第6話 悪夢
【その日は、その年1番の豪雨だった。
雲の層は厚く、色もどす黒い。雨は大粒で、窓にマシンガンのようにとめどなく撃ち続ける。雷は時々現れ、雨よりも大きな音で威嚇する。
薄暗い部屋の中で少年が1人座り込んでいる。
その少年の顔は涙でグチャグチャになっている。しかし手や洋服は涙ではなく血で汚れている。
よく部屋の中を見ると、少年が殺したであろう女性が床に倒れている。女性の喉には1本の包丁が突き刺さっている。
そして女性の近くには、女性の体を切ったであろう包丁が転がっている。
真っ白な壁紙やフローリングについた血が、事の残酷さを物語っている。
「僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない.......」
少年は突然叫び始めた。
雨や雷の音しか聞こえない部屋の中で、少年は1人叫び続ける。】
『ピピピピピピピピピピッ』
目覚まし時計の音で目が覚める。目覚まし時計を手探りで探しながら音を止める。
「ふあぁぁぁぁ」
寝ぼけている目を擦りながら覚まさせる。
カーテンを開け朝日を部屋に入れる。朝日はとてもポカポカしていた。
しかし冬ということもあって、部屋の中は朝日に反してとても寒かった。
嫌な夢を見たなと思いながら、階段を下りてリビングに移動する。
リビングに移動すると、テーブルの上に置いてあるリモコンを手に取りテレビをつける。
朝のニュース番組の大部分は、国会議員の汚職事件や芸能人の不倫など低俗なニュースばかりだった。
そんなニュースを眺めながら僕は席につく。
いつものように、テーブルの上の皿にはバダーが既に塗られているトーストが1枚置かれている。そして机の横には、ジャムや蜂蜜などのトーストに塗るものが置かれている。
蜂蜜をトーストに垂らしている時に、牛乳がないことに気づく。
僕は冷蔵庫まで行き、牛乳を手に取る。そして近くにおいてあるコップに牛乳を注ぐ。
そのコップを手に持ち、もといた場所に戻る。
「いただきます」
トーストを1口食べる。焼いてから時間が経っているのか、トーストは冷めていた。
冷めているというマイナスに反し、味はとても美味しかった。
しかし今朝の夢もあってか全く食欲がない。
1口食べたトーストを皿の上に置く。そして牛乳を飲み干す。
「ごちそうさまでした」
時刻を確認すると、ちょうど7時20分だった。
僕は洗面所に行き、歯と顔を洗う。鏡に映る僕の顔は疲れているように見えた。
顔を洗った後は少しマシになったが、それでも隈や疲れが少し目立っている。
一通りの支度を終え、玄関のドアを開けた。
時刻は7時35分。
外は陽気な天気とは真逆の冷たい風が吹いている。
僕は自転車に跨り、学校に向けて出発した。