第36話 情報
犬塚はニコニコ微笑んでいる。
その笑顔からは憎悪が滲み出ている。
怖いという感情が僕の心を制圧する。
「ど、どうしたんですか?」
「どうしたって何も尾行してたんだよ。まぁ新聞の記事のためだけどね。それより戒斗君、声震えているけど大丈夫?」
「あ、大丈夫です。それではまた」
僕は無理矢理話しを中断して犬塚から離れる。
「あーあ、せっかく戒斗君が知りたそうな情報を仕入れてきたのになぁ。お父さんのこととか」
僕は足をピタッと止める。
「それは本当か?」
「あぁ勿論。でもこっちにも条件がある」
「それは?」
「こちらが欲しい情報があるかどうか、それが条件よ」
「なるほどね.......よし情報交換しようか」
「まぁそう来ると思ってたけど。とりあえずまずは人気が少ないところに移動したいわ」
「じゃあ家近いし、今の時間家族いないから家でもいい?」
「えぇ構わないわ」
僕は警戒心を怠らずに、犬塚を家へと案内する。
「着いたぞ」
「へぇ。思ったより大きいのね」
「そりゃどうも」
僕はドアを開け、犬塚を家の中に入れる。
犬塚を居間まで案内し、座らせる。
「じゃあお茶を汲んでくるから少しまってて」
犬塚は意外にも素直に座っていた。
僕は冷蔵庫からお茶を取り出し、コップにとくとくと注ぐ。
僕はそれを居間まで運ぶ。
「ほい」
お茶を注いだコップを犬塚に渡す。
彼女は喉が乾いていたのか、渡されたお茶を一気に飲み干す。
その光景を眺めていると、彼女が切り出す。
「じゃあ交渉を始めましょう」
「あぁ。こちら側としては父さんの情報を貰いたい。そっちは?」
「私は.......君の情報が欲しい」
「.......それって」
嫌な想像をしてしまう。
脳裏に拘束された自分の姿が焼き付く。
「ふふふっあははははは」
狂ったような笑い声を発しながら犬塚は立ち上がる。
「そうよ、私が欲しいのは貴方。貴方自身なの。情報は心理戦よ戒斗君。少しでも有利に立ち回ろうと家に呼んだのかもしれないけど、もう遅いわ。君はもう負けている」
ジリジリと犬塚は近づいてくる。
「ふふふっ、最後に一つだけ教えてあげる。あんたの父親は硲類の父親でもあるわ」
「.......は?」
理解が追いつかない。
普通だったら逃げることを考えなければいけないはずなのに、犬塚の言葉が僕の頭の中の考えを蹂躙している。
犬塚の手が伸びる。
その手にはスタンガンらしき物がある。
しかし僕の体は避けようとしない。
いや、避けれない。
首元にスタンガンが当たる直前『バアァン』と、激しい音が聞こえる。
僕の体はそれでも動かなかった。
視線だけ動かすと目の前には、床に転がりピクピク小刻みに動く犬塚の姿があった。
そしてそれに近づく凛の姿もあった。
「何が情報戦よ。あんたが戒斗の家に入った時点でゲームオーバーだったのよ」
凛はまた拳銃を構え、辛うじて息がある犬塚にもう1発弾丸を叩き込む。
完全に犬塚は動かなくなった。
そして凛は怒った表情でこちら側を向いてきた。




