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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
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第7話:退治です

ーレント視点ー



 自分の足は軽やかだなと思い、急いでカルラを探しに城内を散策中。仕事をしている私達に気を使い、ひっそりと抜け出し(散策していく♪)と、楽しそうにしているウィルスの声が聞こえ思わずニヤついてしまった。


 可愛すぎない? 


 楽しそうにしているのが雰囲気で、体全体で表現するように尻尾をフリフリしている足取りが可愛くてしょうがない。

 あぁ……仕事でなければ1日中、撫でまわして気分良くしてお昼寝して夜にはウィルスと語らう。うん、楽しい……何て楽しい日々になるんだろう。


 これからの事で楽しく想像に浸っていると、右手の手の甲からビリッと電撃が走った様な衝撃が駆け抜けた。




「……ウィルス?」




 窓から見える空を見る。既に夕方から夜へと切り替わろうとしているのか、夕日が段々と暗く色づく。同時に今感じた現象は、印をつけた彼女もしくはカルラの身に何かが起きた事を意味していたのだと気付く。

 



「!!」




 目を見開き、未だに淡いながらも青く光る印から魔力を感知し、呼応しているであろう印へと飛んだ。誰が居るかは分からなくとも関係ない。


 彼女に、カルラに傷を付けてみろ。……命はないと思え。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ー第1王子、側近視点ー



 仕える主に念話で呼ばれ、すぐに向かった先は彼の執務室であり広間と合体したような部屋。そこはお客をもてなしたり、他愛ない会話が出来るようにと仕事場兼休憩場所にもなりうる部屋だ。


 資料をまとめる本棚、読書が趣味な彼はそれらの本棚と自分用とを分けているがどうみても自分用のものが、半数以上を占めいるので仕事場てと表現していいのか分からない。


 報告書や資料を読む為にまたは調べたり出来るようにと窓側に設置された机。その数歩先では大きなソファーが向かい合わせて設置され、中央には楕円形の机が置かれ、端には簡易用にとお菓子が入ったガラス容器が置いてある。




「……」




 呼ばれて来てみれば、遂に頭がおかしくなったのかと思った主。なんせ、ソファーにはピンクのドレスを身に纏い両手両足を縛られた女性が涙目の状態で居たのだ。


 涙目の女性の前では、冷え切った表情をしている主。

 銀髪を肩まで伸ばした水色の瞳、整えられた顔。

 いつも王族だと分かるような派手な衣装ではなく、城を抜け出す用の灰色のズボンと黒いシャツを着込み、マントを上着代わりに使っている。


 今は土埃が付き、場所によっては木の枝がくっついたりしている。顔には何かに引っかかれた後があり、見る側からしたらとても痛そうだ。


 私の場合はもっと罰当たれ、と思った。



 そうか、ついに……手を出してはいけない方へと出したのか。いつかはやってしまうのではと不安に思った。それが的中してしまい、事前に防ぐことが出来なかった自分の不甲斐なさに腹が立った。




「はあ……申し訳ありません」

「あぁ、おそかっ――ぐほっ……!!」




 謝罪しながら腹に一発殴り、続けてアッパーを繰り出す。少しだけ浮いた主に対して回し蹴りを繰り出して、いつものように本棚へと叩きつける。


 なにやら痛がるようなが聞こえた様な気がしたが……気のせいね。




「平気? 悪者は退治したわ。……怖かったよね」




 女性に膝まつき、優しく微笑んだ。一瞬だけ驚いたような表情をしたが、私が口に縛られている紐を、両手両足を拘束していた紐を解く。苦し気に息を吐き「っ、はあっ……はぁ、はぁ………」と、落ち着かせようとしている。


