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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第三者の介入

ーラーグレス視点ー



 俺と殿下は屋敷の外で様子を窺っていた。


 予定ではそろそろ仕掛けて来るだろう、とレント王子の予想により姫様の護衛を頼まれた俺達。ふと、腕にフワフワとした感触に思わず笑みが零れる。

 見ればカルラが尻尾を揺らしながら、気持ち良さそうに寝ている。頭を撫で「少し待っていてくださいね」と起こさないように、でも念の為にと声を掛ける。




「ニュ、ニュウゥ……」




 ピクリ、ピクリと耳が動くもすぐに収まる。そんな様子の俺に殿下は「一応、周りにも気を付けろよ」と注意を促す。




「はあ………レントが俺を呼ぶ時って大体、物事が大変な時なんだよなぁ」

「ピンチでも駆け付けてくれる貴方が居て安心ですね」




 そう言えば、殿下がちょっとだけ嫌そうに「冗談じゃない……」と言った。しかし誇らしげに言っているので聞かなかった事にしておこう。

 なんだかんだと言いながらも、レント王子とエリンス殿下の仲は良好だし、振り回されながらも嫌がらない殿下も殿下だ。




「落葉のギルド……ね」




 ポツリと零したのは、今朝レント王子から言われていた事。

 ここの街のギルドマスターの命が狙われている。そうでなくても、近頃の南の国での暗殺の多さに正直不気味さえ思っていた。


 いつ、こちら側にも被害が来ないとも限らない。




「暗殺ギルドの中での有名な所の1つ。それがナークとぶつかった時に、こう予想できるとは恐ろしい奴」

「彼女の為でしょうね」

「尚更怖いわ………」


 


 レント王子は姫の事を大事にしている分、そこに触れて来る輩や予想出来る範囲での対処の素早さは流石だと思う。……姫様の顔や体に傷を付けようものなら、一体どうなるのかと恐ろしさから体が震えそうだ。


 もしかしたら無意識に震えていたのかも、知れない。




「……恐ろしさが分かったか?」

「えぇ、まぁ……頼もしいんですけれど、ね」




 殿下の方は「だろ? 頼もしい……んだがなぁ」と困ったように夜空を見上げる。

 今、自分達が屋敷から離れ外での待機だ。誰かが出てくるなら、俺が後をつけてアジトの場所を把握すると言うもの。


 夜の街は冷え込むが、殿下の魔法のお陰で体温は普通だ。彼は父親のアクリア王と同じ転移の魔法を扱うが、メインで扱うのは炎だ。彼の息子だからなのか、付属されるように殿下は炎とは別の魔法を扱う。


 しかし、1人に対して魔法を複数扱うのは難しいとされている。

 1人につき1つの魔法、と言う大原則なのは昔かららしい。殿下の場合、アクリア王とは違い飛ばせる距離に応じて魔力量が減らされると言うデメリットを持つ。


 アクリア王は、どんなに遠くに転移しても一定の魔力量が減る。

 しかし、殿下は距離に応じた分だけ魔力が減っていく。しかも、回復にもかなりの時間を有する事から多用はしないと言うのを扱う条件にしたくらいだ。




「殿下の炎で体が温まります。カルラも気持ち良さそうですしね」

「そうか? まっ、そう言ってくれるなら良かったよ。なぁ、カルラ……って言うか、猫って暖かいか?」




 ふとした疑問なのだろう。

 興味津々と言った目で寝ているカルラを見つめている。一方のカルラはそんな視線に晒されているとも知らずにスゥー、スゥーと心地の良い寝息を立てている。

 落ちないように殿下に渡せば、一瞬だけ戸惑った様子でじっと見る。


 それも少しの間だけであり、すぐに自分の方へと抱き寄せて「幸せそうに寝るよな」と頭を触りながら俺に問いかけて来る。




「自由気ままですからね」

「………可愛い寝顔だな。っ!!」

「フミャ………ン」




 ポスン、と殿下の顔に猫パンチが当たる。

 「可愛い」と言ったからなのか夢で遊んでそうなったかは分からないが、その後もパンチにも似た攻撃が続く。

 また別の夢でも見ているのか、手がずり落ちて動かなくなった。目は完全に閉じているから、寝ぼけていたのが分かる。


 ちょっと殿下が可哀想かな、とも思う。




「どんまいです」

「どんな励まし方だ……」




 呆れる殿下を見なかった事にして、俺は再び屋敷へと視線を戻した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーナーク視点ー



「っ、しつこい!!!」



 

 王子が隣で複数人の男を相手に、気絶させていく中でボクは思わずそう言った。さっきから目の前で慣れたようにナイフを斬りつける動きと、時々ワイヤーで動きを制限していく。


 小回りの効くナイフと見えにくワイヤー動きを止めつつ仕留めるスタイル。ボクもワイヤーを使うから思わず睨んでしまった。でも、対峙した側はふっと笑ったような雰囲気がした。




「やっぱり、お前………同業者だな」




 前に屋敷に侵入して、ボクと1度だけ対峙した相手だとすぐに分かった。楽しそうな声色に思わず「うざっ」と本音を言ってしまった。仲間を倒していく王子がクスリと笑ったような気もするけど、今は構わないでおく。




「だったら何? なんか用な訳?」




 話をしていく内にイライラが増す。

 エリンス殿下がずっと主を……カルラの事を独占してたから、撫でたいのに出来なくてリベリーに訴えたら「戻ったら姫さん撫でろ」って真顔で言われた。


 ……ちょっと考えてそれで良いかと思ったけど、王子から睨まれたような気がしたからタイミングを考えなくてはいけない。


 だからなのか、ボクはちょっと不機嫌だ。さっさと終わらせて主と触れ合いたいんだ。




「分からないな。これだけの実力があるのに、今更日常を求めるのか?」

「うっさい。そっちには関係ないじゃん」




 言いながら蹴りをかわす。その隙に横に移動しつつ、相手の重心をずらす為に足を蹴る。トンッと軽くジャンプされ、動きを察知された事に舌打ちをして離れる。


 今度は向こうから突っ込んできて、ナイフを捌きながら互いにとっての致命傷を探り当てる攻防が続く。いつの間にか屋敷の外へと誘導されており、その屋根に2人して足が止まる。




「こちらの仲間になる気はないか?」

「バカじゃないの。なる訳ないじゃん」




 似たような実力者、もしくは明らかに上な人物に対して誘う奴が居るのか?

