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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第79話:アッシュの印象

ーレント視点ー



「ふみゅ……」




 何度目になるだろうか、この可愛い声を聞くのは。

 ウィルスがスリスリしてる仕草とか、安心しきった寝顔とか……ホント、いつまでも私の事を夢中にさせてくれるよね。


 ウィルスからキスが欲しいと言われて、そのまましたんだけど……その後の緩み切った顔が可愛くて暫く観察していたら夜中になっていた。私も何度か寝たんだけど、どうも落ち着かなくてね………いつもはリグート国で、私の自室で寝ている生活だからか体が変に慣れてしまったのだろう。


 場所が変わっているし、2人分よりも大きいベッドはフカフカで気持ちが良い。ラーファルから手紙で報告が聞いてたから、ここの国の人達の自分達に対する待遇の良さは凄いと改めて思った。




「みゅにゅ……」

「ふふっ、プニプニしてて可愛い」

「ん、ん…」




 弾力のある頬。他人が触れたらどうなるのだろうか、と思うが私が触れている時にだけ可愛い顔してくれたらどんなに嬉しいか。……でも、ウィルスは皆を笑顔にするだけの力はあるから万人受けだと言うのも分かっている。


 既にルーチェ様が入っているから、弟のバーレク様も直にウィルスの事を好きになるのは目に見えている。ウィルスの周りに人が溢れているのはとても良い事だ。

 だけど、と違う部分では否定がある。


 婚約者である私の前でだけの特権が欲しい、と。




「安心しろ。レントをキレらせたらどうなるかなんて、分かってるから」




 ふと、呆れ顔のエリンスが思い浮かぶ。その後ろでラーグレスが黙って頷いている図まで想像出来てしまう。




「…………ある意味、10年越しだもの………絶対に手に入れるって決めていたんだ」




 あの日、あの時に私はウィルスに一目惚れをした。

 地面から真っ逆さまに落ちるような感覚。凄い衝撃で私の心に強く、印象深く残った彼女――ウィルス。


 ここまで夢中になれるのは、いつもウィルスだけ。ウィルスが居ないと私は壊れてしまうのだと簡単に想像がついた。




≪王子。今、入っても平気?≫




 その時、ナークからの報せの念話がはいる。

 断る理由も無いから平気だと告げれば、音も立てずに私とウィルスの傍に姿を現した。




「……良かった。寝てるね、主」




 ふっ、と優し気な顔になる。

 ウィルスと契約を結んでからと言うもの、彼は極端に変わったのだと言う印象を受ける。今も恐る恐るだけど、ウィルスの頬を優しく撫でている。

 ゴロン、と彼女はナークの方へと体を半回転させた。一瞬、起きたのかとドキリとしたが寝息が聞こえてきた事でほっとした様子。


 大袈裟に息を吐いた彼を見て、思わず笑っていると睨まれてしまった。




「だ、だって、起こしたら悪いと……思って」




 気恥ずかしそうにカリカリと頬をかく。その仕草がなんだかおかしくて、笑っていると不機嫌になるのが早くプイッとそっぽを向いてしまった。




「……どうだった。この国の事、何か分かった?」




 その質問に反応を示したナーク。

 むっとしたままで睨むのは忘れない所。彼は根に持つタイプかな?




「結界の詳細は王族しか知らない機密事項らしい。……でも、効力が段々と弱まっているのは確かだって」




 不安げに話す師団の人達の様子を語ったナーク。


 この国の守りは強力だと言う。

 嵐が来ようとも、砂嵐が来ようとも、国全体も含めてこの国の領地となっている場所にはその爪痕すら残らない。強力な魔法に関しても同様の働きをする。


 魔物が襲い、街や国が無くなるのも珍しくない。

 しかし、ある時を境に徐々に崩れていったとされるのだと、ナークは言う。




「バルム国が、滅んだとされている……5年前。その位から、守りは強力じゃなくなったって言われている」

「……そう」




 ウィルスを起こさないように、そっとベッドから抜ける。そのとき、ぐぐっと私の服を掴んでいる。丁寧にやろうと思うのに、なかなか離れてくれない。

 



「少しの間だけたから。遠くに行かないから、安心して」

「ん……」




 

 分かった。と言わんばかりに、嬉しそうな表情になる。大丈夫だと言う意味を込めて、頬にキスを落としていく。途端に力が抜けたのか、服を掴む事はなくなった。


 ナークが撫でてるから、そっちにも意識が言ってるかも知れない。




「それでもあんまり離れてないよ?」

「遠くには行かないって言う約束だからね」




 2人で座ったのはベッドから少しだけ離れた小さいテーブルとイスが2つ。向かい合わせで話さずに2人して、ウィルスの事を見ながら話すのだから考えている事は同じだとも言える。




「ウィルスの周囲には常に風を纏わせているから、不穏な何かが近付けばすぐに分かる」

「いつの間に……」




 驚いている様子のナークの質問に私は、大ババ様との時に思い知らされたと言えば……なんとも微妙な空気になった。

 ナークは傍に居たけど、一瞬だけウィルスの傍から離れてしまったのだ。転送の影響で、近くに居てもある一定の距離から離されてしまうもの。防ぎようがない事なら、事前に打つ手は打つと言う事をするべきだろうと思った。




「………ごめん」

「逆だよ。あの時、ギルドの連中を叩き潰したくれたじゃない」




 思わず連中と言ったけど後悔はない。何故ならウィルスに恐怖を教えたからだ。薄汚い手で彼女に触れられるのは我慢ならない……そう思っていると、ナークから「触れる前に叩き潰した」と嬉しそうの言った。