 隣に座り背中を擦りながら無理をしないようにと、繰り返し言い聞かせる。その間にも「いたたっ」と背中と顎を擦りながら起き上がる主に対して、冷ややかな視線を送る。




「貴族令嬢に手を出すとは落ちましたね」

「待て待て!!! 誤解だ!!!」




 慌ていましたが、今度は気配無く主の目の前に現れた男を見て息が止まった。

 主と対照的に短髪の銀髪。一回り小さいな体の第2王子のレント様。彼が一瞬にして現れて振り抜くようにして、主の左頬へと思い切り殴った。


 2度目の大打撃により今度こそ落ちたなと思った。




「ウィルス!!!」

「レ、レント……」




 隣に私が居るのも関わらずにレント様は、ウィルスと呼んだ令嬢に対して勢いよく駆け寄りそのまま強く抱きしめた。途端に嬉しさからなのか、恐怖からなのか分からないが彼女の目には涙が溢れていた。




「ご、めっ……私……」

「平気。君が無事なら……私は、それだけで良いんだ」




 驚いた。レント様からそんな言葉が聞けるとは……。

 彼は冷静沈着、剣と魔法に長けており彼に寄せる期待も高い。それに銀髪と優しく微笑んだ瞳のエメラルド。細身の割に筋肉質である為に、令嬢達は彼の王妃、愛妾になろうとこぞって来ている。


 しかし、彼はその全てを拒否している。


 拒否しているからには本命がいる。と、言うのが私達騎士団の認識であり側近のバラカンスとジークからは「本命がいるから何をしても無駄」とさっき話を聞いたばかりだ。



──あぁ、ではこの方が。



 薄ピンク色の髪は背中までストレートに伸びている。しかし、今はボサボサとなっているのをレント様が愛おしみながら、丁寧に丁寧に手ぐしをしている。




「あぁ、こんなに乱れて。部屋に着いたらとかすから今はちょっと待ってて」

「う、うん……」

「痛くない? 慣れてないから痛かったら、遠慮しないで言ってね。私のウィルス」

「だい、じょうぶ……ありがとう」

「良かった」




 そのままぎゅっとキツく抱き締めあやすような手付きで、優しく優しく頭を撫でたレント様。今までの彼を知っている人なら恐らくは卒倒ものだろう。

 ジークもバラカンスも、彼の幼なじみであり共に居た時間は私達よりは長い。その彼等が口を揃えて言ったのだ。


 本命を前にしたレントの変わり様は凄いのだと。




「い、つっ……君等、揃いも揃って……同じ所を狙うとは器用な」

「「まだ起きれるのか」」




 思わずレント様と目が合い、そのまま黙る事2秒。

 分かりました、殴れば良いんですね?




「ま、待て!!!」




 さっと蒼白したが、聞く気はない。

 3度目の打撃を加えて今度こそ沈黙させた。うん、すっきりとした笑顔の私にレント様は告げた。




「ありがとう、クーレル。……話があるんだ。少し、いい?」




 即座に構いません、と答えた。

 そろそろ異動したいな……と思っていた矢先のこの出来事。


 えぇ、全てを聞きますとも。私は既に誰に仕えるかを心に決め、レント様の話を聞く態勢に入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーレント視点ー



 クーレル・エドリック。

 ショートの金髪に灰色の瞳。騎士団の中で女性騎士は何人か居るが、才色兼備としてまた麗人と評される彼女はジークと同じ19歳。

 エドリック子爵家の娘であり、騎士団で優秀な彼女に男女共に交際しようと申し込み、男性には剣で下し女性にはそれとなく断りを入れたと言う。しかも、そのどれもにわだかりもないのだから、恐ろしい手腕なのは間違いない。


 聞く所によると隠れファンがいるとかいないとか。だから彼女はそんな簡単には落ちないと思っていた。




「私をレント様のお側にお仕えさせて下さい」




 ……えっと。話を切り出そうとしたら、彼女が私とウィルスに跪いてこう言ってきた。反応に困るが、同時に今の行動も見事な蹴りを見て思った事がある。

 麗人と評され、騎士と同じように振る舞う姿に見惚れる者が男女問わずなのも頷けるな、と。




ーかっ、格好いい……ー




 ウィルス? 顔を赤らめて思うんじゃない。言葉に出してくれた方がまだスッキリするのに。大人げないと分かりつつ、ウィルスを抱き寄せれば途端に真っ赤に染まる。私に見られているのが嫌なのか、ギュッと抱き付き顔を見せないようにしてきた。


 うん。そんな仕草も可愛いから、ちょっといじめてしまったよ。ごめんね? 




