾の席で固まっていた、不良を中心に構成される陽キャグループに絡まれたからだ。
罵倒してきたのは、順に雷山 力也、風早 隼也である。
脇に侍るようにいる女性陣、海原 恵、長谷堂 紅葉も口には出さないものの、こちらを嘲笑う。
ちなみに、敗北者というのは俺の渾名だ。
自分の名乗っている苗字が負田であることが理由となっている。
朝の猫を見た幸せ気分がどんどんと踏みにじられていく。
このまま過ごすつもりだったってのに。
……いっそのことヤってしまうか?
「やめたまえ、雷山君、風早君。僕のいる教室の風紀を乱すような悪行は見逃さないぞ。」
「「「キャー、宝城くーん!」」」
はあ、更にややこしいことになりそうだ。
俺を庇うように口を挟む存在が現れた。
宝城 聖司。
品行方正でクラス副委員長、イケメンで世界第2位の規模を誇る宝城グループの御曹司だ。
教室の女子のほとんどは聖司の味方だ。
また、蜜月な関係を望む者も多い。
その理由として、宝城グループの当主は代々他の有力なグループの令嬢を娶り、加えて複数の女性を内縁の妻として囲う実質ハーレムを築いている。
女子生徒の多くは、その内縁の妻の地位を狙って媚びているのだ。
若干ナルシストが入ってるんじゃないかと思われる正義感の持ち主は度々こうしてクラス内のイザコザに介入してくる。
正直言ってありがた迷惑でしかない。
「うるせえぞ、宝城。お前の出てくる幕じゃねえだろ!」
「力ある者が下の者を庇護するのは当然のこと。弱い者いじめは見過ごせないな。」
「ふん!変な正義感を振りかざしやがって、お前なんてお呼びじゃねえんだよ!」
「僕は僕の正義が赴くままに行動する。なぜなら、それが正しいのだから。」
「屁理屈こねてんじゃねえぞ、この甘やかされただけの坊ちゃんがよ!」
ああ、ヒートアップしやがった。
最早不良vs正義漢も見慣れたものだ。
週に1回のペースで衝突している。
そのうち5割は俺関係で起きている。
あとは、そして3割強で俺と同じようにボッチである1人の文学系少女、残りは男子のヲタク達だ。
ここまでの流れはテンプレ。
ということはこの後に起こることも必然的にテンプレになるのだ。
あと数秒後。
5…4…3…2…いっーー
「双方静かになさい!他の方々の迷惑です。」
「「っ!」」
凛とした声が教室中に響き渡る。
まるで空気中にすっと溶け込んでいくような錯覚を覚える。
そして、必然的に声の主へと視線が集まる。
その声の主は視線が集まっても問題ないとばかりに
「雷山さん、風早さん。もう少し道徳的な行動を心がけてはいかがですか?来年には進路選択してそれぞれの道に進むのですよ。貴方方が後々困らないためにも、今一度他人との接し方を改めては?」
「ちっ、うるせえな。興が削がれたぜ。」
「はいはい、いい子ちゃんには敵いませんよと。」
「宝城さんもです。他人を庇っているようでいて、所々にその人を見下すような発言が随所に見られます。宝城グループの跡取りとして、正しい行動を心がけては?」
「ちょっと待ってくれ、ハニー。まるで僕が悪いみたいじゃないか?」
「いえ、みたいではなくそのものです。それと、未だ婚約者でしかないので、馴れ馴れしい呼び方は控えてください。」
「……仕方ないな。分かったよ。」
これで険悪なムードは霧散して、一連の下りは終わりを迎える。
毎回終止符を打つのは他でもない、菱宮 麗奈だ。
クラス委員長を務める、世界5位の経済規模を誇る菱宮グループの令嬢だ。
さらには、宝城 聖司の婚約者でもある。
その容姿はテレビで見るような女優やモデルの比ではなく、まさに完成された美だ。
街中を歩けば、10人中10人が振り返ってまで二度見をする。
ーーそして、俺の初恋の相手。
当時は相思相愛の関係まで至った。
まあ、幼稚園とかそれぐらいの幼い頃の話だ。
本人はきっと覚えてないだろう。
一瞬こちらに目線を向けたような気がする。
遅ばせながら視線を向けるも、麗奈は既に席に戻って始業時間に備えている。
ふわぁあ、早く席に着いて、宿題を終わらせないとな。
家だと一切手につける余裕がないからな。
宿題できるような生活が羨ましいよ。
そして俺は週末に与えられた課題を朝のホームルームまでの5分でやり終えた。
「出席取るぞー、赤松ー。」
「は、はい。」
「海原ー。」
「はーい。」
気づけば、6時限目の英語の授業の時間であった。
実はこの学校は全国有数の進学校だ。
その一方で幼稚園からのエスカレーター式でもあるため、先の不良のようなタイプも珍しくはない。
国数英社理のそれぞれの科目は少人数ごとにクラス分けされる。
そのため、今この教室にいる生徒は10人ちょっとだ。
クラス委員長の、菱宮 麗奈。
クラス副委員長の、宝城 聖司。
不良陽キャグループの、雷山 力也、風早 隼也、海原 恵、長谷堂 紅葉。
ヲタクグループ、通称信号機トリオの、赤松 悠、黄村 翔、緑名 蓮。
女性版いじめの対象になっている文学系少女、本清 紫。
そして、俺だ。
1つの教室にクラスのカーストトップと底辺が一緒にされている。
何か作為的なものを感じる。
「ーーじゃあ中間考査の答案返すぞ。名前呼ばれた順に取りに来い。赤松ー。」
そう言えば、先週は考査期間だったな。
週末忙しかったからすっかり忘れてた。
今回は難しかったが、果たして結果はどうだろうか?
