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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第57話:怖い人

ー宰相、イーザク視点ー



「何故、勝手に決める!!!」




 謁見の間での大声を発した。

 国王のギースが勝手に事を運んだことに怒りがあった。王子達は覚悟をしていたんだろう。2人掛かりで、国王に土下座をさせようと動いている。王妃のラウド様はひっそりと息子のスティングと共にこの状況を黙って見ている。




「お、まっ、ぐぐぐっ……痛い、痛い!!!」

「何が痛いだ、まったく」




 ギリギリと父親の頭を床に押さえつけるのは第1王子のバーナン様。反対側では第2王子のレント様が同じように、押さえつけて来る辺り兄弟の仲の良さはよいのだと改めて思わせる。




「とりあえず、宰相に謝りましょうよ。ねっ!?」




 と、言いつつガツンと頭をぶつけているレント王子の本気さが分かる。しかし、国王のギースはそれでも負けじと起き上がってくる。




「悪い事はしていない!!!」




 ただ保護したんだと言い張るギースに俺は溜め息を吐いた。

 そこから俺はギースに詰め寄り話した。リーガルは魔女と言う存在を知らなかったとは言え、知らない内に危険な場所に居た事を説いた。次に夜中に不法侵入した見習いと名乗ったネルの件。

 魔女ではあるが、今は魔力を失っている状態のミリア。しかも、彼女がウィルス姫を呪いで縛り付けた張本人だ。なかったことには出来ないし、時は戻る訳ないのだからと言い猫のカルラにも視線を向ける。




「君も不自由な事からは解放されたいだろう」

「ミャー」

「事情があるなら平気ですって。宰相」




 ………。

 しまった、と思い頭を抱えた。どうも猫である彼女と意思の疎通が出来るのはレント王子だけのようだ。その事も報告として聞いていたが、つい聞いてしまった。

 猫を相手に、普通に聞いてしまった。どう返事をしようとも「ニャー」としか鳴かないのだ。否定も肯定も、全て鳴き声なのだ。だというのに、普通に話せるものだと思って話しかけてしまった……。


 見ればギースは笑いを堪えている様子。レント王子はカルラと何やら話しているからこちらの様子には気付いていない様子。スティングを見れば変わらずの笑みだが、内心では絶対にバカにしているだろうことが読める。




「それに私としては一生治らない可能性もあるのでは、と思っていましたがミリア自身が施しているのなら治る見込みもあると言うもの。……それが分かっただけでも、私には嬉しい事です」




 微笑みながら答えるレント王子。頭にカルラを乗せていなければ決まっていただろうに、何故こうも抜けている所があるのか。

 そんな事もあり、リベリーからの連絡で後日大ババ様と呼ばれる人物との会談を行う事を告げ早々に謁見の間から退出する。


 また忙しくなるのが分かり、苦労が増えるなと思いながらも仕事に勤しんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーリーガル視点ー



 俺が近衛騎士から呼び出しを喰らって、国王様からは何のお咎めもないまま普通に料理人として過ごして早1週間。……本当に何事も無く、普通に仕事が出来る事に驚きがあった。

 しかも、料理長からは俺が渡した辞表の事に関して「そんなもの、貰ったか?」と知らないとばかりに仕事に入っていきポカンと口を開けてしまった。変わった事と言えば、ミリアが仕事をしながら王都によく出かけるようになった事だ。


 えーっと、確か大ババ様だっけか。その人と、国王とで会談の為に色々と駆け回っているらしい。……あと、あの魔女見習のネルも面倒を見る様になった。最初はすっごい、俺に対して敵意剥き出し。




「ミリア姉さんの敵……!!!」




 正直、何でそんな目で睨んで来るのか分からなかった。しかも、ミリアからは「ぶっきらぼうだけど、優しいから!!!」と変に力説されて妙に気恥ずかしい思いをした。

 これまたウィルス様と同じで、俺が普通に作っている料理を出して数秒後には夢中で食べており目をキラキラとさせていた。……あまり食べ物に関して興味がないのかと思ったが「魔物を狩っているから薬だけで体力つけてたのよ」と小声で教わり逆に不安になった。




