表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
73/256

ディーデット国

ーラーファル視点ー



 リグート国から離れて既に1か月。妻に手紙を送りつつ、軽い近況報告をする日々を過ごす。はぁ、ホームシックかなとも思ったが違った。


 あれだ。姫猫ちゃんパワーがないんだ。癒し。そう、癒しが全くないんだ。




(姫猫ちゃんに癒されたい………)




 明るく笑顔で、行動がちょっと面白いお姫様。

 部下のスティングに護衛を頼んだら、嫌がらせのように近況を伝えてきた。姫猫ちゃんと一緒に出掛けたとか、共におやつを食べたとか、猫達の住処を師団の仕事場の方に作ったとか、様々な事を……。

 つい最近では、厨房に入る許可を料理長直々に貰ったとか、副料理長のリーガルが姫猫ちゃんの国で働いていたとか……毎日、面白そうにしているようで恨んだ。


 スティングを推した自分にだったり、スティング自身だったり……。本当、楽しそうだなぁ。




「今日もつまらない顔をしているな、ラーファル」

「そうですか? いつも通りですよ、いつも通り」




 今、居るのは王城の中で客室と案内された部屋だ。

 レントと姫猫ちゃんが居る部屋と同じくらい広くて、男2人で使うには余る。お風呂も完備されてるから、団体で来た時には良いだろうけど、団長と一緒に居ても……ねぇ。




「まーた、国に置いてきた自分の弟子の心配でもしている? あの王子が簡単に倒れるような人物でもないだろうに」




 そう言えば師団長は知らないんだったなぁ。

 姫猫ちゃんを前にした時のレントの事。普段とかなり違うから見たらビックリだろう。    




「自分で育てましたし、スティングも居るからそこまで心配してないです」




 あえて言うなら姫猫ちゃん成分が足りない。

 猫でも、姫猫ちゃんでも触れ合えるのは私にとって活力に繋がっているのだと、ディーデット国に居る時に気付かされた。帰ったら、時間の許す限り姫猫ちゃんと話すぞ。


 スティングの誘ったお店よりも、もっと雰囲気のある所。あ、妻に紹介して3人で話そう。よし、そうしよう。レントの悔しがる顔が簡単に思い浮かぶ……うん、たまには良いよね♪




「なんか雰囲気変わった? 前より仕事にやる気があるように見られるけど」

「リグート国が恋しい位には頑張ってます」




 私の青い髪よりも濃い、群青色の髪。

 少しくせっ毛でありながら理知的な麗しの男性。リグート国の師団長であるレーナス・アーク。私とは1つ年齢が違い、28歳と言う若さでトップを任せられる実力者。


 だが……仕事より研究。


 たまに外での仕事があろうものなら、何かと理由を付けて国を空ける。魔法に関して熱心過ぎる点があり、国王も宰相も席を空ける師団長には頭を悩ませている。

 だから、私に仕事のしわ寄せが来る。

 まぁ、今ではそれが助かっている部分もある。妻と過ごせる時間は増えたし、姫猫ちゃんとも会えたし。なんて事のない、日常が嬉しいと感じるから……感謝はしている。


 でも、仕事はしろと言いたい。

 叶うなら、この国での依頼を機にリグート国に戻って来いと言いたい。

 よし、言うか。




「師団長」

「国に戻れと言うのなら断る」

「「…………」」




 ながーーーーい、沈黙。

 互いに笑顔だけど、雰囲気は最悪。姫猫ちゃんが遭遇したら、ガタガタ震えて部屋の隅に居るからレントやナークに縋りつくのが分かる位に冷え切った部屋。


 当然、私も師団長も魔力で相手を威圧している。私も師団長も同じ風の魔法を扱うけれど、魔力を威圧として使う事も出来る。そのいい例が、兄のバーナンと弟のレントである王子2人。

 身近にそう言った事を出来る人間が居るのは良いよね。観察にもなるし、実際に自分で出来るのは良いからね。部下を脅したりとか。

 



「嫌だよ」

「こっちが嫌だよ。散々、こっちに仕事を押し付けて来て」

「そのお陰で時間は取れてるだろ」

「だとしても、だ。話が違うし、今、師団長が国に居ないのは色々とマズいんだ。………国王と宰相から連れ戻せと言われてきているんだから」

「………………」




 本来なら私も師団長も国を空けておくわけにはいかない立場だ。

 師団長はリグート国の師団をまとめるトップで、私は代わりだけど副師団長と言う立場だ。

 部下の教育もあるし、私達に次ぐ人物も育てないといけない。研究熱心なのは構わないけれど。国の事を放り出すのはダメでしょう、大人として。




「はあ………分かった。折れるよ、折れますよー」




 圧に耐えかねたと言うより、国のトップに言われたから観念した。

 ふんっ、とこっちを無視する態度。まぁ、ここ最近魔獣は出て来ていないし国が集めたと言う腕利きの冒険者も多いから苦労はしていない。


 その日の夜。

 通信用の鳥が、私の元へと飛んできた。エメラルド色の通常の動物ではあり得ない色。リグート国での緊急用のものだと分かり、その鳥から聞こえてきた声に思わず師団長と顔を見合わせた。


