第82話:S級クラスの冒険者
ーウィルス視点ー
レントに持って行こうとした水の入ったコップ。魚料理も美味しかったからレントも気に入ってくれると思った、のに。なかなか食事に手を付けないからどうしたのかと聞いてしまった。
考え事をしてボーっとするのはよくないんだけど、色々と考える事があるだろうから深くは聞かない。
「ん。美味しいね」
お肉料理を食べさせたら、凄く嬉しそうにしてくれた。私もまったく同じように嬉しかったから、次を用意しようとしてふと気づく。
レントに飲み物が無い事に気付き、頼もうかと言えば「水でお願いしようかな」と言ったから、店員さんにお願いすれば良いかと思い持ってくると言って席を離れた。
「すみません、お水を1つ貰えますか?」
「はいよー」
すぐに用意してくれたから急いで持って行こうとして、誰かと軽くぶつかる。全部では無いけど、服を濡らしてしまったか……と恐る恐る顔を上げると、相手は20代位の鍛え抜かれた体をした男性だ。
「ご、ごめんなさい。あの、服……」
「んーー? あぁ、良いよ。すぐに乾くさ」
それに――、と言いながら私の腕を掴んでくる。思わず「いたっ」と言えば、悪いと言いつつも離す気がない様子。よく見れば顔が赤く目がトロンとしている様子から、酔っているんだと思い後ろに下がれば仲間と思われる人達が囲んでいた。
皆、顔が赤くて酔っている感じだった。
思わずどうしようかと思っていると「これから俺達と遊んでくれねー」と言われ思わず「えっ」と反応をする。
「俺達と遊んでくれたら、良いからよぉ~。随分、可愛い顔してるし可愛がってあげるよ?」
「え、あ……あのっ」
何だか怖くて下がろうとすると、仲間の1人が私の肩を抑えた。ビクリと思わず体が震える。なんだか、手付きがおかしくてペタペタと触れて来るのが何だか気持ち悪く感じた。
その手が段々とスカートを捲し上げるような感じに動くから思わず叫んだ。
「っ、やめてっ!!!」
声をあげた途端、急に1人の男性が痛がりだした。
「いてててっ!!」
「おちおち食事もできねぇってか」
「へっ」
次の瞬間、腕をとった男性をそのまま組み倒した。あまりにも早すぎて何をどうしたのか、と分からなくてキョトンとなる。すぐに周りの仲間と思しき人達のうめき声が聞こえる。
「何する気、だったの?」
「ぐっ……」
「うぐっ」
普段よりも幾分か低く言うナーク君。相手を睨んでいる迫力は凄くて、別の仲間が「ひぃ」と声をあげる位に怖いのだろうと思った。
「ふんっ、お前もそんな恰好でうろつくな。だから酔っ払いなんかに狙われるんだぞ」
「す、すみません………」
全身をフードで隠した人物は声を聞けば男性なのだと分かる。うぅ、この格好がマズいのかと思っていると、レントが慌てて駆け寄ってくる。
「ウィルス!!!」
「あっ……」
水を持ってくるのが遅いのだと思って謝ろうとしたら、ギュっと抱きしめられた。思わず(えっ)と思っていると「何かされた?」と言われ首を振る。
「あの、この方に助けて貰って………」
「コイツの連れか。だったら1人で行動させるな……。女に飢えた連中に狙われるぞ」
「すみません。……ありがとうございました」
さも興味もないような様子で会計をすませて、お店を出て行く。お礼を言おうとして慌てて追いかけて「お名前は!!!」と、フードを掴んだからその拍子にパサリと被っていた物が取れる。
「何しやがる」
浅黒い肌に鋭く睨まれた黒い瞳。金に近い髪を後ろで束ね凄みのある雰囲気に、思わずどう接すればいいかと迷ってしまう。でも、お礼が言いたくて何とか声に出す。
「あ、ありがとう、ございました。危ない所を助けていただいて」
「彼氏とデートするなら別の所が良いぞ。酔っぱらないの居るようなところになんか来るなよ」
「き、気を付け、ます………」
乱暴な手つきで頭を撫でられ「じゃあな」と言って、ゆったりと歩いていく。結局、名前も聞けないままになってしまった。乱暴な感じなのに、何となく優しく思えるのは何でだろうか。
「………。」
思わず触れられた頭を再度自分で触れる。
バルム国にも面倒見が良いのに、顔が怖くて誤解されやすい騎士団長さんが居たのを思い出す。……きっと、あの人もそんな感じの人なのだと思い、姿が見えなくなるまでずっと見ていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーリベリー視点ー
あぁ、弟君の睨みがキツかった。
食事も落ち着いてしたいものだ。………まっ、今頃、ラーグレス辺りが制裁を加えている気がする。
姫さんの保護者は多いからな。オレも、バーナンに頼まれたけど似たような立ち位置だ。バーナンも怖いからなぁ……弟君と同じで容赦ないからな。
「女性に手を上げるだなんて、男として最低だよ」
そう言ってラーファルさんが、ラーグレスと出て行ったからあの人も何かする気でいるんだろう。……普段怒らない人が怒るのは怖いし迫力がある。
「……ギルド本部、か」
姫さんの事を助けた男を尾行していたら、辿り着いた先はギルド本部。ギーブナーで見たのよりも大きく、3階建ての屋敷にも似た建物。
入り口や屋根の部分には、ギルドマークを示す旗が掲げられている。入るべきか迷っていたら、「何してんだ」とオレに声を掛けてきた人物が近付いてくる。
「げっ」
「会っていきなりかよ、全く……」
なんでローレックがここに居るんだ。オレを見付けて周囲を確認するように、見渡し「他は?」と聞いてくる。
「王都で夕食食べてた。……ちょっと、トラブルにな」
「今度は何した」
なんかオレがやらかした、みたいな言い方するのはムカつく。そう思ってローレックに事情を話せば「大変、だな……」と哀れむような目で見てきた。
うっさい。オレはよく頼まれ事するんだよ。……そういう事にしといてくれ!!!
