第61話:ギルドマスター
ーリベリー視点ー
さあて。館で英気を養ったしこんだけ気分良く眠れるのは、もうないだろうからと覚悟を決めておく。ナークは既に起きており姿がない。まっ、何処に居るのかは分かるけど……。
「はい。あーん」
「こっちにもだよ、主。あーん」
「っ!!!」
朝食を運んできてもらい、今後の方針を決めようと自然と弟君と姫さんとが居る部屋に集まるオレ達。そしてお決まりのように、姫さんを挟んで弟君とナークが食べさせる。
「オレは空気だから気にするなぁ~」
「う、うぅ………」
そうではない、と姫さんの目が訴えて来る。
オレが居るのがいけないのか、姫さんはなかなか食事をしない。口を開くのを躊躇する姫さんに、弟君は何を思ったのか耳に息を吹きかける。
「ひゃっ……はむっ」
驚いている内に器用に食べさせ、モグモグと必死で口を動かす。一瞬だけチラッと見てオレは普通に食べてる。どうも、普通に食べたいのにそれを邪魔するように弟君とナークが食べさせる、と言うこの状況をどうにかしたい。と、話を聞くがもう無理だな、ありゃあ……。
悪いな姫さん。どう食べられているかはオレはもう知っている……だから、ホント気にするな。
「ひ、酷いよぉ……うきゃ!!!」
今度はナークから食べさせられる。弟君と同じように息を吹きかけるが耳ではなく、首筋に向けてだからさらに驚く。そんな攻防? とも言える状況を続けて、姫さんから「ふ、普通に食べさせて!!!」と叫んだ事で驚かしての行動は止めた。
そっからは2人から交互に食べさせられ、オレに見られると言う恥ずかしい思いをしながらどうにか食べ終わる。
「……………。」
食べ終わった途端に、ベッドに潜り込んで出てこないアピール。ずっとは続けられないから、弟君とナークが構うのを防ぐ為だろう。ナークはこそっと隣で待機しているし、弟君も同じく待機している。
あの、姫さん………自ら追い込まれているって気付いてるか?
これで顔を出そうものなら、その隙をつくぞこの2人。
「んじゃ、確認するぞ。これからザーブナーって街までここのギルドの転送魔法を使わせてもらう。そこからディーデット国までは3日程だが、それは何もなくて、だ。南の国は魔物も出るし、姫さんが襲われかけたような連中にも出くわす」
確認の意味も込めて3人へと視線を向ける。ナークと弟君は無言で頷き、こんもりとした掛布団状態の姫さんも……頷いているのだろう。そこだけが大きく揺れている。
「ディーデット国に行くのはラーファルさんと合流する為。姫さんの魔封じの枷を外すのが目的だ。多分、バーナンの奴が対策を立ててるだろうし、弟君もなんかやったんだろ?」
昨日の夜。隣の部屋から魔力の塊を感じて少しだけ意識をそちらに移した。殺気もなく気配が動物のそれに似ていた事から、弟君が何かしているのだと分かる。
エメラルド色の小鳥が隣の部屋に居るオレ達を見て、そのままリグート国とラーファルさんの方へと向かう為に分離して飛び立っていく。伝言用に魔法で作れるものがあると聞いていたから、おそらくはそれだろう。
「うん。ウィルスが寝た後で、リグート国とラーファルの方に今の状況を伝えた。兄様からも連絡が来ているなら上手くやるだろうしね」
ひょこりと姫さんが弟君の事を見る為に顔を出す。その後、布団ごとゆっくりと右や左やら動いて弟君の方へと向く。あれか、最初に顔を出したら反対側になってたとかそんな所か。
「………そんな事、してたんだ」
「うん。魔法を上手く使えるように教えてくれたのはラーファルだし、スティングには通信手段の方法を学んだからね。自分の魔力を用いて、動物に形をとって伝言を伝えたり出来るから」
「凄いなぁ」
「ウィルス程じゃないよ」
「え………」
「私を夢中にさせてくれるのは、ウィルスだけだから……ね?」
「っ!!!!!」
おーーーーい。イチャイチャするの早い。
ナークも微笑んでないで止めてやれよ。そう思って視線で訴えかければ、分かったように頷かれた。
「とうっ!!!」
そんな声と共に姫さんが潜り込んだベッドに素早く潜り込む。布団が勢いよく上に飛び、がっしりと姫さんの事を後ろから抱きしめて来るナーク。困り顔の姫さんに、気分良くスリスリしている。
お前、マジでネコ化してねぇか?
