第48話 雪と雨
雪、真っ白な雪。
その日は今年初めての雪だった。
外では僕より1つ下くらいの子が元気よくはしゃいでいる。
僕はそれを横目に見ながら歩いている。
どこに向かう訳でもなくひたすら歩いている。
『ザク、ザク、ザク』
夜の間に積もった雪が、歩く度にスナック菓子のような音をたてる。
歩く速度を変えたり、強さを変えると音が変わる。
そんなちょっとした遊びを交えながらもひたすら歩く。
『ビュー、ビュー』
少し風が強くなってきた。
僕は着ていたジャケットについているフードを被る。
温かいが少し前が見づらい。
すると前から少女が1人で歩いてくる。
年齢は僕と同じくらいだろうか、なんせ相手もフードを被っているので顔はよく分からない。
僕は少し歩くスピードを遅くしてみる。
すると相手も同じことを考えていたのか、相手の歩くスピードも遅くなる。
しかし風はどんどん速度をまし、強くなっていく。
僕はフードをとり、少女の顔を確認しようとする。
確認しなければいけないと思ったのだ。
雪で少し前が見えづらい。
目を細め少女を見つめる。
フードの隙間から覗かせる顔はとても可愛かった。
しかしその顔をどこがで見たことがあるような気がした。
「あ、あの。な、何か用ですか?」
とても可愛らしい声で僕に質問をしてくる。
しかしその声は少し怯えている。
その声もどこかで聞いたことのある声だった。
僕は頭を捻らせる。
しかし中々思い出せない。
「ねぇ。僕、君にどこかで会ったことある?」
初対面の人かもしれないが、聞かないよりマシだと思い、勇気を出して質問する。
すると少女もフードをとり、僕の顔をジロジロと見てくる。
「あ、あの、もしかして戒斗君ですか?」
「え、何で知ってんの?」
「あ、あの私、楓花。秋乃楓花」
名前を聞いた途端、僕の中にあった記憶全てが蘇る。
僕の記憶と目の前にいる少女が完全に一致した。
春、夏、秋と季節の区切れ目辺りでふらっとこの地にやって来る少し不思議な少女だ。
そして僕の親友の類の好きな人でもある。
「あ、類呼ぼうか?」
「類君の所は後で1人で行くからいいよ」
少女は満面の笑みで返してくる。
とても可愛い。類が惚れる理由も分からなくはない。
ーー殺したい
心の片隅に突如として殺意が湧く。
僕の心からどんどんどす黒いものが溢れてくる。
そしてそれを抑えようとすると激しい頭痛に襲われる。
「あ、あぁあああぁあ」
僕の叫び声が辺りに響く。
それを見た楓花は心配そえに僕に寄ってきて手を差し伸べる。
僕はその手を払い除け、楓花を雪の上に押し倒す。
「に、げろ、ボくか、ら離れテク、れ」
僕は必死に事の重要性を伝えようと努力する。
しかし彼女はそれでも僕に寄ってくる。
僕はそれを止める為に必死に叫ぶ。
「は、やく、にげてく、れオレが、俺じゃ、ナクナルマエニ」
それでも彼女は僕に寄ってくる。逃げる素振りも見せず。目も僕のことしか見ていない。
その言葉を最後に僕は意識を失った。
正確にはもう1つの人格が一時的に僕を支配した。
「.......ん?」
寒さで目が覚める。
風は弱くなり、雪も止んでいた。
そして雲と雲の間からお日様が辺りを照らしている。
赤い
僕の周りの雪は普通ではありえない雪の色をしている。
真っ白な雪には鮮やかな赤が色づいている。
そしてその赤は少し雪を被った少女から流れている。
その少女の体はナイフで滅多刺しになっている。
少女全てが赤で染まっている。
ーー美しい.......
その光景はまるで絵のようだった。
真っ白なキャンパスに1人の少女が赤く染まり倒れている絵。
そしてそれをとても美しいと思ってしまう自分がいる。
しかし僕の目にはこの絵がとても悲しいように見える。
一般の人ならこの絵に雪が降っていることを想像するだろう。
しかし僕の目には雪以外のものが降っているように見える。
「.......雨?」
掠れた声で呟く。
土砂降りという程降っているわけではない、ただポツリポツリと大きな雨粒がゆっくりと落ちていく。
その雨は真っ白なキャンパスの上で赤く染まった少女の所にポツポツと降っていた。
雨、ポツポツと降りつける雨。




