第10話 現実
『家に急いで来てくれ』
書いたメールを霞に送る。自分でも驚く程の素っ気ない文を書いてしまった。
来るかも分からない霞を待ち続ける。
『カチカチカチカチ』
僕以外の誰もいない部屋には、1秒毎に針を刻む時計の音が響いている。
まだ犯人が近くにいるかもしれない恐怖よりも、数少ない親友の1人である末那雅が殺されたのにも関わらず、冷静でいられる自分の方が怖かった。
数十分後、ピンポンとインターホンが鳴る。
テレビドアホンで霞の姿を確認し、家に入れる。霞は少し不思議そうな顔をしていた。
「ゴメンな、急に呼び出して。でも、お前だけにはこれを見せないといけないと思って」
僕の表情があまりにも真剣だったのか、霞は何も言わずに僕について行った。
そして、リビング付近まで移動させたダンボールの前に立たせる。
ダンボールは電気の光を浴び、僕が初めて見た時よりも鮮明に染みついた赤黒さを際立たせている。
「これから見るもの全てを受け入れる覚悟はある?」
ダンボールからする異様な臭いや赤黒く染まったダンボールを見て大体のことを察したのか、表情が変わる。
「.......分かった」
霞がダンボールを開ける。
そこにはもちろん末那雅の生首が入っている。
その事実だけはなくならない。
霞は怒る動作も悲しむ動作も見せず、そそくさとその場を後にした。
表情も一切変わっていなかった。
「おぇぇぇぇぇ」
トイレからはいつもの霞からは考えられないような声が聞こえる。
出すものを出しきった霞はソファに座り俯いていた。
ダンボールの中を見た時に堪えていたものが全部溢れたのか、静かに静かに泣いていた。
僕はそっと机にホットココアを置く。
「今日は豪雨だな」
「.......」
僕は1口ココアを飲む。温かいはずのココアはとても冷たかった。
数分後、体が落ち着きを戻したのか、生暖かいココアを飲みながら僕に1つのファイルを渡してきた。
そこには『硲類』と書かれていた。