第66話:大事なもの、その2
ーナーク視点ー
ふふーん♪ 頭に主を……じゃない。猫のカルラを乗せてお散歩中。ウキウキして歩けばカルラも喜んでいるように鳴いてくれる。
「日向が暖かくて気持ちが良いね」
「ニャウニャウ」
「ご飯も美味しかったよね」
「ミャーーーン」
「次、何処行く?」
「フミャミャ」
そう聞けば手を差して色んなお店が、並んでいる方へと誘導して欲しいと訴える。ボク、自分で猫達を見付けて王子から育て方を教わって主と過ごしたから、ちょっとだけなら猫の言いたい事は分かるつもりだよ。
まぁ、あの2人の足元すら及ばないけど………。
「おい、お前」
「………ボク?」
「お前以外に誰が居る」
「ミュウ………」
カルラがシュンと大人しくなる。ボクに用があるっぽい人は何だか怖い表情をしていた。そして、呼んだ人以外に3人程軽く武装した人が居る。空気的に断ればカルラが危ないからと、大人しく付いていく。
皆、同じような格好をしていた。
こういうのは分かる。……冒険者か、傭兵の人達。でも、見た目はボクよりは上だけどリベリーよりは下っぽい感じ。
「お前、どういうつもりだ」
明るく商店のある通りを歩いていたが、今は裏路地に連れて来られ日の光は差さない。着いた途端、1人からそんな事を言われた。念の為、カルラは抱き抱えたままで話を始める。
怪我をするとボクは、本気で殴りそうだしね。
「……何をそう怒っているの?」
黙って付いてきた時、先頭に歩く人も含めてボクに向けたのは怒り。視線も態度も、なんだが気に食わないって感じだったから聞いてみた。
「っ、お前等は!!! 昨日、登録したばかりの見習いだろうが!!! 何故、ローレックさんと親しげに話す!?」
「……ランクの低い高いで、話していいとかいけないとか、誰か言ったの?」
「つっ………!!!」
ボクの冷静な返しに怒りを向けていた側は息を飲む。
ギルドマスター自ら話し掛けてきた。
それが周りには親しげな雰囲気に見えた。
ランクが上に位置する魔物狩りを、なんなくこなした。
これだけ目立てば、それを嫌う人が居るのだろうとは思っていた。でも、こんなすぐに動く? こんな人気のない場所で?
「私の連れが何かしたかな?」
「!?」
第3者の、王子が話し掛けてくる。ボクが念話で来るように言ったし、カルラはピリピリしたのが苦手なのか、ボクの腕の中でしょんぼりしたままだ。
……怯えてはいないけど、あとで好きな物を買わないと。ご機嫌よくして、一緒に寝たいし。
「悪いね。私達は来たばかりで、この街のルールと言うものを知らない。……失礼をしたなら、私が詫びるよ。これで勘弁してくれる?」
そう言ってリーダー格の男に、小さな袋の入って物を渡す。思わずカルラの目を塞ぐ。
「フミュ!?」
「ちょっと我慢してて」
暴れ出すカルラを抑えている内に、話はついたのか王子だけが居るだけだ。ボクとカルラを見て「急に呼ぶからビックリしたよ」と言いつつも、予想していたんだなと思って呼んで正解だった。
《賄賂?》
《似たような物だよ。退治した魔物の報酬だから、別に良いでしょ? 私達がやったのが気に食わないようだしね》
《ボクもいけなかったのかも。ローレックがこっちに話し掛けてきたから》
《あぁ……。だからナークに目をつけたのか。下だから》
「……だと思った」
はぁ、と重いため息を吐く。
すると、プニプニとカルラがボクの頬を触って来た。何度も行うからキョトンとしていると王子が、クスリと笑ってきた。
「ナークは自分にとっても、カルラにとっても大事だよって」
「……。」
ボクは主と契約をした。でも、出来るのは主の魔力感知と念話、主の使う魔法だけであり猫の時に主が思った事は分からない。
でも、王子は刻印の力で猫の状態の主とも通じ合えている。
羨ましいと思った。2人はどんな時でも繋がっているとまざまざと見せ付けられる。
王子が嘘をついているとは思わない。理由がないし、ボクの事を普通に頼ってくれている。
「君は……ボクを簡単に信用するんだね」
外でいつもように、王子とは言わない。バレて身動きが出来ないのは一番困る。それを理解出来ない程、ボクは幼くない。質問の内容の、真意を読み取ろうとする王子に黙っている。
たとえカルラからずっと、プニプニと頬を押されていても、だ。
「……私はね。友達や親友って呼べる人は周りでは隣国の彼位なんだよ」
隣国の……エリンス殿下の事か。
内緒で冒険者のギルドに登録した位だ。付き合いがいいだけでは説明がつかない。
「だからナークは対等に出来る存在だと私自身が思ったんだ。ウィルスに言われたからじゃないから、心配しないで。彼女はナークの事を頼りにしているし、私が常に傍に居られる訳でもない。頼りになる腕の持ち主は君だよ……」