「負田ー。」
教室前方にある教卓に向かい、そこで答案を受け取る。
バーコードヘアーの担当教師は、答案を渡す際に明らかに侮蔑を含んだ視線を投げつけてきた。
おそらく劣等生とでも思っているのだろう。
だが、俺にとってのこの反応はありがたい。
席に戻り、答案を開く。
それと同時に教師から今回の中間考査の平均点の発表がもたらされた。
『 負田 太郎 63点 』
「今回のテストの平均は64点だ。問題を難化させたんだが、思ったより高かったな。」
よし!
英語も無事クリアした。
知らない人から見たら、喜ぶ要素はないだろう。
しかし、平均点より下を取って喜ぶのには理由がある。
実家から学校生活を送る上で与えられた課題というものが存在している。
そのうちの1つが、平均点を予想して、その点数より1点下を取るというミッションだ。
今回は問題が難化したこともあり、平均点予測も難化した。
試験中に頭痛が治らなかったレベルだ。
満点?
そんなの取れて当たり前のものを取る気はない。
満点なんて取った暁には、折檻のために実家に呼びされること間違いなしだ。
「採点等に異議があったら、授業後に受け付けるぞー。じゃあ、ぼちぼち今日の授ぎょーーおっと、教材を持ってくるの忘れてたな。すまんが、待っててくれ。」
慌てて、バーコードヘアーをたなびかせて、教室を出て行く英語教師。
そして、邪魔者がいなくなったとばかりに徐々に騒がしくなり始める教室。
そして、事件は起きた。
「おい、なんか足元光ってねえか?」
雷山の声が賑わいの中はっきりと聞こえた。
他の人も同様だったらしく、その言葉の通りか確認しようとする。
しかし、それは必要のない行為であった。
目を向けずとも明らかに教室の床が眩い光に包まれていたからだ。
先とは違う、騒がしさが教室中で巻き起こる。
「これはまさか!」
「ついに来ちゃった?」
「僕たちの時代が!」
信号機トリオが一際盛り上がりを見せる。
皆は困惑しているというのに、明らかに不自然な言動だ。
それが気に障ったのだろう、不良陽キャグループからやっかみが飛ぶ。
「おい、どういうことだヲタク共。これが何か分かるのなら説明しやがれ!」
「こ、こ、これは異世界転移もしくは異世界転生する時の魔法人だと思われます。漫画やアニメでよく見るような物なので、ま、間違いないかと。」
「ちっ、なんだよ、その異世界転移とかいう輩は?」
「お、おそらくですが、ここではない別の世界に連れて行かれるかと…」
「はあ、なんだよそれ!冗談じゃねえぞ!」
「ぼ、僕たちに、い、言われても…」
よくよく光の正体を見てみると、なるほど確かに魔法陣と言うやつなのかもしれない。
円状になった文字列がある。
残念ながら、この世界の言語ではないらしく、俺にはなんと書いてあるかは分からない。
「と、扉が開かないぞ。」
宝城はいち早く脱出を図ろうとしたらしいが、どうやらそれも叶わなかったようだ。
ダメだろうと言う確信と共に、窓が開くか確認してみる。
確信はそのまま事実へと変わった。
教室は完全な密室になった。
そして、光が先ほどより一層眩しくなった。
魔法陣がどういうものかは知らない。
だが、なんとなくだが分かった。
この魔法陣が発動する前触れだ。
シュィィィィィィーン。
必死になって廊下側から教室の扉を開けようとするバーコードヘアー。
それが俺、負田 太郎ーーいや、統世 勝利が地球で見た最後の光景であった。
本更新の開始は来年の1月2日からです。
今しばらくお待ちください。