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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
92/256

第76話:お兄様にプレゼントです!!!

ールベルト視点ー



 落ち込んでいるウィルスが少し元気になって、2人でレント王子達が待っているであろう客間へと歩く。アーサーは彼女の魔封じの枷について調べる事があると言い、先に研究科へと戻っていった。



「………。」




 彼女は少し落ち着いていても、表情はまだ優れない。

 当たり前か。自分も生き残ったのは魔女のお陰だと言うし、従者でもあり護衛をしていたラーグレスも同様だ。

 カーラス……今はアッシュと名乗っている彼は、恐らくは自力であの場を生き残った可能性が強い。


 ウィルスから話を聞くと彼の扱う魔法は、水魔法よりもコントロールが難しいとされる氷の魔法であると。魔獣は魔女を狙う習性もあるが、魔力が強い者を狙う傾向にもある。


 恐らくは魔女が高い魔力量を有して魔獣を殲滅している事。それらが、魔獣側に警戒の意味も込めて自然と魔力が高い人間を狙うのだろうと思う。




「氷か………」

「ルベルト様?」




 ふと、出ていて言葉にウィルスが反応をする。

 ギルダーツに報告してから父にして良いかと考え、ウィルスに何でもないと言いゆっくりした足取りで向かう。私達以外に2人程、弟と妹がいると言えば「兄弟が多いんですね」とちょっと羨ましがられた。

 ………いや、面倒事が多いんだよ。特に弟のバーレクは、ね。




「ふふっ、そんなに動くのが好きなんですかバーレク様は」

「ウィルス。アイツそれはダメだよ? つけあがる」

「ええっ………そう、なんですか?」

「うん。絶対に私やギルダーツに自慢してくるんだよ」

「毎日が楽しいじゃないですか」

「………ウィルスの方は王子と過ごして楽しいんでしょ?」




 途端に爆発するように顔を赤くさせ、うつ向いてしまった。でも、すぐに顔を上げて「楽しい、です……」と小さく答えてくれた。




「ふふっ。君達が仲が良いのはこっちでも聞いてるから心配してないよ」

「う、うぅ……他国にどんな風に見られているんですか」

「んーーー。第2王子の溺愛ぶりは凄いって海を渡って来て聞くよ」

「はうっ………」




 ますます顔を赤くしてその場に座り込んでしまった。

 私も同じようにしゃがめば「レントのバカ……」と、恨めしそうに言っている。それでも幸せであるのは私も分かるし、国を滅ぼされても元気でやっている事には正直……感謝さえしている。




「私達が来るのが遅かった。紅蓮の魔女のミリアの事もあるけれど、彼女とはあれ以来連絡が出来なくてね。……無事であれば良いんだけど」

「………。」




 その時、ウィルスがギクリとしたように顔を逸らした。

 黙って見ていると何故だか、私に気を使うようにして離れていく。




「……知ってるんだね、ミリアの事」

「い、いえ!!!」

「大ババ様からは心配ないとしか聞いていない。確証があるのだろうけど、こちらとしては彼女に頼んだ責任もある。……ミリア、今、どうしているのか本当に心配で」

「…………。」

「ギルダーツも随分と気にかけていてね。私達2人、本当に……心配で」




 ワザとらしく大げさに言えばウィルスは分かりやすい様に、すっすっ、と静かに離れていく。絶対に知っているんだと思い、どうやって攻めようかなと笑顔で考える。




「悲しいなー」

「…………」

「ギルダーツにも知らせないと」

「……………」




 チラッと彼女を見れば誰が見てもわかる位に酷く傷付いたような表情をしている。距離を置こうとして身近な部屋にでも飛び込もうとしたのだろう。手探りで扉を開けようとしてカチリ、とそぐわない音が……何かのスイッチが入ったような音が聞こえる。




