第44話 魔女
気がつくとあの部屋ではなく、また別の部屋に来ていた。
僕は仰向けになっているのか、視界には白い天井しか見えない。
その部屋は少し薬品臭かった。
どうやら現実世界に戻ってきたらしい。
「体調はどう?」
不意に近づいてきた女性にそう聞かれる。
とても優しい声。
しかしその優しさは僕だけではなく、ここに来た全ての生徒に向けられるような優しさだった。
声の主は保健室の先生らしい。
「あ、大丈夫です」
僕はその女性の方を向きつつ答える。
僕の予想は当たっていた。
「最近体調崩すこと多いわね。ちゃんとご飯食べてるの?」
「あはは、何か心配かけてすいません。ご飯はちゃんと食べているのですが.......」
「ふーん。ま、見た感じ軽い貧血だったから。これ書いたらもう教室に戻っていいわよ」
「あ、分かりました」
僕は自分の症状を記入し、その紙を保健室の先生に渡して教室に戻る。
僕は教室に戻るまでの間に事件のことを少し整理することにした。
何かを考えているせいで歩くスピードはいつもの2分の1位になっている。
そのせいで廊下がやけに長く感じた。
ボソボソと独り言を呟きながら歩く。
「あれ?じゃあ末那雅達を殺した人物は誰なんだ?」
新たな疑問が浮かび上がる。
今までは類が犯人だと決めつけていた。
しかし類は殺していないと言っている。
それが真実なのか嘘なのかは定かではないが、そもそも僕はずっと幻覚を見ていた。
その事実はどうやってもひっくり返せない。
もしかしたら末那雅なんていなかったんじゃないか、そんな事まで想像してしまう。
しかし朝の教室には末那雅や霞が座っていた席には誰も座っていなかった。
いつの間にか僕の足は歩くのを止めていた。
いくら考えても答えがまとまらない。
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムの音で正気に戻る。
僕は急いで教室に向かった。
保健室で時計を確認すればよかったと少し後悔しながら廊下を走る。
ガラガラガラと勢いよく教室のドアを開ける。
「お、戒斗大丈夫だったか?」
「ハァハァ、だ、大丈夫です」
「そんな焦らなくていいぞ」
「あ、すいません」
僕はそのまま自分の席に向かう。
類はいつものように教科書も開かずに外を眺めている。
一方凛は少し悲しそうな表情を浮かべていた。
僕が席につくと小声で凛が話しかけてきた。
「.......大丈夫だった?」
「あ、うん。ごめんね心配かけちゃって、少し朝から体調が悪くて.......。あ、決して凛さんがとかそういうのはないから.......」
凛は今にも泣き出しそうな顔になっている。
余程僕が心配だったのだろうか。
その姿は妄想の凛からは想像が出来ない。
しかしその姿も可愛かった。
すごく強気だった凛がこんなにも弱気になっているとそのギャップで少しドキッとしてしまう。
泣き出しそうな顔を見ていたら申し訳ないという気持ちが大きくなってきた。
最初も自分の妄想と比べて申し訳ないと思っていたのだが、ここまで悲しい顔をされると更に申し訳なくなる。
僕は今までの凛を全てとは言いきれないが忘れようと心に誓った。
そして今目の前にいる凛と一から接しようと決めた。
「あ、本当に心配かけてごめん。あの良かったら凛って呼んでもいいかな?馴れ馴れしかったら断ってくれていいんだけど.......」
するとさっきまでの表情とは一変し、とても可愛らしい笑顔を僕に向ける。
「うん。喜んで。じゃあ私も戒斗って呼んでいい?」
「勿論」
「やったー」
凛はとても嬉しそうだった。
僕は少し安心して黒板に目を向ける。
その瞬間凛がボソボソッと何かを呟く。
僕は凛の方をチラッと見ると、凛の口角はさっきよりも上がっていてヒヒッと魔女のような笑い方をしていた。
僕はその笑い方に少し恐怖を覚えた。




