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第4話 正体

背中を刺されたノアはその場に膝をつくも、何時もの調子でアリスに質問を投げかける。


「・・・アリスさん、これは緊張して刺す相手間違えました?

それともあの人達に脅されているとか?」


ノアは自分を刺した相手に怒りを向けるでも無く、

自分の中にある疑問を確認する。


「こんな状況になって、自分を刺した相手に対してもそんな調子を取れるなんて、

アンタの頭、イカレてるんじゃないの?」


今まの気弱で丁寧な態度は見る影もなく、嘲笑う様にアリスは言う。


「そこの男の言う通り、盗賊に襲われたのが私でなく、盗賊として街を襲ったのが私と私の手下達という事!!どうだった私の演技、見事だったでしょう!?」


今までの自分の行動について自慢気味にアリスは微笑みながらノアに答える。

その笑みは今までの浮かべていた笑顔と同様美しかったが今までに無い狂気を含んでいた。


「アリスさん達の目的は私ですか?」


ノアは状況を確認する為、アリスに質問を続ける。


「ああ、この街に面白い生物がいると聞いたんでね。透明人間なんて良い値で売れると思って狩りに来たんだよ。それにしても、この街は良いな。高値で売れそうなカモがいっぱいいるじゃん。ハハ、当分はこの街で遊んで暮らせるよ。どうだい?助けを求めて来た可愛らしい乙女に裏切れて売られる気分は!?」


ノアの気など気にも留めない調子でアリスは投げかける。


「売られるのは勘弁願いたいですね。売られてしまって貴方との契約が不履行になってしまいます。」


ノアは何時もの調子でアリスの暴言に答えた。

そんなノアに怒りをおぼえアリスは言葉を埋まらせるがノアは気にせず続けて言う。


「売るのは契約が終了後にして貰えませんか?その場合、私なりに抵抗を試みますが・・・」


ノアは本心からそう言っている。

その事は数日しか一緒に過ごしていないアリスにも理解が出来た。

理解が出来てしまった事がいけなかった。理解が出来てしまったが故にアリスの怒りは頂点を超えた。


「違う!!違うだろ!?これまでも何人も騙してきたけど最後は恨み言とか命乞いとかする奴が殆どだ!お前は何故、そうしない!?」


今まで自分が陥れた人々の事を思い出しながら、現在目の前にいるであろう男の発言の異常性を再確認するアリス。

今まで騙し裏切って来た獲物達は、アリスの正体を知らされた時、最初は威勢がいいが徐々に覇気が無くなり最後にはアリス達に命乞いをしたり、反撃しようとして数の暴力に負けてしまう場合が多かった。

しかし姿の見えない男は己の主張を変えることは無かった。


「いえいえ。恨み言も命乞いもございませんよ。偶々依頼を受けたお客様から偶々私自身が狙われただけの事。ただそれだけではありませんか?それに私も貴女に」


もう駄目だ。こいつとは話が噛み合わない。

アリスは怯えも怒りもしないノアに少し恐怖を覚えたがそう思い込む事で恐怖を上乗りさせる。

何かを言おうとしたノアを制して、手下の男に声をかける。


「もういい。お前達、この気味の悪い男を縛って、売る準備をしておけ。後逃げても直ぐにわかる様にペンキをかけろ。私はこいつの会社に戻って高そうな奴を何匹が見繕ってくる。」


アリスは周りの男たちに何時も指示する様に指揮を取り、男達はノアに用意していたペンキを投げ掛け、縛る為のロープを用意し縛る準備をし始める。

そこで初めてノアの輪郭が浮かび上がり、アリスは一瞬目をやったが直ぐに目線を外す。

高台から街の景色を見ながら、この後は人身売買の業者にノアを引き渡し、適当な理由をつけ【EVERYTHING】から別の獲物をこの高台に誘導すれば良いと考えを巡らせていた。

黒い考えを巡らせていた瞬間、アリスの右肩に激痛が生じた。

アリスは痛みと驚きによって、その場に倒れこむ。

自分の右肩を見ると小さいの穴が開いており、血が噴き出していた。

最初アリスはノアがキレて自分に何かをしたと思っていたが、アリスを撃った犯人は別にいた。


「ボス~。アンタ最近調子乗りすぎ。」


アリスを撃ったリーダー格の男はふざけた態度を変えずにアリスを嘲りながら言葉を紡ぐ。


「ボス。アンタには大分稼がせて貰ったよ。最初はアンタからウチに入りたいって言った時、ふざけた女が来たと思って犯して殺したけど生き返って、逆にウチの者数人殺っちまうんだから。面白がって団の頭になって貰って色々やって来たけど、前の仕事が駄目だったよ。」


アリスとの出会いを思い出しながらリーダー格の男は裏切りの原因について話し始める。


「この前の仕事で地方貴族のお嬢ちゃんを変態貴族に売ったでしょう?その父親がねぇ~、娘を騙して誑かした奴を連れて来た奴に大金を払うって言うんですね。これまでの貯えに透明人間の売値、貴族様からの報酬で俺達は暫く遊んで暮らせる。だからもうアンタは用済みなんですわ。」


そんな自分勝手な男の発言を聞きアリスは皮肉交じりに言い返す。


「ハ、馬鹿か?私を引き渡した瞬間にお前達の事をバラせば共倒れじゃないか!?」


「大丈夫。大丈夫。俺達に依頼をして来た張本人がその父親だから。」


男の発言に驚くアリスが有り得ないと言わんばかりに声を荒げるが、リーダー格の男はアリスの言葉を遮る様に話を続ける。


「そんな馬鹿な話あるわけ・・・


「変態貴族様から愛娘の幼気な姿を見せられたみたいでね?イカれちまったんだと。首謀者さへ差し出せば俺達は見逃した上、金くれるって言うんでね。丁度いい掃除になるな~と。」


