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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第75話:プレゼント

ーレント視点ー



「さあ、着いたよ。ディーデット国の王城、ドーラン城だよ」




 ルベルト王子に案内されて見上げた城の正門。

 白い石造りの城壁に青い屋根。そう遠くない所から海のさざ波が聞こえてくるから、特産物として海の物が有名なのも当たり前かと思った。


 ギーブナーのギルドと本国との城門前に繋げたから、周りには魔法師団の人達がおりルベルト王子が到着したのと同時に全員頭を下げていた。

 



「あ、海……!!!」




 ウィルスは城の傍に海が見えるからと目を輝かしている。ナークも隣で同じように嬉しそうに、眺めているから姉弟みたいな感じに笑いが込み上げて来る。


 ジャラ……とウィルスの手首には枷と微妙な長さの鎖の音。思わず周りにいた師団の人達はギョッとしたように目を見張った。




「……?」




 不思議そうに振り返るウィルスに、マズいものを見たとでも言わんばかりの態度で全員が視線を逸らす。思わず彼等を軽く睨めば、ギクリとしたように慌てて散っていった。


 ナークが見るからに不機嫌になるけど、すぐにウィルスに抱き付いてきた。ちょっと、何でそんな行動を取るのかな?


 あの街の人達は最初は奇異な目で見ていたけど、事情を話せば関係なく彼女と関わってくれたしそれがウィルスを救っていたのも事実だ。なのに、彼等ときたら……。




「おい、抑えろって」




 思わず隣でエリンスが宥めるように私に言った。分かっている、自分のしている事はただの八つ当たりだと。でも、我慢ならなかったのも事実だった。




「悪いね。事情を知っているのは一部だから、彼等の態度を悪く思わないでくれ」

「いえ……私の方こそ、すみませんでした」




 ルベルト王子が申し訳なさそうに話し、はっとした私は謝罪を口にする。隣で「偉い偉い」と言って来るエリンスがムカつくけど無視をしておく。ルベルト王子が案内したのは客間の中でも広い空間だ。


 質の良いカーテンに綺麗に整えられた内装。そして、侍女や執事が配置されており私達の事を聞いているのだろう。徹底された動きと統率が取れており、1人1人に対しての対応も丁寧だ。




「悪いんだけど、ウィルスは私と一緒に師団に来て欲しいんだ。その枷を外すのと同時に研究にも使いたいからね」

「あ、はい」




 出された焼き菓子に手を伸ばしかけて、ピタリと止まるとルベルト王子から言われた内容に姿勢を整える。その動きに思わず「ぷっ」と堪え切れずに噴き出してしまった。




「………ごめん、なさい……」




 フシュウ、と湯気が立つみたいに顔を赤くしてストンと座る。出された焼き菓子はリグートのものと違い色とりどりの物だから、見た目も楽しませるものが多い印象を受けた。


 飾りつけも綺麗であり、ナークがずっと目をキラキラさせているから既に我慢の限界だと感じた。でも、ダメだよと思って手を軽くつねるとウィルスと同じようにシュンとされてしまった。

 

 ………こっちが罪悪感を抱くから止めてよ。




「慌てなくても平気だよ。責任者を呼んでいるから、少しの間はゆっくりしてても平気なのに。珍しいでしょ、ここのお菓子」

「は、はい」

「遠慮しないで。リグート国で一緒に行動した時に甘い物が好きなのは分かってたし、喜んで貰えると思って用意したんだ」

「………」




 チラッ、チラッと私の事を見ているのとルベルト王子の事を交互に見ているから「食べても平気? 平気?」と言うニュアンスで聞いてきているのが分かる。

 ウィルスが可愛すぎだよ!!!!!




「戻って来い、アホ」




 エリンスに注意されるけど「可愛んだから仕方がない」と答えれば、「そうかい」と一言で済まされる。


 これはみっちりウィルスの魅力を伝える必要があるよね?

 あるよね?




「そんな訴えなくても2人の仲の良さは分かるわ。昨日だって散々デートしたんだろ?」

「勿論だよ。当たり前でしょ」

「なら俺に報告とかするな。そんなの幼い時で十分だ」

「いや、あれでは不十分だ。婚約者の魅力を伝えるのに不足している」

「どんだけだよ!!!」

「ウィルスが可愛いのは事実だよ!!!」

「それ以上は止めろ。姫さんがキツイって訴えてるの気付け」

「「………むっ」」




 リベリーの後ろから睨むウィルスが無言だ。エリンスも気まずそうに座るけど、私はむくれたままだ。さっきからレーナスが私の事を奇異な目で見て来るんだけど……何で?




「お待たせしました。ルベルト、王子………」




 そこに慌ただしく入ってくる1人の男性。

 眼鏡を掛けた中肉中背の30代の男性。片手に納まりきらない程の資料を持ち歩ているからか、数枚の書類がが床に落ちており慣れたように拾う侍女達。

 見慣れた光景なのだろうと思っていると、その人物はウィルスの手首に付けられた枷を見て目の色を変えた。




「それが魔封じの枷ですね!!!」

「へうっ」




 突然の大声にビクリとなったウィルス。しかし、そんな反応も意に介さずズカズカと大股で近寄り手首に付けられた枷をマジマジと見始めた。




「……これは、随分と新しい型ですね。何重にも妨害させるものが含まれている事から、恐らくは初期に作られてからの改良型。2つ1組でない事から片側でも強い力を発揮する。しかも、時間が経てば経った分だけ封じる力が強くなる厄介な物。だとしたら、これを外すには――」