「ん? 主、さっきでも思ったけど首筋ちょっと赤いよ? 虫刺され?」
「へうっ!?」
慌てても鏡なんて、持ってないから確認が出来ないからな。ナークの拘束から抜け出して姿見で慌てて見れば、すぐに顔を赤くする。それで察したオレと弟君は良い笑顔で姫さんの事を見ている。
「あ、もしかして――うぐっ!!!」
余計な事を言いそうな。そう思ってナークを無理矢理に黙らせる。
もがもがと暴れるが、そこは年齢の差って事で抑え込む。姫さんは未だに姿見から動かないし、密かに弟君が近寄っていると分からない様子。
そこから抱きしめながら何かを呟いている2人を見て、今後の方針を決め、館の人達にお礼を言いギルドへと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ギルドの建物は、思っていた想像と違い綺麗な見た目だ。2階建ての白い大きな建物。その入り口と屋根の天辺には、青い旗の金の鳥が描かれたギルドマークを掲げている。
「わ、私、初めて見ました。ギルドの建物」
「ひめ──ウィルス嬢ちゃんの所にはなかったのか?」
癖で姫さんと呼び掛けるも、即座に訂正する。危ない、危ない。弟君に注意されたのに、どうにも間違えるわ。ナークは護衛対象だから、と無理くりな言い方をしていたのが羨ましい。
「あったのかも知れませんけど、殆どお城から出た事はなかったので……。リグート国のお城も良いですけど、やっぱり王都に出掛けても怒られないのが嬉しいです」
「1人娘なら、余計に過保護になるわな」
「ウィルスの願いは最大限に叶えるよ。これからも王都に行くなら誰かに伝言をしてくれれば良いし」
「……うん。ありがとう、レント」
そう言って、互いに手を強く握りしめる。婚約者じゃなくて夫婦でもいけるよな。……違和感ない、ない。
「ウェグレス様からのご紹介の旅の方々ですね。どうぞ、中へお入り下さい」
淡い栗色の女性がオレ達を見てにこやかに対応する。旗と同じマークを制服であろう胸元に掲げ、膝下までの灰色のスカートに白いの上着。
すらりとした体付きに、仄かな色気が良いアクセントの受付嬢と思われる人。姫さんの事をチラッと見ると、自分と女性とを見比べておりニコッとされれば、恥ずかしいのやら大人の魅力に負けたのやらで弟君の後ろにササッと隠れる。
姫さん、姫さん。フードを深くまで被ったままの行動だけど、雰囲気で大体察せられるぞ。
同じ女性で恥ずかしがる姫さんは、それ以降も目を合わせないように弟君に引っ付き離れない。その状態のまま、2階に上がる。中に冒険者達がガヤガヤと何やら話をしているのを見た後で、建物の奥まで案内される。
すると、光を輝かせた魔方陣が描かれており、4人で一緒に入っても余裕がある位に設置されている。
もう準備が出来てたか。連絡も密に取れているから、助かる助かる。
「ザーブナーのギルドマスターと、私と同じ制服を来た女性が既に待機しています。昨日の内に連絡はすませましたので、どうぞ陣の上に入って下さい。そのまま繋がっていますから」
「あ、ありがとう、ございます」
「いえ、お気になさらず」
魔方陣に入り、部屋中に光が満ちた時にはすぐに収まった。キョトンとした姫さんは、周りを見ても部屋は一緒だからか変化は分からない。
すると、コン、コン、コン。と、扉を叩き「ザーブナーのギルドマスターのローレックと言う。入るぞ」と言った後に入って来た男。
引き締まった体に、茶色の髪。額には十字の大きな傷跡の、見覚えのある顔……。
「ん? お前は……」
向こうもオレに気付いている様子。ナークが警戒するように、姫さんの前に滑り込み守りの態勢に入った。それをオレが手で制止し「昔、関わった事がある人だ」と言って警戒を解くように言い聞かせる。
