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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
97/256

魔力の制御


「ミャウ、ミャウ」

「はいはい。大人しくね、カルラ」

「ミャー……」




 ラーファルに注意を受け、暴れていたカルラはピタッと大人しくなる。レントも予想がつかない事態に困り顔であり、さらに困った様子でいるのはギルダーツとルベルトの2人だ。


 現在、ギルダーツの執務室には部屋の主であるギルダーツ、弟のルベルト、事情を知っているレントとラーファル。そして、目の前で状況を見聞きしたアッシュとアーサーの計4人と1匹が揃っていた。




「アーサー、アッシュ。悪いがこれから言う事は他言無用で頼む」

「は、はいっ」

「分かり、ました………」




 ギルダーツの言葉に、アーサーとアッシュも青い顔をしたまま項垂れた。しかし、アッシュはそうした中でもカルラの方へと視線を向けていた。




(カルラ……。聞いた事、無いはずだ……でも)




 チラリと見る。自分はあの猫の姿を見て、どうにも懐かしいような不思議な感覚に囚われていた。

 ラーファルと戯れるカルラと呼ばれている猫はチラチラとアッシュの事を見ていた。不意に目があったかと思えばタタタッと、素早く動きアッシュにすり寄った。




「フミャアー」

「………。」

「ミャウ、ミャミャ」




 甘えたような声にアッシュはどうして良いのか分からず、アーサーを見てしまうが彼も困ったようにするだけだった。しかし、その間もカルラからの甘えた声は続き、すぐにアッシュの肩へと移動し頭をこすり付けてくる。




(うっ、どうすれば……)




 普段なら追い払う。しかし、彼もアーサーもウィルスが猫になる瞬間は見ていない。魔力の光が満ちて目を閉じた。


 そのすぐ後に猫の鳴き声が聞こえた。

 状況的に見ても、彼女が出て行ったとは考えて難い。ギリギリまで手を触れていたアッシュは、確かに彼女を握り共に水晶へと手を伸ばした。


 そして、重ねられていた筈の手が段々と()()()なっていくのを感じた。


 だから、今、自分の肩に乗り遊びたいのかずっと鳴いていても……無視は出来ない。

 扱い方が分からないのだ。猫として接して良いのか、ウィルスとして接して良いのか……その判断を、アッシュは正確に下せない。




「ミャウゥ……」



 

 例え寂しそうな声を上げようとも、こちらに視線を合わそうと必死で動いても。今のアッシュには、答えが見付からないからこそ何も答えられないが、アッシュの答えだ。




「カルラ、おいで」

「ニュウ………フミャ♪」




 じっとアッシュの事を見ていたが、レントに促されて迷う素振りを見せるカルラ。しかしすぐにレントの方へと全速力とも言える速さで肩に乗ったかと思えば、何回か頭突きをしてくる。


 八つ当たりともとれる行動にレントは涼しい顔をして「明日、思う存分遊ぼうねぇ」と予定をいっていけば、耳をピンと立ち目を輝かせている。




「カルラ。悪いんだけど、ウィルスと代われる? 直接、話をしたいと思うだろうし原因も探りたいしね」

「ニャウ~~~♪」




 嬉しそうに鳴いてレントの隣に降り立ち、カルラに付けられた首輪が光り輝く。光が段々と人の形を形成するように作り出され、瞬く間にうつ向いたままのウィルスが姿を現す。


 研究科で水晶をかざした時と同じ、フリルの多い緑色のドレスを着ている状態のまま。ルベルトはその光景に驚いたように目を見張り、ギルダーツは1度見ているのであまり驚いた様子はないが、周りの反応に一応合わせるように驚いたフリをした。




「ご、ごめん……。レント」




 申し訳なさそうに謝るウィルスに、レントは笑って「何があったの?」とどういう状況だったのかを聞く事になった。ポツリ、ポツリとその時の状況を話し出し落ち着いた所でラーファルから紅茶を用意され手渡される。