「本音は?」




 ウィルスをいじめて気分良くした私は再度クレールに聞いた。彼女は顔を上げないまま答えた。




「出来る事なら彼女の傍に仕えたいです」




 うん、はっきりと言い切ったね。

 素直過ぎて私はまた驚いて目を見開いてしまった。ウィルスはピクリと反応を示した。内心では──



ーわ、わああっ。あ、あんな綺麗な人が……レントの傍に仕えるんだ。凄いなぁ、似合うなぁ、絵になるよ。ー




 だからね。ウィルス……心の声ただ漏れなんだよねー。気付いてないから好き放題言っている。口に出さない分、思っている事は自分だけだもの。

 

 普通なら分からない、が正解だ。


 でも、ウィルス。だだ漏れって恥ずかしいからね?

 秘密を暴露してるって気付こうか。気付いたら私がショックを受けるからやっぱり……このままね。




「レント、どうしたの?」




 キョトンとしないの。また、撫でたくなるから!! 私が言葉に出来ない、と言うか悶えているのを知らないウィルスは首を傾げて不思議そうに見ていた。




「呪いねぇ……」




 ピタリ、と凛とした声が部屋を包んだ。クレールは振り向き私は瞬時に無表情を貫いた。隣でウィルスがビクリとなったのは分かったが、兄を前にすると自然になってしまうのだからどうしようもない。




「……レント。驚いたよ……その変わり様、声も彼女の前だと少し低めなんだね。良い所を見せたいからか?」

「そうですよ。好きな人の前でカッコつけたいのは普通でしょ?」




 今の言葉で兄が少しだけ驚いたが、向こうもすぐに仮面をするように無表情を貫いた。ピリッとした雰囲気が包む中で「あの~」とのんびりした声が遮った。




「止め止め。彼女が怯えてるから止めなってば」




 シュタッ、とウィルスの隣に現れたニコニコ顔の男。ウィルスを抱き寄せた時に睨み付ければ「あ、ごめんごめん」と言いながらも彼女の事を見た後、一瞬の内に兄の所へと戻っていた。




「薄いピンク色の髪に濃い紫色の瞳……バルム国の王族特有のものだよ。彼女が生き残りなのは間違いないね」

「そう……手荒な真似をして悪かったね。ウィルス姫。今度、2人で話そうか」

「ダメです」

「俺は彼女に聞いてるんだけど?」

「ダ・メ・で・す」




 むっとした兄に負けじと睨み付ければ、隣で静観していた男は笑いを堪えクレールは既に興味を失せたようにウィルスの傍に控えていた。兄はクレールの行動に「……既に決めたんだ」と寂しそうな表情をして言って来た。




「えぇ、貴方よりこっちの方が私に合っていると思ったの」

「え、不自由な事はさせてないと思うよ」

「日頃からイタズラされても、ね。イライラも募って来たから、蹴っても殴っても直らない方よりも一緒に居て楽しいと思える場所が良いんです」

「……それが、レントとウィルス姫って事?」

「そうです」




 即答したクレールに兄は諦めたように「じゃ、とっとと行きなよ」と私達も含めて出て行くように促した。私はウィルスを連れて出て行き、クレールは少し部屋に残ると言って別れた。




「今までお世話になりました。……リベリー、あとは頼むわね」

「ほいほい。そっちも頑張れよ~」




 手を振るリベリーとは対照的にバーナンは「頑張ってね」と、最後は柔らかい笑顔を浮かべてクレールに挨拶をした。


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