「アーサー!!!」




 ルベルト王子の大声に、ピタッと動きが止まりすぐに「も、申し訳ありません!!!」と土下座をしていた。その際に、書類は全て落ちている。

 静かにだけど迅速に拾っている事から流石だと思ってしまった。




「……すまない。彼が我が国の魔法師団の研究科の主任だ。アーサー、挨拶をしてくれ」

「は、はい!!! 自分は第3師団の研究科主任のアーサー・ウェルと言います。すみません、つい魔法の事となると我を忘れてしまい……とんだご無礼をしてしまいました」




 冷や汗を拭う様にハンカチを取り出し、ペコペコと謝るアーサー。ウィルスは呆気に取られるけど、私とリベリー、ラーファルは黙ってレーナスへと視線を向ける。




「な、何で私を見る……!!!」




 いや、別にね。

 ただ、我を忘れると言うと共通のワードが出たからね。思うことは同じなんだろう……。

 ラーファルは「悪いですが、全部言いましたよ」と実に申し訳なさそうに私に伝えてきた。




「……分かった。ウィルスに説明しておくね」

「お願いします」




 私とラーファルの会話を不思議そうに見ているウィルス。そのままアーサーとルベルト王子と共に退室し研究科へと向かう事になった。


 その間、私達は大人しく待つ事にした。  


 魔法の研究をしようとするレーナスをとっ捕まえて、ウィルスの出会いから話そうと思う。私の行動を察したエリンスとリベリーからはため息が聞こえたが聞こえないフリをした。




「レーナス。私の婚約者についてじっくりと話してあげる」

「いえ、結構。ラーファルから聞きました」

「ナーク」

「聞くー!!!」



 よし、ガシリと肩を掴んで離さないから後で褒美をあげないとね。

 

 さーて、エリンスが嫌がるだろうけど知っておくべきだろうね。ウィルスの魅力をたっぷり、甘く……知っておこうか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ールベルト視点ー



 前を歩くアーサーはブツブツと魔法について話し没頭している。隣を歩くウィルスは不安そうに私の事を見ている。




「気にしないで。彼、1つの事に集中すると周りが見えないんだ」

「……怪我、しませんか?」




 なるほど、そこを心配する訳か。


 アーサーが壁にぶつかり、つまずいて転ぶのは日時茶飯事。だからその対策で、自分に防護魔法をかけると言う見当違いな行動を起こした。

 確かにそれは自分の身を護る為のものだ。でも、そんな事をしなくても考えながら歩く、と言う事を止めれば済むのだけど……止めないしね。




「気にしなくて平気だよ」




 そう言って納得して貰う。ポケットから小さな焼き菓子を取り出す。包装紙に包まれたそれを彼女に差し出すと、パチパチと目を瞬かせた。



「これは……」

「さっき手を付けようとしてたでしょ? お客様に出す時用の物なんだ。言ったよね。この国はお菓子が美味しいって」




 じっと見るウィルス。手で受けようか口で受けようかと、迷うように視線を彷徨わせる。だから包装紙を外して彼女の口元へと運ぶ。

 強制的に口を開かせようとする私を、口を開かないようにする彼女は可愛らしい抵抗をしている。




「遠慮しないで。アーサーは見てないから」

「……う、でも」




 それでも迷う様子。チラチラと歩くアーサーを気にしているし、私とウィルスは止まっている状態だ。後を追い付きたいなら早く口を開くべきだろう。

 でも、羞恥心からかなかなか口を開かない。さて、どうしようかと思っていると、サクッと静かに食べる音が聞こえる。




「お、美味しい……です」




 恥ずかしそうにしながらも、はっきりと言ってくれた言葉。レント王子が溺愛するのも分かるなと、ニヤけてしまう。仕草1つ1つで魅力してしまうのだから、彼女が人気なるのも分かる。過保護な人がいてもおかしくないし仕方ないと考える。

 



「他もあるよ。食べる?」

「……はい!!」




 嬉しそうに言うから、クスクスと笑いながら包装紙に入っているお菓子を取り出す。1口サイズに作ってあるから、プレゼントによし、お土産によしの万能だから自然と人気の商品だ。


 カラフルに色が付けられているから子供から大人まで、年齢に関係なく人気なのも凄い。お陰で王族も国民も大人気のお菓子となっている。




「じゃ、また口を開けてね」

「!?」




 まさかそんな行動をされると思わなかったのだろう。ウィルスはプイッとお菓子を見ないまま、アーサーの後を付いていく。




「要らない? 美味しいよ?」

「普通に欲しいですよ」

「なら」

「た、食べさせる以外の方法でお願いします!!!」




 おかしいな。レント王子とはよく食べさせ合っていると聞いたけど、違ったかな? それともからかい過ぎかな。


 ふふっ、ごめんね。

 どうも私は人をからかうのが好きみたいだ。……真面目であればあるほど、からかいたくなるんだろう。

 最近、気付いたけど止めないでいた方が色々と面白い。


 


「い、行きますよ!! ルベルト様」




 ちょっと怒った様子のウィルスに謝りつつ、アーサーの後を追う。彼がそのまま壁にぶつかる音がした。慌てる彼女を平気だと言いながら研究科へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その頃、レント達。



「あの、もう良いです。もうお腹いっぱいです」

「ダメだよ、レーナス。散々、好き勝手して国に戻らなかったんだからこれ位は許してくれないと。ウィルスの魅力を1から100までたっぷり言うよ♪」  

「えっ……」

「俺に助けを求めてもダメだからな。こうなったレントは意地でも逃がさないから」

「………っ」


「ウィルスの可愛い所はね──」

(弟君、姫さんが戻って来るまで話題途切れさせない気だな。……姫さん、頼むから早く戻って来てくれ!!!)

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