「はい。最後まで落ち着いて、話してくれたご褒美だよ」

「ありがとうございます………」




 意気消沈となったウィルスはおずおずと出された紅茶を受け取りながらも、ずっと彷徨うように周りと合わせないようにしている。レントはその間に話を進めていた。

 ウィルスは呪いにより、カルラと融合している状態である事。今は、最長で3日程まで伸ばせたが本来なら夜の時間帯はウィルスのまま、朝と昼はカルラの状態でいた事などを話していく。

 



「………そう、か」




 ギルダーツは話を聞き、この事を国王にどう説明しようかと迷っていた。結界の修復にはどうしてもウィルスの力が必要不可欠であり、出来る事なら最速で進めたい内容だ。

 しかし、レント王子の話を聞き急がせるのには難しいと言うのも分かった。3日ごとに姿が入れ替わるのなら、どんなに早くても1カ月以上は掛かる大仕事。


 魔力制御も覚えてからとなるとさらに時間は掛かる。

 動物の姿に変えてる魔法はあるが、それが一定の時間の範囲で合って1日以上姿を保つことなどできない事。そうなると、魔法師団に管理するよりは魔女達に任せおく必要があるのか……と、様々な事を対策として練る必要があるのだと悩ませた。




「じゃ、レント。私はこのまま姫猫ちゃんと一緒に魔力制御について話しておくね。このまま研究科の方に移動して、訓練を続ける形になるし」

「お願いするよ。レーナスにも連絡しておく……多分、すぐにでもすっ飛んでくると思うけど」

「……だろうね。フォローをお願いする形になるけど」




 レーナスは既にウィルスの状況について知っている。その時の「もっと詳しく、むしろ本人から聞きたいんだが?」と詰め寄ってくる様にレントは失敗したなと思った。

 既に研究者魂としての使命感に燃え、全てを解決させる気でいる彼の行動を危険とみなしエリンスと共に対策を練って来た。しかしそれにもそろそろ限界が近付いてきてる。




(だからレーナスには知られたくなかったのに……)




 知ってしまったら最後。ウィルスが嫌がったとしても、無理にでも自分の仮説を実行させようとして来る大人。何で研究熱心の者は、こうも人の迷惑を考えずに行動を起こすのだろうかと本気で悩むしかない。




「ウィルス。無理なら無理っていいよ。それでもダメならまた私の事を呼んでね?」

「………うん。そうする」




 反応が遅れる彼女は、何処かぼんやりとしている様子。一応、ナークにも念話でウィルスの状況を伝えレーナスから無理な要望をしてきた場合、実力行使で止めてもいいと言う事を伝えた。




《了解。王子も主の機嫌治るような方法を考えておいて》

《だったら王都を見て回るよ。出かければ少し気分転換にもなるしね》

《ん。主には内緒にしておく~》




 満足気に答えた後、レントは気を取り直して王都へと出掛けて行った。元気が無くなったウィルスには、何か贈り物をしようと思い出かける準備を進めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「——と、言う感じにイメージを膨らませるって感じだね。魔力が多くある人はその制御をするのにも一苦労するから、姫猫ちゃんが扱え切れないのは仕方ないよ」

「は、はい……」




 研究科へと戻り、すぐにアーサーが使う研究所へと向かった。様々な大きさの瓶がズラリと並び中は何も入っていないように見える。しかし、アッシュの説明によれば中身は見えないように施しているだけで、栓がしてあるものに全て中身が入っている状態なのだ言う。


 ウィルスの呪いの状況を聞いたアーサーは、アッシュと共に行動をするようにとギルダーツに言われているからだ。人に広まる事でウィルスに対して奇異な目で見られるのを、良しとしないギルダーツからの命令であり、王子から言われたのなら実行するのが自分達だ。


 アッシュはチラチラとウィルスの事を気にし始めた事により、アーサー的には都合が良いかと考えた。どうもカルラと呼ばれた猫に関して、何かしら彼の中では変化が起きていると踏んでおりきっかけになればと思ったからだ。




(……上手く行けば、記憶を取り戻すかもしれない。アッシュ的には苦しいだろうけど、この状況を使わない手はない、か)




 今も遠巻きであるがウィルスの事を気にしている様子。ラーファルはその視線に気付きつつも、気にしないフリをしウィルスに説明を続けていく。

 

