第15話 過去
ーー10年前ーー
その日はその年1番の豪雨の日だった。
外では『ザーザー』と激しい雨がマシンガンのように降りつけている。雲はどす黒くとても厚い。時に『ゴロゴロピシャッ』と雷も僕を威嚇するように鳴り響いている。
6歳の僕は家で1人母親の帰りを待っていた。ゲーム機はもちろん、漫画すら持っていない。
1人で待っているのが怖いので、家中の全ての部屋の電気をつけ、大好きなクマの人形を常に抱きかかえていた。
豪雨は一向に収まる気配がない。
まだ小学生になって数ヶ月しか経っておらず、学校に慣れていなかったので僕はとても疲れていた。
少し横になると睡魔が襲ってくる。
雨の音や雷の音が五月蝿かったが、睡魔は僕に眠気を誘う。
僕はそのまま意識がなくなった。
『ゴロゴロドーン』
今日一番の大きな雷の音で目を覚ます。
雷のせいで停電したのか、全てつけたはずの電気は消えていた。
ーー怖いよぉ、お母さんまだかな.......
僕はブルブル震えながら少し涙ぐんでいる。
明るかったのが突然暗くなったせいで、目もよく見えなかった。見えるのは暗闇と時々光る雷位だ。
先程までクマの人形を持っていた手に違和感を感じた。
僕の手は人形ではない何かを握りしめている。
目が暗い所に慣れてきたのか、徐々に辺りがぼんやりと見えてくる。
次第に手に持っているものが見え始める。
「.......え?」
僕は手に持っているものを見て驚く。
手に持っていたものは包丁だった。しかも包丁には血がべっとりとついた。
匂いに気づかなかったが、辺りは既にとても血なまぐさい匂いが蔓延している。
僕は驚き、その包丁を投げ捨てる。
『カランカラン』
包丁が音を立てて床に落ちる。
その包丁が落ちた先には、母親が無残な姿で倒れていた。母親の喉には包丁が1本突き刺さっている。
「おかあ、、さん、、?」
何が起こっているのかが分からなかった。
雨の音と、秒針の『カチ カチ カチ カチ』という音だけがその場で響いている。
僕を急かすように徐々にその両方の音が速くなっている気がした。
母親からは血が大量に流れている。小学1年の目からでも分かる。即死だった。
「おかあ、さん、ねぇ、おかあさん、、」
死んでいることを理解しているのにも関わらず、母親を揺さぶる。
もちろん返事はない。
よく観察すると腹部には大量の切り傷があった。僕がさっきまで持っていた包丁でやった傷だろう。
「僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない.......」
ーーお母さん、美しいよ
心の中で密かに感情が芽生えるのが分かった。
僕はその感情を殺すためにひたすら自己暗示を脳内で繰り返す。
先程よりも強くなった雨が窓に打ちつけている。
次第に僕の声は雨の音に消されていった。
それと同時に視界が暗転した。
『ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ』
目覚めた先は白い壁に囲まれた空間。
僕の腕には何が刺さっている。
とても静かだった。
僕はその場所でもう一度眠りについた。