「ウィルス、離れて!!!」

「へっ……きゃあああっ!!!」




 呼んだ時には既に彼女は居なかった。

 クルリ、と壁ごと回転させたそれは寄りかかっていたウィルスと共に姿を消したのだ。




「あぁ、もう!!! ヤバい、レント王子になんて言えばいいのさ!!!!!」




 連れ去られたとかそういうんじゃない。単に、城にある仕掛けの一部が発動したものだ。ただ、説明するには………私が軽く追い詰めたと言うのが原因になる。


 レント王子が溺愛しているのなんて分かっているし、枷を外す過程で何で居なくなるんだとなれば………彼は本気でこの城を破壊しかねない。

 前に門を破壊するのかと冗談交じりで言えば、凄く真面目に「やっていいならやりましょうか?」と言っていた。あの目は本気であり、それに内心で驚きながらも寒気を覚えた。




「どう、言い訳をしようかな」




 はははっ、本当にマズい。早くウィルスを見付けてレント王子の機嫌を回復させないと……。




「彼……動いているよね、きっと」




 ナークとウィルスは契約を結んだ主と従者と言う主従関係。

 ウィルスが危ない時には王子が察知するよりも高いから、恐らく……彼は行動を起こすのは予想出来る。

 同時にレント王子にも何がかあったと悟られるんだけど。




「ルベルト王子。良かった……遅かったですね」

「……レント、王子……」




 私にしては珍しく、本当に珍しく自分の失敗を呪った。

 振り返ればキラキラした笑顔で私とウィルスを探しに来たと言う彼。後ろでエリンス殿下が「ナークが消えたから、絶対に何かあったと言うんだと」と言われてしまった。




「あ、あの、ね。レント王子………」

「ウィルスは何処です?」

「…………あ、うん。ごめんなさい」




 下手に隠したことで城の一部が破壊されるよりはマシか……と考えて簡潔に説明する。何か行動を起こそうとするレント王子にエリンス殿下が制止させるように「待った」をかけた。




「俺達が闇雲に探しても無理だろ。ルベルト王子に任せよう」

「………」

「ラーグレス、止めろ」

「は、はい……」




 リベリーとラーグレスが止めに入り、レント王子を客間へと引き戻す。命が縮まるような思いをしたけど、すぐに近衛騎士に事情を言い周辺の捜索を頼んだのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ールーチェ視点ー



「謝りなさい、バーレク」

「えぇ、でも……」

「あ・や・ま・る・の!!!」

「はーーーーい………」




 むっとしながらも弟であるバーレクはすぐに謝った。

 何故なら、薄いピンク色の髪をした私よりも年上の女性が、この秘密の抜け穴に間違って入ってしまったのだ。


 ただ、おかしい事が1つある。


 この城の抜け道、私達は秘密基地と呼んでいるこれらの仕掛けに一般の……ましては知らない令嬢が触れられるような事はない筈。


 カチリと音がして、気付いたら上から降って来た彼女――ウィルスと名乗った令嬢らしき人物。




(誤作動、かしら………)




 なにせ、この秘密基地のスイッチには全てこの国の王族でしか反応しないよう作られている。城の至る所にあるのも、その場所を把握しているのも私達王族だけ……の筈だ。




「おっかしいなぁ、反応しないのに」

「ご、ごめんなさい……ルベルト様と話をしていて」

「ルベ兄ぃと???」




 へぇ、ルベルトお兄様と話をしていて……なら、彼女にではなくお兄様に反応したのか。では誤作動ではなく、お兄様の所為かと納得した。すると、バーレクははっとしたように「もしかしてギル兄ぃ知ってる!?」と物凄い勢いで迫る。




「え、え………」

「ギル兄ぃと言っても分かりませんよ。この国の第1王子であるギルダーツお兄様の事です」




 そう説明すれば彼女は「あ、あぁ、ギルダーツ様ですね」と嬉しそうに微笑んでいた。とても優しくて話をしていて楽しいと話してくれる彼女に、(おや)と私とバーレクは互いに顔を見合わせる。




「あの……失礼ですが、お兄様と居て楽しいですか?」

「はい♪ ギルダーツ様はとても優しくしてくれて、女性に優しい方なのだと思いましたよ」

「…………。」

「ねぇねぇ、ギル兄ぃの事は好きなの?」

「え、まぁ……ギルダーツ様、私が甘い物を好きなのを聞いて色々と頼んでくれましたし、一緒に居て楽しいですよ」




 ピキーン、と私の中でピースがはめられたように埋まっていく。

 思わずニヤリとなるけど、それは弟のバーレクも同様だ。


 ギルダーツお兄様の様子がおかしいのは知っている。気付いたら溜め息を吐いているのは家族であれば皆知っている。現に父も心配している様子だ。女性と居た事が殆どない兄様が、彼女と居る時に優しい?? いやいや、妹の私にも優しいけど令嬢達に対してそんな態度など見た事がない。


 つまり、この方はお兄様の()()()


 なら、兄弟として祝福するのは当然の事!!!