 水晶に魔力を集中させれば、渦が生み出され中で暴れ回る。

それは自身の力を制御出来ていない証拠であり、魔法師団の所属している者が最初に始める事であり基本中の基本だ。

 暴れ回る渦を自身の中で制御し、形にはめる事で徐々に自分の魔力を意識して制御すると言う訓練をウィルスは行っている。




「姫猫ちゃん。自分の魔力の色と言うか、どんな感じだったか分かる?」

「光で珍しがっていました。……白っぽい、霧みたいな感じだったと思います」

「じゃあ、急にカルラになったのは暴発と言うよりは初めて自分の魔力を視覚化で来た事によるものだね」

「………視覚化、すると何か変わるんですか?」

「うん。こんな感じになるかな」




 言葉と共にウィルスはピリッとした空気を感じた。


 まだ視覚化出来るのは、先程の研究科の者から貰った飲み物もありブレスレットやブローチのお陰でもあるのだろう。薄い緑色の膜の様なものが、ラーファルを包み込むような不思議な現象が見える。


 見間違いかと思って、目を何度かこする。でも、見える状況は変わらず未だにラーファルの周りに纏う膜の様なものは消えていない。じーーっと、見ている内に近付いていると言う意識が無かったのだろう。

 クスクスと笑うラーファルにキョトンとしていると、思いのほか近付いていたのだろう。かなり彼の顔がドアップに見える。




「あっ……ご、ごめんなさい!!!」

「平気だよ。そんなに真剣に見つめられるからちょっと驚いたんだよ」




 ささっと離れるウィルスの顔はかなり赤く、湯気が見えてしまうのではと思う程に誰が見ても赤いのだと分かる。その様子も何だか楽しそうに笑うラーファルに、ウィルスの沈んでいた気持ちも段々とではあるが晴れていく感じになった。




「訓練をしてるんだったな。どうだ、視覚化した感想は? 自分の魔力を視覚化出来ると流れが見えるんだが、君にはどう見えるんだ? 色は? 自分が得意とされる魔法はほぼ色で決まるんだがな。 で、どんな感じなんだ?」

「あ、え、あ、あの………」




 戸惑った様子のウィルスは、突然目の前に現れた美形の男性に驚き思わず後ろへと下がっていく。しかし、男性は気にした様子もなく矢継早(やつぎばや)しに質問していきとうとう壁際まで追い詰められた。




「それで、君はどんな感じに見えるんだ? 王子から話は聞いている。魔獣に対抗できる唯一の魔法。その力の詳細は一切不明だし、使える者はごく一部だと聞く。こんな身近に使える者は居ないのだ。猫であろうが人間であろうが関係ない。使えるものは猫でも使うぞ」

「あ、あのぉ………」

「こうなったら、猫の状態でも魔法を扱えるように訓練しておく必要があるかも知れない。意識は共有していると言う話だし、猫でも人間でも見聞きしているのは同じなのだろ? だったら、猫でも魔法を扱う事は出来るだろう。意識が共有してるのなら、力だって一緒に扱える筈だ。それで――」

「「止めろ!!!」」




 レーナスが鬼気迫るような圧に思わずウィルスは答えられず、ラーファルとナークが思い切り引っ叩きズルズルと離されている。呆けた様子で見るウィルスは、力が抜けたようにストンと座り込む。

 アッシュが慌てて近付けば、ガシリと服を掴まれギョッとなる。




「こ、怖いぃ………」

「………。」




 まるで獰猛な動物に睨まれたかのような怯えようでウィルスは、アッシュに縋りつく。その後、アーサーと2人掛かりで「大丈夫」、「怖くない」と説明したが、既にレーナス=怖い人、と言う認定をしてしまった彼女は、暫くの間顔を合わせる事が困難になった。


 ナークが全力で「気絶させて吊るす……」とワイヤーで捕まえようとする彼の行動を止める者もおらず、レーナスは全力で「怖がるような事はしていないだろ!!!」とわかっていない様子。



 その事を聞かれたレントによって、レーナスはウィルスとの接触を禁じられるようになり「納得いかん!!!」と憤慨した様子でおり、とても悔しそうにしていた。



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