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「言ってた……けど、このアプリでってこと?いくらなんでも……」
ない、と続けようとしたが美沙の様子を見ると本気で怯えているようだ。けれど私にはどう考えても無関係としか思えない。そう思いたいだけなのかもしれないけど。
だが、美沙が言っていることが本当だったとしたら、勝手にアプリが別の物に更新されたことになる。
いや、昨日の内容の段階でかなり怪しいアプリだったから、それ自体はあるのかも知れない。ようはウイルスの一種だった、というオチ。
けれど、どうしても解らない。何故この子はアプリをアンインストールしていないのか……本気で信じてるのなら、なおさら疑問だ。
「……アンインストール、しないんじゃなくてできなかったんだよ。ううん、違うな。正確にはしても無駄だったんだよ」
「無駄ってどういうこと?」
「アンインストールしてもさ、気がついたらまた元通りに戻ってるんだよ」
流石にゾクリと寒気が走る。
いくらオカルトを信じていないとしても、それが所謂私の“普通”じゃないことくらい、解る。
それに実際に怪我までしているのに、こんな嘘はつかないだろう。そもそもつく意味もない。
ということは、実際にやってみた結果ということで……
「的場さんは何て言ってたの?というか、なんで美沙にそのアプリを?」
「さっきも言ったみたいに、お小遣い稼ぎにいいもの見つけたって……」
……何か引っかかる。
この内の集会の時も思ったけど、美沙と的場さんが親しかったとは思えない。
そんな相手から怪しいアプリを紹介されて、インストールする?
そうだ、考えれば最初の前提条件からおかしい。確かに美沙は物事をあまり深く考えない。
直情的な性格だと思う。だからこそ、人の好き嫌いがはっきりしている。
考えれば考えるほど、引っかかる。彼女は何故、このアプリをインストールしたのだろう?
「ねぇ、美沙。的場さんとの間に何かあった?」
「……あぁ、そっか。そう言えばそうだっけ」
「何が?」
美沙は少し寂しそうな表情で首を横に振ると、「何でもない」と言ってからふいっと視線を逸らす。
「大したことじゃないよ。咲との間にかぁ。特になかったと思うけど、なんで?」
「……いや、別に何となく」
まさか「そんなに仲良くなかったでしょ?」とは聞けるわけがない。
というか、仲良くないように思えたというだけで、実際に仲が良くないとは言い切れないわけで。
まぁ、けれど今はそんなことよりも、現状どうするかだとは思う。それは解ってはいるんだけど、実際私にどうにかできるとも思えないわけで……
そんなことを考えていると、くすくすと笑い声が聞こえた気がした。