 仮に誘えても、仲間が許す筈はない。本気でそんな事を考えているとは思わないが……相手からは意外な答えが返って来た。




「人手不足なんだよ、こっちは。何だか妙な魔物がウロウロしているらしくてな……襲われてそのまま帰って来ない奴が多くてな」

「妙な、魔物………」




 リベリーから聞いた日陰の状態でも魔獣が現れ始めた、と言う事を言っているのかな。だとしたら、このギルド………かなりの人数が減らされたのか。


 ビリッ、と。

 背筋に電撃が走ったような感覚に、咄嗟に右に避ける。




「おや、気付かれたか」




 優し気な声とは裏腹に、ボクが対峙していた奴の右腕が飛ぶ。やられた側は、キョトンと何が起きたのか分からないと言った表情で見上げた。

 それを最後に首がなくなった。




「!!!」




 瞬時に距離を取る。あまりにも鮮やかに、手早く行われた殺しの瞬間。自分に嫌な汗が流れて来るも、相手はボクを気にしていないのか胴体だけ転がったのを担ぎ上げる。




「今日はこれでおしまい……。っと、君、まだやる気?」




 ボクに向けてきた目は黄色の瞳。

 猫のような瞳の特徴を持ち、長い髪をユラユラと揺れる不気味な感じの人物。ニコリと笑顔で返されても、未だに拭えない気持ち悪さがある。

 




(気配が、分かり辛かった……)




 殺すその時まで、やっと気配が分かった。つまりそれまでは警戒される事もなく、簡単にターゲットまでたどり着くことが出来る。

 ………不気味な気配に、ボクの中で警鐘が鳴る。

 危険だ、ここで殺せ。と言われているが正直相手になるかは分からない。




「うん、うん。()()、気に入ったよ」




 ソイツの後ろには既に王子が剣を振り抜いていた。

 でも、はっきりとボク等と言った事に気付き最速で抱え上げて距離を離す。




「ぐぅ……」




 その時、肩から血を流していたのはボクの方。

 避ける際に傷を付けられたんだろうけど、どんなものかまでは見れなかった。ただ、相手は面白そうに顔を歪めペロリと自らの唇を舐めた。


 その仕草に、流石の王子も寒気を感じたのだろう。ボクの前に躍り出て「何の用?」と強がりを言う。




「いやー。この人達、テリトリーに入って来たから処分しただけ」




 君等に用はないよー、と言葉だけを聞けば助かったと思うけど、ボクと王子はさらに警戒する。

 言葉の端々に殺気を感じさせおり、ボク達は退く気がないのだと武器を構える。




「そんなに警戒しないでよ。って、そっか……こっちも挑発したのが悪いね」




 じゃあね。と手を振り一瞬で気配も姿も消えた。

 次に会えたら良いな、みたいた副音声も聞こえた気がしたけど……ボクはそのまま気を失った。


 王子が呼び掛けてくれたけど、何も答えれなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーリベリー視点ー




「そうか……。別人が入って来たから詳しくは聞けないか」




 翌日、ローレックの自室兼執務室で夜中の出来事を話す。捕らえた連中も、ナークが最初にぶつかった奴も別の暗殺者が介入してきたから色々と分からずじまい。


 ローレックを狙う理由も、介入してきた奴の狙いも……。落葉のギルドは半数以上を今回の事に投入して来た事もあり壊滅は免れない。


 暗殺ギルド同士のつぶし合いとも、思っているがローレックもオレも意味が分からないなと難しい顔をする。




「仲間の1人は大丈夫なのか?」

「あ、あぁ……」




 ナークが王子を庇った時に肩に付けられた傷。掠り傷かと思っていたが、神経毒が塗られいたからか今もダウン中だ。苦しそうにしているが、弟君とエリンス殿下が薬草を探しに外に出ている。

 人間に戻った姫さんの事は軽く伏せて、仲間と合流したから看病している、と伝えた。


 その途端、「悪かったな」と苦い表情をされた。




「本当だよ。……まぁ、ここに縛られてるから何もしない訳にはいかないしな」

「今回の事で、お前達をBに上げておくかって感じでランクアップしたからな」

「嬉しくねー、報告」

「そう言うな。これで最低条件の転送魔法を扱う資格が得られたんだ。もうちっと喜べよ」

「妙な事を頼んだアンタも悪い……」




 ある意味身代わりだよな、と睨めば視線を逸らされた。

 自覚ありかよ……。




「だが、ディーデット国から拒否が続いてる。暫くは無理だな」

「はいよー」




 用は無いとばかりに、オレは窓から出てこれからの事を考える。

 ナークの事を治したり、食事作ったりと城に居る時よりも大変なんだが……。


 よし、姫さんに料理教えよう。

 絶対、泣いて喜ぶしな。……予想通りの反応を期待してさっそくとばかりに準備に取り掛かった。

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