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魏志倭人伝を読む  作者: 山本 正彦
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1.邪馬台国への旅(その1)

 『魏志倭人伝』という古代中国の歴史書がある。正確には『三國志 魏書 烏丸鮮卑東夷伝 倭人条(うがん せんぴ とういでん わじんじょう』といい、三世紀ごろの日本の様子を記した文章だ。三國志といえば、吉川英二や北方謙三の小説や、横山光輝や王欣太の漫画、歴史シミュレーションゲームなどでおなじみのあれだ。もっとも、正式な歴史書である『三國志』の他に、講談になった話をまとめた読み物である『三国志演義』もあって、どちらかというとそちらを題材にした作品のほうが多いのだが。

 ともかく、魏志倭人伝は古代中国のスーパースター、劉備や曹操、孫権らが覇を競い合った時代に日本人がどんな生活をしていたのかを知ることができる貴重な資料になっている。我々にとっては社会科の教科書にも載っている『邪馬台国論争』の題材としても有名だろう。

 これがとても面白く、そして、とても難解なのだ。


 魏志倭人伝の作者――陳寿――は、まずはじめに中国大陸から日本(当時は『倭』と称した)へ至る経路を示す。今はグーグルマップで世界中の地図を拡大縮小しながら自在に表示することができる。これを見ながら魏志倭人伝を読むと楽しい。

 魏の使者は邪馬台国を訪問するために朝鮮半島にある出先機関である帯方郡(今のソウル付近)を船で出発。海岸線に沿って南下して狗邪韓国(くやかんこく、現在の釜山付近)に到着。ここまで七千里あまり。つまり当時の航海技術では陸地から大きく離れないで岸に沿って移動するしかなかったということだ。今のようにGPSなどはないし、測量技術も未熟。船も木造船だ。これは無理もない話かもしれない。


 ここで疑問が湧き起こる。七千里というのはどれくらいの距離か。『里』という単位は今では使わない。昔話の世界の単位だ。日本では1里=4km、中国では1里=500mで換算するらしい。魏志倭人伝は中国の歴史書だ。ここでは中国の里で考えるべきだろう。ということは3,500kmだ。嫌な予感がする。グーグルマップでは直線距離を測ることができる(右クリックでメニューを出して『距離を測定』を選択)。測ってみよう。


 ソウル〜釜山間が約340km

 ソウル〜グアム間が約3,175km


 釜山どころじゃない。グアムまで行ってもまだ距離が足りない。魏の使者たちは「ちょっと倭国まで行ってきます」と言い残して、はるかグアムまで足を伸ばして、南国の海で豪遊!? いやいやいや……。

 直線距離ではなく、実際にソウル付近の海から沿岸に沿って釜山までの距離を測ってみると約700kmだった。5から10倍もサバを読んでいることになる。なんでこんなことになるのかについて日本の歴史学者たちは頭を悩ませてきた。例えば、


  1)この距離は大げさな数字で、誇張されているのだ

  2)この当時の『里』は今の『里』よりも短いのだ(短里説)


などなど。中には本気か冗談かわからないが、「この数字は正しい。邪馬台国はジャカルタ国で、今のインドネシアにあった」と唱える人までいる。

 個人的には誇張されているという説のほうが納得ができると思っている。魏の時代に朝鮮半島を支配していたのは公孫氏だが、彼らが反乱を起こした時に魏の名将の司馬懿 仲達によって滅ぼされた。そして、司馬懿は魏の皇帝の一族を倒して実権を握った。最終的には彼の孫の代で魏の皇帝から帝位を奪って新しく晋王朝が立てられた。三國志の著者の陳寿はその晋の臣下だったのだ。


「司馬仲達というお方は朝鮮半島から倭国にかけて広大な範囲を臣従させた偉大な将軍だったのです! 帯方郡から朝鮮半島の南までが七千里! 倭国の邪馬台国というのはなんと、一万二千里も先ですよ!」


 こんなおべっかを使ったのか、あるいは使わざるを得なかったのか。陳寿も雇われている身だから、現代のサラリーマンの悲哀と同じ気持ちを抱いていたのかもしれない?

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