「………。」
「ナーク君。リベリーさんの言う事、聞こう?」
「分かった。ヤバくなったら置いてく」
「それには賛成かな」
「おいおい………」
姫さんの言う事は聞けよ。弟君もさらっと置いてく発言するな。お金は誰が持っていると思って──。
「はい。リベリーから奪った」
「どうも」
「ふざけんな!!!」
弟君に渡したナークも、受け取った弟君に怒鳴るが……気にした様子じゃないから本気度が分かる。オロオロする姫さんには悪いが、やっぱりこの2人には1度きっちりと話をした方が良いみたいだ。
「ふ……ガハハハハハハッ。お前、本当にあのリベリーか? 子供相手にいいように言われて」
「うっせぇな。オレから言わせれば、アンタみたいなのがギルドマスターやってるなんて思わなかったぞ」
「し、知り合い……なんですか?」
戸惑い気味に聞く姫さん。いつの間にか被ってたフードを外し、オレとギルドマスターのローレックに聞く。
「おう、前に怪我を負わせられたんだ」
「アホ言うな。オレも、攻撃を喰らって大怪我負わせられたわ!!!」
答えながら、背中を強くバンバン叩かされる。いや、だから力加減!!!
「おい。近況を教えろ。少し位時間はあるだろ?」
「ないね。っ、だから!!! 引っ張るなっての!!!」
文句を言いつつもズルズルとオレだけ連れて行かれる。姫さんが慌ててオレの手を掴んでくれるけど……力強いから、普通に巻き込まれてんだけど!!!
「おい、待て!!! ちょっ、女の子いるから!!! 聞け、アホ!!!」
「ん? おぉ、そうかそうか」
「ふえっ……へっ!?」
「主!!!」
「ウィルス!!!」
そのままローレックが使う執務室になだれ込むようにして入ったオレ達。確か、受付の人ここにも居るんだよな? なんで、未だに見えないんだ。
「こちらをどうぞ」
そう言って4人分のお茶を出された。声のした方を見ると、水色の髪をサイドにまとめた女性が居た。ギルドの制服も着ているし、内装も見た目も恐らくはさっきと同じような感じなのだろうと推測する。
そのまま「終わりましたら、お知らせください。マスター」と言って、本当にオレ達とローレックを残した。
「…………」
ナークが先に飲み、オレもそれに習う。……うん、毒はないな。ローレックの方を見れば、軽く睨まれる。仕方ないだろ。王族が2人も居るんだから、警戒し過ぎでも足りない位だっての。
「知り合いの、しかも俺に傷を負わせた男の仲間だ。失礼な事はしない。毒なんてのは入れねぇよ。……警戒するって事は、お前……リベリーと同じドルト族だな」
「答えたくない」
「……コイツはナークだ」
「ナーク君。めっ!!」
オレに蹴りを入れよとしたが、姫さんがすぐに注意をする。しかも、俺の隣に座ってナークが出来ないようにしている。ぐっ、と唇を噛みしめて距離を開けて「……絶対、蹴る……」ってなんかすげー気合入れてんだけど。
「なかなか面白い連中と組んでいるんだな」
「違う。組んでいるんじゃない。オレがそうしたいから、そうしてんの」
「………ほぅ」
ニヤニヤとオレを探るような目で見て来る。あーもう。なんで、コイツに会うんだよ。しかも、ギルドマスターとか聞いてねぇ。
「昔の……リベリーを知っているって事は、暗殺関連?」
「……まあな」
弟君の言葉に頷き、オレはしたくもない過去を話す。
ローレックと会うのは実に10年ぶり。オレがまだ12歳の時に暗殺で仕留め損ねた人物が目の前の男………額に傷を作った事で見逃されたんだ。
オレとこの人の出会い。
まだ、バーナンにも会う前の、話しをした。