事の経緯を全て話し終えたリーダー格の男は周りの男達に指示を出す。


「お~い。お前達ボスも縛っておいて、暴れるなら手足ぶった切っても良いよ。どうせ生えて来るし。」


物騒なことを言いながらアリスに近づいてくる男達。

肩の傷に関しては既に完治しているが逃げる素振りも見せないアリス。

この状況になった場合、逃げ出すのは困難だとアリス自身一番わかっていた。


アリスはノアに嘘をついていたが能力についても嘘をついていた。

アリスは自身の能力を傷や病気の高速回復と言ったが、実際はその能力を上回っており不老不死といっても過言でない能力がアリスの真の能力だった。

ただ、彼女の態度や能力については嘘を語っていたが、生い立ちについては満更嘘と言い難い。

少し前に襲われたといったアリスだが数十年前、別の強盗団であるが実際に襲われていた。


彼女は幼少の頃、大病を患っており、普通の医者では手の施し様がない状態だった。

数多くの医者に見放された、そんな時、アリスの両親に【遺産】の技術を売りに来た男がいた。

本来であれば、見知らず人が都合のいい話を持って来る事に警戒するが、この時は藁にも縋る思いで財産の殆どを使い技術を購入し、奇跡的に病気は完治し、それ以上の能力もその身に宿した。


しかし幸運な事ばかりでは無い、彼女の語った通りその後遺産の話を聞きつけた盗賊団に両親は殺され、友人は弄られて、アリス自身にも酷い目にあった。

盗賊団は最初アリスの身体に気味悪がったが、その団の首領が死なないアリスを気に入り、考えうる限り非人道的な事をアリスで試した。

アリスは最初の数年は泣き叫び命乞いなどをしていたが、年数が経つことに泣く事が無くなり無感情になったが、そんなアリスを首領は面白くなくなり簡単に捨て様とした。

アリスはそれを知って首領が喜ぶ様、弱者を演じた。弱者を演じる中でアリスは隙をみて首領の首を掻いて殺す。その後、アリスは盗賊団を一人ずつ殺していった。酒に溺れた奴、アリスの色香に負けた奴、たとえ殺されても生き返り殺し返す、逃げても何処までも何時までも追いかけた。アリスは十数年かけて数十人もの盗賊を皆殺しにした。全て殺し終えた後、アリスは数十年ぶりに故郷があった場所に帰った。昔の面影が残る場には別の集落が出来ており、知らない人々が幸せそうに暮らしていた。


アリスはその幸せそうな人々を見て、苛立ちを感じた。

自分が酷い目にあっている中、こいつらは幸せに暮らしていたんだと。

逆恨み極まりない理由で彼女は現在の盗賊団に接触し、その集落を襲った。

それが盗賊団として初めての仕事で、その後も自分を餌にして騙すなど様々な悪行に手を染めた。

アリスは、少しでも他人が自分と同じ様な境遇になれば、自分の傷が癒せると思い込んでいた。

仕事をこなす中でノアの存在を知り、被害者を増やそうとこの街にやって来ていた。


だが結果、利用していた盗賊団から裏切られ自分がして来た事の報復を受ける事になる。

(ああ、またあの地獄の様な日々に戻るのか・・・)

アリスは昔受けた行為を思い出しながら考える。

(まぁ、また何年かけてでも貴族も盗賊団共も皆殺しにしてやる。)

既に今を諦め未来で自分を裏切った奴に対しての殺意を込める中、男達はアリスにもロープを縛ろうとするが、ロープを持ってきた男が何かにぶつかり吹っ飛んだ。


その状況に真っ先に気が付いたのは、リーダー格の男である。

リーダー格の男は一部始終、その光景を見ていた。

ロープを持った男を吹き飛ばしたのは盗賊団の団員であり、ノアをロープで縛っていった内の一人であった。ノアはいつの間にかにロープを抜けており、ノアの周りにいた男達数人は既に倒れていた。

その光景に盗賊団の男達は警戒と恐怖心により、ノア達より少し距離を取った。


(倒された男達も素人であるが荒事になれており、いくら武術に覚えがある人物でも数人を一瞬で倒し成人の男を数メートル投げ飛ばせるだろうか。)

アリスはそんな事を考えていたが、男を投げたノアはアリスの方を向き、変わらなぬ態度で接する。


「大変申し訳ありません。何なら大事そうな話をしていたので遮るのは悪いと思い、少し護衛まで時間を要してしまいました。」


終始ブレないノアにアリスは当初聞こうとした事を本心から声に出す。


「お前は本当に何なんだ・・・」


その等にノアは先程言いかけた言葉をアリスに言う。


「その質問に答える前に私もアリスさんに嘘をつきましたので謝罪します。」


突拍子もないノアの発言にアリスは混乱するするが、ノアは発言を続ける。


「初めて出会った時、貴方は私を「透明人間」とおっしゃいましたが、私は人間ではございません。」


意味の分からない事を言うノアに怒りが再燃しかけたアリスだが、声を発するよりも早くノアの体に変化が生じる。

ペンキをかけた事により人間の輪郭を保っていた姿が、まるで融けるように崩れていく。

その異様な光景に盗賊団の男達は悲鳴を上げる者や怯える者も現れる。アリスはノアに出会ってから本当に驚き、先程までの怒りすら消え去っていた。


そんな周章狼狽の中、発信源の男ノアは気にも止めずに答え合わせをする。


「私は透明人間でなく、正式には虹色スライムの亜種、透明スライムと言うべきでしょうか。それが私の正体です。」



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