「ほら、これでも食って育て!!!」

「!!!」




 そう言って出したのはプリンだ。

 食べる前に皿を揺らし、色んな方向から珍しそうに見ている様子に見た事ないんだなと思いながら黙って見守る。デザートは得意だし、たまに見習い達に出せば喜んで食べてくれる。

 俺の見た目でこんな繊細な物が作れるのが不思議だと言っていたから、普通に引っ叩いた。見習いと同じ事を言うんじゃない。


 まぁ、こんな感じで普通に1週間過ぎて良いんだろうかと思う位に日常が流れる。そして、あのネルには妙に懐かれてしまった。……子供の扱いは分からないが、と思いながらも調理の仕込みを行う。




「リーガルさん!!!」




 元気よく声を掛けて来るのはウィルス様だ。髪を三つ編みにしたり、サイドにまとめたりと色々としているが、今日は一つに結んでいる。ニコリと笑顔を向けられれば、俺以外に働いている連中は目にハートを浮かばせて「こんにちは」と挨拶を交わしている。




「こんにちは。今日もすっごく美味しかったです!!!」

「おー、それは良かった」

「ネルちゃん、どうしてます?」

「確か西に行ったぞ」




 俺にはよく分からないが、魔法を扱い慣れている人達が働いているとされる場所に通うようになったんだ。どうも宰相の息子が許可を出してきて、挙句に父親にも何やら色々と言ったらしい……。


 まっ、俺に分かる範囲なんてのはないしな。




「気に入りましたかな、ウィルス様」

「こんにちはイーグナー料理長さん」




 と、そこに俺の上司にして雇ってくれた料理長が彼女に話しかける。

 ピシリと空気が引き締まり、いそいそと仕事を始めたのは……あとで怒られたくない為だ。いつもニコニコと愛想のいい顔をしているが、料理の事となると鬼のように真剣であり真面目な人だ。

 加えて珍しい食材があると聞くと、自身の目で確かめないといけない性分らしくそれで何度か居なくなる。だから、王城に常にいる人間が……副料理長が必要なんだと。




「そう言えば、ウィルス様はご自分で猫を飼っていると聞いています。ご自分でご飯なども用意するのですか?」

「ハイ!! ですが、ここではなかなか出来なくて……見習いのルーカスに何度もお願いしているんですが……難しい顔して了承してくれなくて」




 ギクリ、と体を震わした。

 俺が厨房に入れさせていないし、周りにもそれは徹底している。見習い達にもお願いしたがウィルス様はそれには気付いていない。まぁ、王子に報告していたらすぐにでも入っていい許可は出すだろう。

 それが未だになされていないのだから、本当に王子に何も言ってないのだろう。……護衛と側近には既に知られているのに、だ。

 そこからバレていないのなら、婚約者の口にも出していない。溺愛しているのだから、彼女の言葉一つで実行してもおかしくないことだ。




「んーー。王子にでも頼みますか?」

「いえ、そこまでは……。それに皆さんの働いている姿を見ているのも私自身楽しいですし。本音を言えば、猫ちゃん達のご飯も作れたらとは思っているんですけれど……やっぱり王族が入るのは良い顔をしませんよね」

「………。」




 何でそこで俺の顔を見るんですかね、料理長!!!

 え、なんかもう俺が意地悪しているみたいな目で見てますけど!?




「飼い主さんなら自分で作ったご飯をあげたいよね」

「でも、私もなかなか時間が作れない時もありますからやっぱりお願いする形になるので大丈夫です」

「リーガル。悪いがちょっと来い」

「………はい」




 嫌な予感はしなくもない。

 ウィルス様は俺に気付いて、料理長とを交互に見る。……そして、その後ろでこそっと見ている見習い達。おい、ギャラリー増えてるぞ?