私の答えには満足した? と、聞いてくる。
それにふっと顔を綻ばせる。そんな事を言われたら、嫌だなんて答えられない。
王子も主であるウィルスも、ボクにとって大事なものであると言うのは一方的ではない。それが分かっただけでも、聞いといて良かったのかも知れない。
「変な事を聞いてゴメン」
「平気だよ。だから、頼りにしてるからね?」
「期待にはちゃんと答えるよ」
良いことを聞いた。
ちょっと不安だったんだ。王子がボクを信じるのは、主の影響もあるのではと……思ってしまった。これから背中を預ける者に対してちょっとの不安も感じるのはいけない。
ボクの勘違いで良かった。
王子がボクの事を対等の存在として思っている。ボクは王子の期待に答えられるように、友達として親友として彼の傍に居て良いのだと、言われているような感じがした。
守る者がまた増えた。
主に王子に、リグート国の人達。それが分かったからか、ボクの足取りはとても軽かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーギルダーツ視点ー
「それは、どういう事だ!!!」
報告された内容につい怒鳴ってしまった。ルベルトがギクリと体を強張らせようが、そんな事は関係ない。水晶には魔女達を育て、リグート国で薬屋として潜伏している大ババ様が映し出されていた。
「……貴方の予想とは、違っていたと言う意味です」
「何かの間違いだ!!! 何故、なんで彼女なんだ……」
魔獣に対抗出来る魔法を扱える光の使い手。
過去、幾度も魔獣と戦いそして命を狙われ続けられる者。狙われるからこそなのか、短命であるのか魔法を扱った事での代償なのかは分からない。
詳しく調べたいが、昔からなのかその使い手は王族を人を嫌ってきた。魔女と共に姿を消しはするが、使命のように魔獣が現れた時に戦う存在。
こうして、大ババ様とも密に連絡がとれるのも、父と祖父の代でようやくなされた事。だから、俺は魔女が悪いものの象徴としているのを良しとしない。
俺はその魔女に命を救われた事がある。
感謝こそすれど、忌み嫌うような真似は決してしない。
「ですが、今回の使い手である姫は今までの使い手とは、異なる点が多いです」
「……何?」
彼女からの報告によれば、特有の魔力を感知しずらい事。
確かに魔獣が出たと聞いた時に感じた魔力は、その使い手のもので間違いない。しかし、彼女は直接会って感じた違和感を告げた。
「姫は魔法の知識が欠けさせられている。大方、両親が何かを感じ取ったとも言える位にね」
「……レーベ様とギース様が、ワザとそうしたと」
「証人はいない。幼い時の姫は、魔法の言葉を知っているが、技術も理論も知らない。いきなりの本番が魔獣と対峙した時……いや、ドルト族の少年だったな」
今回の魔獣の事。
従者のナークが魔獣にさせられ、殺す事でしか救われなかった筈のものがウィルスが扱った魔法により元の姿に戻ったと言う事。
これはバルム国に向かった紅蓮の魔女からの報告であり、実際に本人の証言もあるから確定、だと。
「母親の力がそのまま流れたにしては、魔獣を元の人間に戻した。今までにない例であり、今まで以上に姫様を見付けようと必死だろう」
「……。魔獣に手出しさせる訳にはいかない」
「もう1つ。国に向かう為の疑似転送魔法、それを彼女が間違って使用してしまってね。……今、その付近に居ると思われます」
「は……?」
「位置は最後に使った隠れ家です。調べたら裏ギルドの拠点の1つと言う事が……分かり、ました」
話す度に彼女は大量の汗を流している。
待て……では、ウィルスは裏ギルドの拠点に居るとでも言いたいのか?
第2王子が許すとは思わないが……そして、従者といるあの少年も簡単には許すような事はしないはず。
「……捜索隊を編成し、すぐに探す。ルベルト、あとを任せる。俺は現王である父にこの事を話してくる」
「今、我々も捜索しています。……そちらに伝言用として鳥を飛ばしておきます」
「無理はしないでくれ。そちらの状況も良い訳ではないのだからな」
そう言えば一瞬だけ目を見開き、すぐに頭を下げて「勿体ないお言葉です」と言って通信を切る。整理する書類は半分終わった。次に仕事を残すのはいけないが、優先順位からいってウィルスの方が大事だ。
「楽しそうだね」
「どこかだ。仕事は溜まるわ、ウィルス姫はトラブルに巻き込まれるわで大変なんだ。楽しい訳あるか」
そう言って乱暴に扉を開けつつ、すぐに国王の居る部屋へと向かう。そう……楽しい訳がない。
別にウィ、ウィルス姫と会うのが楽しみとかそう言う訳では無い。急いで救出しなければ、彼女の事だ。恐ろしくて1日を過ごすのも怖い筈だ。
公私混同ではない。決して、決して……違うからな。




