第18話 不機嫌
教室に入ってきた類はとても不機嫌そうな顔をしていた。
類の周りの空気だけとても重く感じる。
しかしクラスメイトで類が不機嫌なのに気づいているのは僕と凛だけだろう。僕達以外のクラスメイトは皆類のことなんて気にしていない。
類は、そのまま席に座り窓の外を眺め始める。
その時にはいつもの類の顔に戻っていた。雰囲気もいつもの類のように落ち着いた雰囲気を醸し出してた。
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムがなると同時に『ガラガラガラ』と、教室のドアが開き、副担任の渡辺が入ってくる。
教卓の前で止まる。そして僕達の方を向く。
「えー昨日は休校となってしまい申し訳ないです。松垣先生の件、非常に悲しいです。不慮の事故で亡くなーー」
「は?」
思わず声が漏れる。
凛を除いたクラスメイトが一斉に僕の方を向く。その目は飢えた猛獣のように僕一点だけずっと見つめている。
「どうしたんですか?戒斗君。松垣先生は昨日不慮の事故でお亡くなりになられたの知ってますよね?」
ーーそんなこと知るわけないだろ
周りからの視線、空気に圧倒される。
「あ、はい」
そう答えるしかなかった。
隣に座っている凛もすごく不思議そうな顔をしている。
僕の腑に落ちないまま話しが進む。
「あーそうそう。今日は市村さんと、体育の高宮先生がお休みです。皆さんも体調管理には気をつけましょう」
その言葉を聞いた時、寒気がした。
僕は目が悪いぶん耳と鼻が良く、1度聞いたもの、1度嗅いだものは大抵忘れない無駄な能力がある。
だからクラスメイトと担当の先生の声位なら名前と顔が一致する。
市村有紗は、あの時甲の高い悲鳴をあげていた女子生徒で間違えない。
そして高宮泰は、あの時有紗を助けに来た先生で間違えなかった。
なぜ事件翌日の今日が休みではないのか、なぜ松垣は事故死になっているのか、なぜ類が朝不機嫌そうだったのか、全てが分かったような気がした。
震えが止まらない。
そして冬の寒さが更に加速する。
凛は僕が震えているのに心配している。
「あんなに震えてどうしたの?」
「後で話す」
僕は震えながら授業の支度を始める。