「厨房に入る許可を与える代わりに、必ずリーガルと居るのを条件にしてくれるかな? 彼ね、こう見えてもデザートが得意だから作り方を教わると良いよ」

「!!!」




 思ってもみない提案にウィルス様は驚いて目を見開き、俺も同じ位に驚いていた。後ろで「おおっ……!!!」とか言っている声がうるさいがな。




「で、ですが……」

「隣国のディルランド国の王妃様はお菓子作りが得意でね。別に王族だからと言って料理をしないと言う訳では無いんだよ」




 グサッと俺の心に剣が刺さる。

 俺は王族は料理なんてするなと彼女に言ってしまった手前もあり、どんどん青ざめる俺を無視する。料理長はなにやらウィルス様と和やかに会話している。気付いたら厨房の中にまで招き入れて、これから来る事もあるだろうから皆よろしくみたいな事を言ってる。




「…………」




 戸惑うウィルス様を他所に、何だか厨房が華やかになったのは気のせいじゃない。……すっげぇな、王族って言うよりあの人の雰囲気でここまで違うのか。お前達、頬を赤くしてるがな王子の婚約者だぞ? 嫉妬が凄いのを知ってるんだから、そんな分かりやすい反応をするなよ。




「え、え、良いんですか?」

「あぁ、構わないよ。いつも美味しいと言ってくれているし、なによりここまでお礼をしに来ているのも聞いているよ。やっぱりね、食べて頂いた人に直接お礼を聞けるのは嬉しくてね」

「ありがとうございます!!! あ、あの、時々ですけれどお邪魔しますね。本当にありがとうございます!!!」




 喜びを全身で表現しているのは誰か見ても分かる。料理長なんか嬉しそうに笑顔が多いし、中で働いている人達だって未だに惚れ込んだようにウィルス様の事を見ている。

 厨房が喜びの空間で占めている時に、第3者の声が彼女の声を掛けた。




「嬉しそうだね、ウィルス。どうしたの?」

「レント!!! あのね、聞いてくれる!?」




 ここには絶対に来ないであろうレント王子が現れた。

 銀髪のエメラルド色のウィルス様と同じ年。だと言うのに、纏う雰囲気が他とは違うのだと思わされる位に圧倒された。普段と同じようにしているだろうに、それだけなのに全部が圧倒される位に目が離せなかった。




「そっか、良かった……。ウィルス、時々悲しそうにしていたから心配してたんだよ。バラカンス達が厨房に入れていない様子だって聞いてたからね」




 がっつり知られているですね。ウィルス様も驚いたように「し、知ってたの?」と戸惑った声が聞こえて来る。自然に俺達はこそっと聞く立場だ。




「うん、気になるしね。私に話さないから何か理由があるんだと思って何も聞かなかったんだ。でも、ウィルスの楽しそうにしているのを見ていたら無理に聞かなくて良かったなぁと思っててね」




 優しい手つきでウィルス様の頭を撫でており、恥ずかしそうにしていながらも嬉しそうに顔を綻ばせる。溺愛ぶりをこの目で見られるとは思わず、驚いているとその様子をこそっと見ている侍女達の姿を目撃する。

 小声でコソコソと何かを話しており、何故だか彼女達も嬉しそうにしている。……あれか、確かウィルス様とレント王子との仲を伝える見守り会とか何とかだったか?




「楽しい事が増えてなによりだよ。これからちょっと出かけない? もっとウィルスと話したいんだ。良いかな?」

「うん!! 私もレントと話したい♪」




 さらっと抱き寄せて来るから流石だなと思っていると、一瞬だけ俺達を見る王子と目が合う。……なんか、ギロッと睨まれたような気が……。




「………あ、あれっすか、あんまり近寄るなとか、そう言う牽制?」

「かもな。……あんなに可愛いお嫁さんじゃあ仕方ないよなぁ」

「あ、でも、これから仕事に気合が入りますよ!!! お姫様がここに来るんですから!!!」




 牽制の意味だとすぐに受け取るが、ただでは起きないなと思いながらも気合が入る面々。

 

 頼むからこれ以上、トラブルを起こすなよ。あの王子、マジで怒らせると後が怖いだけじゃないんだ。噂じゃあ、貴族の家を丸まる潰したとかすっごい恐ろしい事を聞くんだからな……!!!




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