「金に黒い瞳。浅黒い肌の男ね……こっちも用があって来たんだ。なんなら入るか」
「アンタと?……余計目立つわ」
断ってるのには、気にしないでズカズカ入るし。
だから、そう言う所が嫌なんだよ!?
「こんばんわ、ローレックさん。マスターに用事?」
「まぁな。都合、つけられそうか?」
「ちょっと待ってて」
受付をする人に軽く話しかけ、流れで本部のギルドマスターに会うらしい。逃げようとしたら「どうせ会うなら一緒だろ」と強引に引っ張られる。
「やぁ。久しぶり、お互いに生きてて良かったね。……と、そちらは?」
ローレックが無断で入った部屋。綺麗に整頓されており、書類が散らばっていない。足の踏み場がきちんとあるし、掃除されているなと見ていたら目が合った。
姫さんの事を助けた男と。そらせない位に、ガッツリと。
「お前、さっきの店に居たな。……女の連れか?」
「あー、まぁ……。そんな所です」
「俺の後をつけ回っても、面白みも何もないぞ」
「彼女に、名前教える位は……と思って」
「……何?」
訝しむ目で見られるが、オレとしても名前は知っときたい。弟君が言うには、剣の柄の部分にギルドマークがあったのを、確認している。遠目から見て、ナークが割り込む前の動きも早かった。
相当、腕のたつ相手だと見て良い。名前と顔を把握しときたいのは、姫さんの為でもあるが自分の為でもある。
「俺からも頼むぜ、S級クラス」
「S級……?」
えーっと、確かにギルドのランクであったな。じゃあ、弟君がAで止めていたって言ってたから、その上か……。
「暗殺者のコイツが興味持つんだから。よっぽど気になったんだろ」
「おい!!!」
「ほぅ……」
睨まれた……。余計な事を、とローレックの奴を思いきり蹴る。まだ何かを言いそうだったから、慌てて下がらせる。
「なっ、おい」
「お蔭様で国に着いたし、枷も外れた。良かったんだか、事情があるんだよ!!」
「おぉ、お姫様の枷が外れたか。な、ここは優秀だろ?」
「優秀なのは感謝するがな……。頼むから姫さん達の事は待ってくれ……多分、向こうから言われるんだろうが」
小声で話ながら声が大きくなりそうな時には、腹に一発殴って黙らせる。……ローレック、頼むから先走りするなっての。
「どうせ関わるんだから、良いだろうが」
「オレが弟君に怒られるの! 分かる!?」
「………そんなにか?」
頼むから弟君の逆鱗に触れるような事をしないでくれ、オレがすっごく困るんだよ。すると、後ろから「ちょっと良いかな」と優し気に話しかけて来る優男。
紫色の髪に眼鏡を掛けた優し気な雰囲気の男性。オカッパ頭だからなのか、ニコリとしているからなのか、底が読めない感じだ。
「初めまして、冒険者ギルド本部のギルドマスターをしています。名はエファネ・ラードンと言います」
「………リグート国の、リベリーです。元暗殺者だ」
驚いたように目を見開かれ、思わずローレックの事を見る。なんかおかしな事でも言ったのか?
「いえ、申し訳ないです。その……随分とはっきり言うのだなと思いまして」
「嘘を言っても意味はないでしょ。それにオレが言わなくてもローレックが勝手に言うしな」
「減るもんじゃないのに、何言ってるんだか」
指を指しながら嫌味たっぷりで言うが効かないしな。そうしていたら「傭兵時代の……」と1人で納得したみたいな顔をしてきた。
「リグート国……中央大陸の方がワザワザこちらにどういった用件で?」
「あー、えっと……」
再度、恨めしくローレックの事を睨む。姫さんの事は言わず、観光として来たら連れが人攫いにあったと簡潔に言い、ローレックの所に世話になっていたと説明をした。
世話になる代わりに、ローレックの用心棒的な事をしたり暗殺ギルドとも戦った詳細を言えば「お気の毒に……」と同情された。
「連れってのは、さっき襲われた女の事か?」
「ま、まぁ……あの容姿だから、色々と危うくて」
弟君がベッタリしたいんだろうが、外だからと加減した。そうしたら、姫さんが注目浴びるしナークが怒るしでいつもの後処理を押し付けれた感はある。
そしたらオレに「勝手に出歩かせるな。また同じ目に合うぞ」と注意を受ける事になった。……オレだけの所為なの?
「ほら、言われていた獲物の首だ」
そう言って何もない所に手を突っ込み、物を引きずり出すようにして取り出されたもの。獣の首だ。それをホイホイ4つも出してきて思わず目を見張った。
だって、黒い見た目に赤い瞳は、まるで──。
「魔獣が4体、周辺に居たから狩ったぞ。依頼も似たようなものだから別にいいな」
「えぇ、ありがとうございます」
ローレックから聞いてはいたが、こんなすぐにとは思わなかった。弟君も警戒していた魔獣……。ナークを実験体にして姫さんの事を狙った連中だ。自然と殺気立つし、隠す気もないから別にいい。
弟君には良い報告が出来そうだと思い、知らず知らずの内に笑みが零れていた。




