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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第74話:また、来ます

ーウィルス視点ー



「ふふん♪」




 鼻歌交じりでスキップすれば、隣で歩いているレントからは「どうしたの?」と問いかけて来る。思っていたよりもラーファルさんに会えたのが嬉しいらしいのか、私の足取りはずっと軽い。




「嬉しくって、つい……」




 はしゃいでいるのは自覚しているから、止まってそう答える。……思い返して恥ずかしい気持ちで一杯になり、レントと視線を合わせないようにしていたらフワリと撫でられる。

 チラリと見ればレントが笑顔のままずっとナデナデしている。途端に顔に集まる熱に思わず下を向く。




(………こ、子供っぽかったかな?)




 嬉しいからってはやしゃぐべきではなかったのかも……とそう思っていたら、ふと自分に集まる視線。と、言うかよく見れば商店街のど真ん中であると思い出して離れようとするもガシリと手を繋がられる。




「あ、レント……」

「今更だよ、ウィルス」

「うっ……」




 2週間弱この街に居るけど、レントが私の婚約者である事は既にお店の人に知られ……いや、レントが自分で言っているから意味ないか。それもあって、翌日からと言うのも私が街を歩いていると「おや、彼は居ないのかい?」と、何故かニヤニヤされながら聞かれてしまった。


 リベリーさんから料理を習い始めてから、必要な物を買いに出た時もレントが隣に居ないからか「……別の婚約者かい?」と聞かれてしまい、慌てて護衛の人です!!!って違う事を説明した。


 その時のリベリーさんがとても微妙な表情だったのを思い出すと、申し訳なさが募る。



 何と言うか、すっかり私はレントと居るのが当然のような……そんな感じに取られている。街に歩けば婚約者であるレントが居るのが当然とばかりに、そしてレントがギルドでの任務で居ない時には……お店の女主人の主催で始まる集まりに参加する形になったのだ。


 ナーク君が傍に居る時もあるしリベリーさんが居る時もある。でも、女性の力は凄いのか「男子禁制!!!」とばかりに、喫茶店から追い出されてしまい普通に夕方近くまで拘束されてしまう。

 その間、2人がどう過ごしていたか分からないんだけど……。暗殺者の事もあるから、絶対に私の傍には離れないようにお店の外に居たり屋根の上で過ごしたりとしていたらしい。


 ………ごめんなさい。世間話もあるんだけど、旬の食材の話とか南の国の特産物とか色々と聞いてたから長くなるんだ。

 食べ物目的は無いから平気!!! そ、それに、奥さん達の得意な料理とか聞いててメモをしていたから、リベリーさんにやり方を教わって作れるものを増やすのも良いしね!!!



 だから、リベリーさんに料理を教われるとなってついつい嬉しくなったんだ。念の為にメモを取っておいて良かったなって、自分の事を褒めるよ。




「そうかい。じゃあ、ディーデット国に向かえるんだね」

「はい。明日の明朝には移動しているので、今までお世話になったのでお礼を言いに来ました」

「まぁまぁ、そんな丁寧にしなくても良いのに」




 だから、こうして1軒1軒お店を訪ねて話をしてくれた人達にお礼を言いながら明日にはもう居ない事を告げると皆が寂しそうにしている。……ちょっとしか居なかったんだけど、ここの街の人達が凄く優しくて嬉しくて楽しくもあるのは事実だ。




「でも、まだ規制が続いていると聞くんだけど大丈夫なのかい?」

「はい。えっと、知り合いの伝手で特別に……」




 まさかルベルト様の事を話す訳にもいかないから、悪いとは思いつつ嘘を言う。ちょっと心が痛むんだけど、私も王族であるのを隠しているからおあいこ……かな。




「綺麗な手にいつまでも枷なんて嫌だものね。……取れたら、可愛いものを身に付けなさい」




 もちろん、彼からのプレゼントでね。と小声で私に伝えて来るので、思わず「うっ」とぎこちなくレントの事を見る。隣に居るし話は全部聞いている……恐らく、ではなくてワザとなのが分かる。




「平気ですよ。ちゃんとウィルスに似合う物を身に付けますから、安心して下さいね」

「ちょっ、レント!!!」




 そう言いながら、私の頬にキスをしてくる……。真っ赤になって否定する私にレントはクスクスと笑いながら抱きしめて来る。うぐっ、変に注目を集めるのは止めて欲しい……。




「ふふっ、本当に仲が良いね。だったら………」




 そう言って奥に消えていく女主人。少ししたら戻ってきて、手には串に刺された果物、それが2本。




「今まで話を聞いてくれたお礼……と、言うのは冗談で新商品の味見するかい?」




 砂漠の街だから夜は冷え込むが、朝と昼はかなり日が高い。だからこうして少しでも暑さを紛れる物を日々改良しながら新商品を出しているのだと。

 パクッ。

 味見と言うのもあり、1口食べてみる。シャリとした食感と不思議な舌触り。見た目では分からなかったけど、冷えていると言うよりも凍っているからか口の中がさっぱりとした。




