第3話 日常から非日常へ
契約後、数日が経ち、その間、アリスは【EVERYTHING】の宿舎にて身を寄せていた。
アリスは数日の間、ノアと一緒に行動し街にでて買い物をしたり、別の社員と交友を育んでいた。
そんな日々の中で社員の一人がアリスの事を心配し、街の穴場として存在する高台を紹介した。
現在、ノアはアリスの気晴らしになればと思い、アリスと共にすすめられた高台を目指し街を歩いていた。
「ここ数日は安心できましたか?」
「ええ、社員の皆さん良い人ばかりですね。こんな私にも気を使ってくれて・・・」
「うちの仲間は良い方もいれば最低のクソ野郎まで在籍してますよ。
ここ数日、バタバタして遠出は初めてですが不安とは無いですか?」
「不安と言うか・・・今まで気になっていたんですが、ノアさん服は着てますよね?」
初めてノアに会った時は頭が混乱し、それ所ではなかったが、
時間が経ち落ち着きを取り戻していく中で思った至極当然の疑問をアリス苦笑いじみにノアに聞いた。
「・・・着てませんよ?」
何時もの明るい声をワントーン落としてノアは答えた。
その瞬間、アリスの表情とその場の空気が凍った。
「あ、いえ、ジョークですよ!?」
慌てて先程の発言を取り消して、何時もの調子でノアは続けて答えた。
「物によりますが長年愛用した物とは自分の体の一部として認識して透明化が可能です。」
「脱いだ後も少しの間は透明化したままで私自身、失くしてしまったら探すのは一苦労です。」
「仮面は透明化しないんですか?」
唯一ノアを認識できる物として存在する白の仮面についてアリスは聞き返す。
「この仮面は会社の備品で、社長から「仕事する上で透明なのは面倒くさい!これでもかぶっとけ!」と言われて被っているんですよ。今では私のチャームポイントにもなってますから、透明化はさせないようにしてます。それに仮面まで透明化したら生活しづらいですからね。」
「そんな器用な事も出来るんですか」
さも当然の様に答えるノアに驚くアリス。
そんなアリスにノアはある看板を見ながら言った。
「あの看板をご覧ください。」
そのには可愛らしい恰好をした数人の女の名が描かれた広告が描かれていた。
「彼女たちは吸血鬼や人狼で構成されらアイドルグループです。」
「吸血鬼の方や人狼の方も人によりますが、服のまま蝙蝠に変身したり、
身体の一部のみを変化出来る人もいますから、人それぞれですよ。」
「・・・吸血鬼でも依頼をお受けするんですか?」
「ええ、依頼をお願いされ相応の報酬を頂き、受注する仲間がいれば例え殺人鬼の依頼でもお受けしますよ。」
「その点、彼女達は心配いりませんよ。彼女達のコンサートの警備にも何回か行きましたけど、愛想の良いお嬢様方でしたよ。」
少し目線を外しながらノアは続ける。
「・・・まぁ中には吸血鬼や魔法使いと言ったある一定の種族や技術者を目の敵にするカルト集団も存在しますし、逆に誰彼構わず襲う吸血鬼や妖精もいますからね。難しいものですね世の中。」
そのノアのセリフに俯くアリスだったが、顔を上げ答える。
「確かに良い人も悪い人も一杯いて人は見かけによらないと言いますし、
私はノアさんの顔を視る事は出来ませんけどいい人だって事は断言できますよ」
微笑みながらアリスは答える。
その答えに表情は見えないノアが照れたように見えた。
そんな会話を続ける内、2人は目的の高台に到着した。
そこは少し広めの広場となっており少し木々があるだけの簡素な場所だが、高台から見える景色は【グランドセントラル】を一望でき、芸術的な美しさがそこにあった。
「綺麗ですね」
アリスは高台から見える景色を見ながら呟いた。
「全くです。初めて来ましたが素晴らしい場所ですね。こんな場所があるなら教えてくれても良いのに。」
「本当にいい景色、死ぬ前に見るには最高のスポットだな!!」
2人で景色を楽しんでいる中、後ろ側から不吉な物言いをかけられる。
いつの間にかに、そこにはパッと見るだけでも数十人の人だかりが群をなしていた。
そんな群衆の中からリーダー格の男が続けて声をかけてくる。
「不用心だよ?いくら人が少ない場所だからって無警戒すぎ!!
透明人間か何だか知らないけど認識されてたら奇襲も難しいし、何よりこの人数相手に1人でどうするの!?」
「一様確認させて頂くのですが、貴方たちはアリスさんを襲った盗賊団の方ですか?」
ノアはリーダー格の男の発言を無視して質問をする。
「察しがいいね!そういつ奴は好きだよ。なぁアンタ何ならウチの団に入らないか!?」
リーダー格の男はふざけた調子でノアを勧誘し始めた。
が、ノアは業務的に答える。
「勧誘は有難いですが、社訓の一つに「寝返った奴、即クビ」とルールがありますので」
「ハハ!!凄いな!この状況でも、そんな口きける奴初めて見た!!まぁ姿形は見えないけど!」
そんなリーダー格の男にノアは言う。
「アリスさんに誠心誠意、謝罪し行った罪を償うつもりはありますか?」
「カッコいいね~。ヒーローみたいな奴はホントに好きなんだけど、ボスもう殺っちゃっていいですか?」
リーダー格の男はノアの後ろ側に声をかけた。
その瞬間、ノアの背中には一本のナイフが突き刺さった。
傍から見ればナイフが宙に浮いている奇妙な光景だが、
ノアは刺された背中を気にする事よりも自分を刺した人間に声をかけた。
そこには盗賊団の襲撃後、声を発さずにいた見慣れた女性がいるだけだった。
「・・アリスさん?」
彼女の後ろには変わらず美しい景色が広がっており、
黒森アリスは、景色に負けない美しい笑顔を浮かべていた。
本当に更新遅いですが、ちょっとずつでも続けて行きたいので、
大きな心をもって優しく読んで頂けましたら幸いでございます。