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「もー、何なのいきなり!勝手に会話に入ってきてさー!」
緋華さんが去った後、美沙はよっぽど面白くなかったのか、べーっと舌を出す。
……少し感情的過ぎないだろうか?
確かにいきなりで戸惑ったが、彼女の言った内容は正論だったし、そこまで気にかかるような口調でもなかった。
しかし、美沙はよっぽど気に障ったのか、ぶつぶつと文句を言い続けている。こんなに根に持つような子だっただろうか?どちらかと言えば、あっけらかんとしてすぐに話題を変えるタイプだと思ったが……
一しきり文句を言い終わったのか、美沙は小さく息を吐くと、もう一度ずいっとスマホを私の顔に近づける。
「美沙?」
「ねぇ、やっぱり奈津美もやろうよ。これ凄いアプリだって」
そう言ってにこにこ笑っている彼女に、頭を抱える。
ひょっとしたら、先程の緋華さんの言葉で何故かは分からないが、反抗心が芽生えたのかも知れない。それで共犯として、私も誘っているわけだ。
「緋華さんも、私には奈津美がいるから大丈夫だって言ってたじゃん」
「そういう意味じゃないでしょ。そういう変なことに、あんたを突っ込ませない抑止力として私がいるっていう意味。だから私はやらないし、あんたも止めなさい」
「えぇ~、でもさ~」
まだ食い下がろうとする美沙にもう一度言葉を返そうとした時、チャイムの音が聞こえてくる。
助かった、一先ずはこの不毛な会話に終止符が打たれた。
さすがに、チャイムの音には勝てないらしく、美沙は「また休み時間に」と言い残して、自分の席に戻る。
うん、休み時間になったら、速攻教室を出よう。
チャイムが鳴って10分が過ぎた頃、教室内が少し騒がしくなる。
担任が現れない。本来であれば、チャイムが鳴って5分もしない内に教室内に入ってくるのだが、今日は一向に現れる気配がない。
廊下を歩く音さえ聞こえない。何か急な会議でも入っているのだろうか。
「全校生徒に連絡します。直ちに体育館に集合してください。繰り返します、直ちに体育館に集合してください」
数回のノイズの後に流れた放送に、更に教室内が騒がしくなる。緊急集会?本当に何か問題が起こったのだろうか?いや、起こったから集合がかかったのだろうけど。
何にせよ、集合しろと言われているのだから、その通りに行動しよう。どうせ理由はすぐ分かるだろうし。
席を立つと同時に何となく、緋華さんの席に視線を向ける。
たまたまタイミングが良かったのか、丁度席を立ったところの彼女と目が合った。彼女はそのまま私に笑顔を浮かべる。
その笑顔にゾクリとしたものを感じて慌てて、視線を彼女から外す。
上手く説明できないし、こんなこと思うのは失礼はことだけど、今日で分かったことは彼女は不気味だということだ。誰とも話しているところを見たことがないのが、不思議なくらい納得できた。
誰だって、あんな不気味は人間には関わりたくない。きっと、みんな本能で彼女のことを避けているのだろう。
体育館に生徒が集合すると、壇上に校長先生が上る。そしてマイクにスイッチを入れると、神妙な面持ちで、マイクに口を近づける。
「本日、1年C組の的場 咲さんが自宅で首を吊って亡くなるという悲しい事件が起きました」
は?
その子の名前に聞き覚えはある。確か美沙と仲のいい子だったはず。ちらりと美沙の方に視線を向けると、まるで興味がなさそうに、ふわぁっと欠伸をしている。
待って、何その反応……?
私が記憶違いをしているだけで、全然知らない子だろうか?いや、いくら知らないとは言え、人が亡くなった……ましてや、首吊りならおそらく自殺ということになるだろう。そんな話でこの態度はあり得ないだろう。
「本来であれば、死因については皆さんに黙っているつもりでした。それでも、きっとどこからか広まってしまうのでしょうが……」
校長先生は悲しそうな声で、そう続ける。だが、それはしょうがないかも知れない。
不謹慎ではあるが、こういったことを面白がって、大々的に吹聴する人間は今も昔も変わらずに一定数存在する。
ましてや首吊りとなれば、十中八九自殺。馬鹿な奴らが面白おかしく騒ぎ立てる絶好のネタと言えるだろう。
「ですが、今回みなさんを集めて、死因を告げたのは理由があります。咲さんは自分が首を吊る瞬間を携帯で録画していました……我々は咲さんがいじめられており、これはその延長線にあると考えています」
つまり、いじめで首を吊れと命令されてその証拠に動画を撮った?
いやいや、いくらいじめられていたとしても、そんな命令実行するわけはない。というか、そこまで行ったら、親なり教師なりに相談の1つもあるだろう。
それとも、自分をいじめていた奴らに「お前達のせいでこうなった」という意趣返しのつもりで録画したと思っているのだろうか?