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日常の代償  作者: デスモスチルス大佐
崩壊
16/49

第15話 過去


ーー10年前ーー



 その日はその年1番の豪雨の日だった。

 外では『ザーザー』と激しい雨がマシンガンのように降りつけている。雲はどす黒くとても厚い。時に『ゴロゴロピシャッ』と雷も僕を威嚇するように鳴り響いている。


 6歳の僕は家で1人母親の帰りを待っていた。ゲーム機はもちろん、漫画すら持っていない。

 1人で待っているのが怖いので、家中の全ての部屋の電気をつけ、大好きなクマの人形を常に抱きかかえていた。

 豪雨は一向に収まる気配がない。


 まだ小学生になって数ヶ月しか経っておらず、学校に慣れていなかったので僕はとても疲れていた。

 少し横になると睡魔が襲ってくる。

 雨の音や雷の音が五月蝿かったが、睡魔は僕に眠気を誘う。

 僕はそのまま意識がなくなった。



『ゴロゴロドーン』


 今日一番の大きな雷の音で目を覚ます。

 雷のせいで停電したのか、全てつけたはずの電気は消えていた。

 

 ーー怖いよぉ、お母さんまだかな.......


 僕はブルブル震えながら少し涙ぐんでいる。

 明るかったのが突然暗くなったせいで、目もよく見えなかった。見えるのは暗闇と時々光る雷位だ。

 

 先程までクマの人形を持っていた手に違和感を感じた。

 僕の手は人形ではない何かを握りしめている。


 目が暗い所に慣れてきたのか、徐々に辺りがぼんやりと見えてくる。

 次第に手に持っているものが見え始める。


「.......え?」


 僕は手に持っているものを見て驚く。

 手に持っていたものは包丁だった。しかも包丁には血がべっとりとついた。

 匂いに気づかなかったが、辺りは既にとても血なまぐさい匂いが蔓延している。

 僕は驚き、その包丁を投げ捨てる。


『カランカラン』


 包丁が音を立てて床に落ちる。

 その包丁が落ちた先には、母親が無残な姿で倒れていた。母親の喉には包丁が1本突き刺さっている。


「おかあ、、さん、、?」


 何が起こっているのかが分からなかった。

 雨の音と、秒針の『カチ カチ カチ カチ』という音だけがその場で響いている。

 僕を急かすように徐々にその両方の音が速くなっている気がした。


 母親からは血が大量に流れている。小学1年の目からでも分かる。即死だった。


「おかあ、さん、ねぇ、おかあさん、、」


 死んでいることを理解しているのにも関わらず、母親を揺さぶる。

 もちろん返事はない。


 よく観察すると腹部には大量の切り傷があった。僕がさっきまで持っていた包丁でやった傷だろう。


「僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない.......」


 ーーお母さん、美しいよ


 心の中で密かに感情が芽生えるのが分かった。

 僕はその感情を殺すためにひたすら自己暗示を脳内で繰り返す。

 先程よりも強くなった雨が窓に打ちつけている。

 次第に僕の声は雨の音に消されていった。

 それと同時に視界が暗転した。



『ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ』


 目覚めた先は白い壁に囲まれた空間。

 僕の腕には何が刺さっている。

 とても静かだった。

 僕はその場所でもう一度眠りについた。

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