「ん。おいひいです!!!」

「………」




 笑顔で答えて少しずつ食べていると、レントがプルプルと肩を震わしていた。キョトンとしながらもモグモグと綺麗に食べ、そんな様子に満足そうに見ている女主人。




「あの、いくらですか。お支払いしますよ」

「お代は良いよ。向こうに行ってからも泊まるのならお金は節約して損はないよ」

「え、でも………」




 味見だし、まだ改良の余地があるからかお代は要らないと言われてしまった。それでも渋る私に「とあるお願いを聞いてくれる?」と聞かれ、私は勢いよく頷いた。




「今度来た時、他の国や街での話を聞きたいんだよ」




 自分達が沢山私に話をしたから、そのお返しとして私が旅をしてきた事を聞きたいのだと言う。思わずそれで良いのかと思ったが、女主人はそれで良いんだと言った。




「貴方達みたいによくしてくれる人も居るんだけど、冒険者は魔物を狩ったりするから……いつも無事とは限らないだろう? 怪我もするし、亡くなったりするし危険な仕事だ。だから楽しみと言えばこの街のその外の話なんだよ」

「そう、なんですね」

「色んなものをみて、色んな事を感じてそれを私達に話して欲しいんだよ。ウィルスちゃんと居ると時間を忘れちゃうからね」

「私もです!!!」




 また来てねと言う女主人にお礼を言ってお店を離れた。1口サイズで食べられる果物、もしくは切った物を串に刺して凍らせれば食べ歩きには最適です、と言う私の意見を「ほほぅ……」と言ってキランと目が光ったのは気のせいではない。


 新商品作りに熱心になるのを見て、レントと色々と見て回った。小物売りだったり、洋服屋さんだったり……いろんなお店を回っていたら既に夕方になっていた。




「………楽しかった」

「うん。私もだよ」




 今、居るのは噴水を中心とした広場だ。

 もうすぐ夜になるからなのか、人はまばらだった。噴水を中心にいくつかあるベンチに座り自然とレントの肩に寄りかかる。

 その手はしっかりと握られている。分かってはいるけど、レントの近くは安心できる。




「今まで不自由な思いさせて悪かったね」

「ううん。楽しいよ、私。……レントは?」

「私もだよ。ウィルスの新しい一面が沢山見られて嬉しいし、守りたいって言う気持ちがどんどん強くなるんだ」




 だから絶対に離さないよ、とキュッと手に握る力が込められる。じっとしていたらレントの手が私に触れて来る。上を向けさせ、視線が絡む。相変わらずレントは優しく微笑んでくれるし、凄く安心してしまう。


 段々とレントが近付くのが分かる。腰を引き寄せられて、熱っぽい視線を向けられてしまい……じっと見てしまった。




「キス、して良い?」

「………うん」




 ここまで来てそれを聞くのは卑怯だと思う。既に私に逃げ場を用意しないし、逃がす気なんて無いのに……。

 むっとして睨むと、レントは「可愛いから、ついね」と当たり前のように答えてしまい、またカッと熱が集まる。




(ず、ずるい………)




 いつもそうだ。レントは私の事を振り回してくるし、翻弄してくる。甘えさせてくれる心地よさ、ワガママを許してしまう程の懐の深さ。どうにも私ばかりが損をしている気分になる。




「どうしたの?」




 こんなに間近に迫られでドキドキするのはいつだって私の方だ。レントはずっと余裕そうにしているのが、悔しいし負けている気分になる。




「………レント、ばっかりずるい………」

「何がずるいの?」

「分かってるくせに………」




 そう言えば「ふふっ」と笑われてしまった。あ、これは絶対に考えが分かってるやつだと思って悔しくなった。

 …………こうなったら!!!




「っ!!!」




 驚いたように目を見開かれたレントが見える。それもその筈だ。いつもはレントからだけど、さっき自分からしたからね。自らキスするのはまだ慣れないけど、レントが驚いてくれるなら良しと考える。




「………」



 ふふん♪ 驚きすぎてて固まっているからイタズラが成功した気分で嬉しい。よし、このまま帰ろうと立ち上がったらガシリと腕を掴まれた。




「レント?」




 あんまり遅いとリベリーさんが心配するとそう言おうとしたら、グッと引き寄せられてベンチに逆戻り。「えっ」と今度は私の方が驚く番になった。




「可愛い事してくるね、ウィルスは」

「レ、レント……?」

「全く、私の事を翻弄してくるのはウィルスだけだよ。……可愛い行動して黙ってる訳にはいかないよね?」




 何だろうか、目が肉食動物みたいに鋭いのは……。安心できる筈の笑顔が全然違うものに感じるのは……何でかな?




「あ、あの」

「可愛い子にはお仕置き、かな」




 さっと血の気が引くのとレントが迫ったのは同時だった。

 う、私は翻弄されてるばかりだと思ったのに、レントはレントで翻弄されてたの? 

 そんな言葉も言わせない程、余裕を削らせるのが上手すぎる婚約者にちょっと腹を立てた。



 どうやら私はレントに変なスイッチを入れてしまった様子。それに気付かされたのはヘロヘロの状態で屋敷に帰ってきてからだ。レントは上機嫌だし、リベリーさんは「無理させんなよ」と注意をするけど絶対にレントは聞かない。


 ラーグレスとエリンスからは「ファイト」と言われて、別に意味で恥ずかしくなったし……ラーファルさんはイジメすぎ注意だよとレントに小言を言っている。



 うぅ、レントは今のままでいい。

 もう自分からは動かない。動いたら最後だと心に強く刻んだ。ナーク君が心配してくるのがまた心が痛い。自分が原因だから……余計になんて言って良いのか分からなくなったんだ。 


 

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