「流石、ウィルスの従者だね」

「うん♪」




 誇らしげに言い、エッヘン!! と胸を張る彼は年相応だと思い本当に良かったと思う。すると、ナークは私にある忠告をした。




「聞いたかもだけど、バルム国の生き残り……本名はカーラスさんだっけ。その人、主の傍に居たからラーグナスさんとも顔見知りの筈」

「………護衛、かな」




 私の場合、魔法と剣術を扱えるジークと剣術のみのバラカンスがいる。兄様場合、リベリーが接近も遠距離も出来るオールマイティーだから似たようなものだ。

 王族である以上、傍に居る人物は自然とその人の護衛役として認識される。

 それで地位を築いている者もいるが、実力が無ければ選ばれない。そんなに甘くはない。




「魔法について学んだらしいけど、主は魔力はあっても扱えないって言われ続けていたみたいだよ?」




 だから、カーラスの事は護衛と言うよりは先生に近いものかもと話す。ラーファルが私に魔法を教えた様な間柄かと納得する。ウィルスは私が風を扱うと目を輝かせて「凄い!!」と言ってくれる。

 刻印を受け付けるには魔力量が高くないといけない。その条件に当てはまったからこそ、彼女は私が試しにとつけた刻印を受け入れ今もそれを身に宿している状態だ。




(魔法を知らないと言うよりは、やらせていなかったと見るべきか)




 もし、ウィルスが気付くよりも早く……カーラスや彼女の両親が、魔獣に対抗できる力を持っている事に気付けていたのなら。

 気付いていながらも、隠す理由があるのだろうと思う。


 母親がその力を持っていたのなら、ウィルが生まれてからも人知れず魔獣と戦っていた可能性がある。




(……ウィルスに戦いを、知って欲しくなかったとか?)




 

 ラーグレスからは両親の愛情を一身に受け、素直に育ったと言っていた。笑顔が曇らず周りを明るくてらしてくれる笑顔が、周りは好きだったとも聞いている。




「魔法を扱えば魔獣に狙われる。……それが分かっていて、ワザと遠ざけたのか」

「………今回、それが裏目に出て苦しめられているんだね」

「んーー。呪いの事を言うと、自然とミリアの事も話さないといけないし……参ったなぁ」




 でも、と少し思う。

 ミリアの魔力を何かしらで封じたのなら、その方法を魔獣側は有している事に繋がる。それは魔法で有効に効くと言う事が根本から見直す必要がある。明日にでもギルダーツ王子に知らせるべきか……と、思っているとナークがカーラスの印象は怖いものだと言ってきた。




「何と言うか……雰囲気は柔らかいのに、たまに突き刺すような視線を感じる事があるんだ」

「……ナークの居場所がバレてるの?」

「かもね。と言うか、守備範囲が王子同様に広いんだよ」




 何でも普段はニコニコとしているのに、突然雰囲気が変わったように空気が肌を刺すような冷たい感覚に晒される時があると言っている。しかも、同じ師団の者に向けるような物ではなく……ナークやリベリーの様な暗殺者に対してのもの。




「主の護衛だからなのか、ボク達の気配にも敏感だから体が覚えているのかも知れない」




 例え自分の名前や記憶がなくとも、体に染みついた物はなかなか拭えない。それが王族の護衛を任せられる程の腕なら尚更だ。だからナークは容易に彼には近付けない。近付いたら、恐らくは敵認定を下されて危ういから無理なのだと珍しく弱気だった。




「だって……あの人、宰相みたいに、怖いんだもの」

「……イーザクが悪い事をしたね」




 ここに居ない彼の代わりに私が謝る。まぁ、少し前に怒鳴られたからその分も含んでいるのだと思っておく。これは私から会ってみるべきかも知れないね。




「主と寝る~~」




 バフッと当然のようにウィルスの傍で横になるナークに、思わず笑顔で牽制する。何でそんな行動になるのかな、と睨みもしたいが……彼には効かないし、無視すると言う一択ではナークの方が分があるしね。


 すると、ウィルスはナークの服をきゅっと強く握りしめた。……私と勘違いしているんだと分かりすぐに、離れるように言うと「ボクもぎゅっとする♪」と軽く抱きしめていた。




「ちょっと……」

「王子も来ればいいじゃん。2人して寝れば、護衛にもなるしどっちかは必ず気付くでしょ?」




 まぁ、そうか。

 気配に敏感なナークは眠りが深くとも、自然と対応する力はある。私も自分も含めて風のバリアーを張り巡らせている。人の気配にも敏感だから、何者かが入ればすぐに気付くし弾き返す様にしている。




「仕方ない、か」




 ナークに負けたとばかりに、反対側でウィルスの傍まで歩み寄る。何だかいつものように3人で寝ているような気がするけど、護る為と言うのなら仕方ないか。


 ……翌日、ウィルスがどんな風に驚くのか楽しみにしていると、笑顔を向けて来るナークと目が合う。




「おやすみ、王子」

「うん。おやすみ、ナーク」




 そうして意識を眠りの方へと傾ければ、自然と体の力は抜けていく。

 2人してウィルスの事を抱き枕のようにしているのは、ダメだと分かるが抗う事が出来ないのだ。


 彼女はフワフワとしていて、気付いたら何処かに行くんだ。手綱を誰かがしっかりと握らないといけない。

 魅力的過ぎるからとか、いい香りが睡眠作用があるのだろうかと考えていたらいつの間にか寝てしまっていた。


 

 別に慌てるウィルスを見るのが楽しみにする気はない。ナークと共に楽しみに寝るとか……そんな恐ろしい事なんて、するわけないじゃないか。


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