 飛ばしてきて、こちらに連絡をとったのは第1王子のバーナン様だ。

 伝えたい相手が遠くに居た場合、そこまで自分の魔力を持続させる必要がある。そこまでして私達に伝えたい内容があるのだと分かり、頭を切り替える。



 聞かされた内容は、弟のレントが姫猫ちゃんの所に刻印で飛んだ事。

 同時に薬屋に行っていたとされる姫猫ちゃん達も何処かに飛ばされたと言い、行方が掴めない事。


 可能性として、ディーデット国は魔女と関りを持つ事からこの国に集まる可能性があるから保護を優先しろと言うものだった。




「………あの第2王子が勝手に動く、ねぇ。………ってか、ウィルスって誰?」

「あーー。そうだね………まず、そこからか」




 師団長は長い間、リグート国に戻っていない。それこそ姫猫ちゃんが来るようになった3カ月程前から………。

 話すのが面倒だなと思いながらも、仕方なく話す事にする。情報は共有しないといけないからね。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ールベルト視点ー



 リグート国から帰ってきてから、兄のギルダーツの様子が明らかにおかしい。仕事はキッチリ行うし、自分にも部下にも私にも厳しいのは通常運転だ。

 でも――。



「はあ………」




 この所、ため息が多い。気付いたら、ふとした瞬間から。挙げるとキリがない位に多い。それが部下達にとっては生きた心地がしないのだ。




「な、なぁ……最近のギルダーツ様。何だかおかしいぞ」

「……失敗は、してないんだけれどな」

「お、俺の報告が……間違っていたかな」




 と、周りが別の意味でストレスになる。

 私は兄の変化に驚きつつも、原因はなんとなく分かる。ウィルス……彼女と関わってから態度がおかしいと分かる。弟や妹も様子がおかしいのは分かるけれど、あの様子の兄が珍しいのか違う意味でワクワクしている。




「あ、ルべ兄ぃ~」

「おわっ……」




 呼ばれたと同時に背中に衝撃が来る。倒れないように体を支えながら、実行した犯人を捕まえる為にそのまま背負う。途端にきゃははと笑い声が聞こえくる。




「もう、考え事している時に突撃するなって言っただろ。バーレク」

「へへっ。だって、ぼーーっとしているのが悪いんだろ?」




 バーレク・ヒナム・ディーデット。

 私達の兄弟にして16歳の元気いっぱい過ぎる男の子。金の瞳にカールした紫色の髪。元気過ぎてて、毎日タックルを喰らう私や兄の事なんて考えてない……。

 まっ、お陰で体は鍛えているからそこまで痛くはないんだけど。でも、心臓には悪い……止めろと言っても止めてくれない。




「はぁ………毎日やられる身にもなってくれない」

「やだ♪」




 ガクリと肩を落とす。聞き分けの無い性格は誰に似たのやら。そう思っていたら、バーレクが「いたっ」と兄に叩かれている場面に出くわす。いつの間にか背中から下ろされており、正座をさせられずっと叱られている。




「いつになったら聞き分けがよくなるんだ」

「ギル兄ぃが結婚したら!!!」




 ………何と言う事だろうか。明らかに態度が悪くなる兄に気にした様子の無いバーレク。睨む兄の気迫を何とも思わずに口笛まで吹いている辺り、図太いのやら空気を読んでいないのか。




「だって最近のギル兄ぃ、様子がおかしすぎる。他国に行って好きな女性でもいた?」

「いない」

「今度、紹介してよ!!!」

「だからいないと言っている!!!」




 火に油を注ぐような状況になり、王城の廊下を行き来する人達は避けるように別の道に進むように移動している。なんだか、兄弟達が迷惑を掛けているようで心苦しい……。


 王城からは海辺が見えるし砂浜も広がっている。

 海の近くで城がある事から、自然と港にも力を入れており1年間安定した気候を保っている。気温が暖かい事で育つ果物や植物もあり、日に当たる事で甘みが増す果物が多いのも特徴の1つだ。

 その果物を使ってのスイーツは大変喜ばれるから、自然と国の特産品になる。こうして海を眺めていると、さっきまで喧嘩を止めて疲れ切った気分が晴れやかになる。

 



「ルベルトお兄様。そう溜め息をすると幸せが逃げますよ」

「……ルーチェ」




 そこに淡い金色の髪に薄紫色の女性が――妹のルーチェが現れる。彼女はいつもピンク色のドレスを着る位にこの色が好きだ。今日も、好きな色のドレスに惜し気もなく飾りを身に付け綺麗に着飾っている。


 ウィルスが素のままで綺麗に飾っているから、つい妹のルーチェとを比べてしまう。装飾品を沢山身に付けて綺麗に飾る分、あまり物がなくても人を引き付けるような魅力があるのだから……ウィルスは不思議な子なのだと思う。




「どうさなさいました?」




 キョトンとし、私に話しかけるルーチェ。彼女も弟と同じ16歳であるが、こう見えて活発であり、剣を扱う。自分よりも1つ上の女の子が既に婚約者が居ると話したら……どう思うのだろうか。

 



「ねぇルーチェ。リグート国に行ってきた時にね、婚約祝いで行ったのは知ってるでしょ?」

「えぇ。ギルダーツお兄様が何でその国に婚約祝いとして、自ら出向いたのかは分かりませんが」

「ふふっ。君と1つ違いの女の子がね、その国の王子と婚約者なんだ」

「まあっ!!! ぜひ、詳しく聞かせてくださいルベルトお兄様。すっごく知りたいです♪」




 目をキラキラとさせており、既に侍女にお茶とお菓子を用意するようにと頼んでいる辺り逃がす気はないのが分かる。恋の話になるとワクワクしたようにはしゃぐのは年相応だと思う。


 そしたらまたバーレクがギルダーツに対して悪戯をしている。その後には、お決まりのように兄の怒鳴り声が響く。



 兄をからかって、弟のバーレクと一緒に怒られるかなっと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