第5話 デジャブ
「.......いてて」
気がつくと夜の公園にいた。近くにあった時計を確認すると午前1時過ぎを指している。
しかし時計の針は止まっている。
前に見た夢の時とは違い、意識はハッキリしていて、これが夢だということはすぐに分かった。時計の針が止まっていることが、夢である何よりの証拠だった。
しかし体は金縛りにあったかのように全く動かない。
するとそこに類が現れた。類の後ろの方にもう1つ影があることにも同時に気づく。
片手には血のついた斧を持ち、もう片方の手で鬼島の襟の部分を持ち引きずっている。
すると類は足を止め、後ろにいる人物に声をかける。
後ろにいた人物は類の隣まで足を運ぶ。顔はフードで覆われていて誰だか分からない。
類はニコニコしながらフードの男と話している。
その時の類は学校で見ている類とは違い、とても楽しそうな表情をしている。
しかし、類が何を喋っているのかが全く分からない。
すると襟を掴まれていた鬼島が、無理やり類の手を解いて逃げ出す。
しかしその逃亡劇も虚しく、フードの男に阻止される。
フードの男はナイフを素早く手に取り、鬼島のアキレス腱を的確に切る。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
けたたましい鬼島の叫び声が夜の公園に響く。
しかし住宅街から少し離れた場所にある公園なので、助けなど来る筈がなかった。
「五月蝿いなぁ、いい加減黙ってくれないかな?」
すると類は手に持っていた斧を鬼島の頭めがけて振り下ろす。
『グシャッ』と斧が脳みそまでいく音が聞こえる。
類は頭に刺さった斧をとり、鬼島の体を解剖し始めた。楽しそうに内蔵を漁っている。
あまりに惨い光景を見た僕は吐きそうになると同時に、とてつもないデジャブ感に襲われる。
鬼島の死体は見たことのないはずなのに.......
その時、また強い痛みが頭を走る。
「ハァハァハァハァ」
凄い息切れと同時に起き上がる。
意識がまだ夢に集中しているせいで、白い壁で囲まれている薬品臭い部屋にしか見えなかった。
尋常ないほどの汗をかき、そして目眩、吐き気にも襲われる。
しかし、自分の体の異常よりも、2回も夢に出てきた硲類。それと鬼島の死体のデジャブ感のほうが強かった。
数分たち、少し落ち着いたところで女性が近づいてくる。
「大丈夫?凄いうなされてたけど。一応、熱を測りなさい」
体温計を渡してくる女性に僕は見覚えがあった。その時初めて自分が今どこにいるのかが理解できる。
僕は保健室の先生から手渡された体温計を脇に挟み、結果を待つ。
『ピピピピッピピピピッピピピピッ』
静寂な空間に体温計の音が鳴り響く。
熱はなく体調も良くなってきたので、僕は必要事項だけ書類らしき物に書き、保健室を後にした。
教室につくと、末那雅と霞が待っていた。
もう既に放課後で、教室には自分を含めた3人と類しか残っていなかった。
夕焼けのオレンジ色が教室を照らしている。
「戒斗、大丈夫?顔色悪いな」
末永雅が珍しく他人心配をする。
「うん。心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。もう今日は遅いし帰ろう」
その時でも類は、ずっと夕焼け空を窓から眺めていた。
際込める夕焼け空に彼は何を思っているのか、僕には分からない。
そんな彼を目で追いながら、僕は教室を後にした。
ーー彼を調べてみよう
退屈な日常の中で数少ない楽しみを見つけた気がした。