 そうと決まればさっそく準備しようと動き、腰に下げていた剣を振り向きざまに振り降ろす。




「主!!!」




 飛び込んできたのは黒髪の少年。

 紅い目が綺麗な方は、ナイフで私の剣を受け止めてくる。一体、何処から入って来たのか……と考えている間にバーレクはさっさと彼女を連れ出して行く。




「主を返せ!!!」

「お断り、です!!!」




 あとを追う前に、と彼に向けて小さな小瓶を投げ付ける。それを反射的に、切った途端に目の前を覆う程の赤い煙が現れる。




「こんなもの……っ、な、なにこれ。辛い!!!」




 ふふん♪


 ただの小瓶じゃないもの当たり前でしょ? 中は透明で何も入ってないように見えるけど、実際は第3魔法師団の試作品の1つ。魔物を怯ませたり、動きを封じたりと様々な事に研究してくれるから侵入者用にも色んな薬と混ぜて特殊な小瓶にそれらを閉じ込めている。


 ちなみに彼が切ったのは中身は香辛料がたっぷり。

 目から辛い成分がはいると辛いだろうけど、収まった時には夢心地と言う2段構えのものだ。これで暫くは追って来れないし、上手く近衛騎士達が見つけて保護をしてくれるはずだ。




「ルーチェ、平気だった?」

「平気、平気♪」

「あ、あの………こ、これはどういう………」




 戸惑い気味に聞いてくる彼女は既にドレスに着替えていた。

 私はピンク色の物が好きであり、髪の色でも果物でもなんでもピンクの物が好きだ。そして、彼女は派手なピンクではなく少し大人しめではあるがしんの強さがある色のピンク色だと思った。


 うん、うん。髪に映えていてよく似合っている。

 髪の色よりも少し濃い目のピンクのドレス。即興ですけど、黄色の花飾りをセットし従者に用意させあっという間に綺麗に仕上げた。




「あまりにも急でしたので、化粧はふんわりとしか……」




 申し訳なさそうに言うけど、十分よ十分。

 私から見ても肌の潤いは羨ましい程に、しっとりしていてキメが細かい。ちょっとだけ恥ずかしそうにしているのに、その赤らめた表情が絶妙に良いアクセントをしているのだ。

 隣でボケーッと鼻の下を伸ばしているバーレクの事を一発叩く。




「よし、このままギル兄ぃに突撃だ!!!」

「へっ? あ、あの、どういう……!!!」




 状況が分からないけど、と訴える彼女ですが……悪いと思いつつ、両手両足を赤いリボンで結びバサッと袋で包み込んで軽く縛る。お兄様の部屋に通じる部屋の仕掛けは熟知しているから、辿り着くのに時間は掛からない。




「よっし!!! バーレク、準備するわよ!!!」




 この頃のお兄様は政務のし過ぎなのか疲れている表情をよく見る。ちょっとピリピリしていても、想い人に会えば気分も変わるだろう。

 そう、これは妹としてまた弟のバーレクからのプレゼントだ。


 そう意気込んで最高の方法で渡そうとした時、ギルダーツお兄様がズカズカと入って来る。自身の部屋なのだからそれは良いのだけど、もう少し静かに入って来て欲しい。




「ルーチェに、バーレク……? いきなりどうしたんだ」




 互いの部屋の仕掛けにも把握しているから、私とバーレクはちょくちょく無断で来る。お兄様はいつものそれだと思ったのだろうが、その後ろでゴソゴソと動く大きな袋に目がいく。




「…………何を、連れてきているんだ?」




 困惑気味に、でも怒りはしないと言った表情で口調な丁寧だ。バーレクと視線で合図をし2人して「お兄様にプレゼントです!!!」と、袋から出て来た人物に大きく目を見開く。




「なっ……!!!」




 ふふん、彼女の手足を可愛らしく蝶々結びをしたのだ。もちろん、運命の赤い糸を演出する為のもの。我ながら可愛く出来たと思うわ!!!




「ウィルス……姫?」

「え、と……こ、こんにちは。ギルダーツ様」




 困惑しているけれど挨拶はする。はにかんだ感じがまた良いな、と思い私とバーレクは期待を込めてお兄様の事を見る。だと言うのに、お兄様はプルプルと肩を震わしている。

 ………そんなに嬉しいんですね!!!!




「な、何をしているんだ、お前達はーーーーー!!!!!」




 褒めてくれると思ったのに、返って来たのは私達を怒るお兄様。

 予想外な反応に私もバーレクも、驚きのあまり声を上げられずにいればそのまま叱られると言う理不尽な説教タイムへと入っていった。


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