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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第55話:ただの自慢

ーリラル視点ー



 私の名はリラル・セルロール・リグート。


 父のハルートと母のウェンダムとの間に生まれた息子。父の兄は国王をしており、彼には息子が2人いる。兄のバーナンは今でも酒を飲んだりしているし、彼の護衛を務めているリベリーとも顔見知りだ。

 弟のレントもバーナンと同じように周りから期待されている人物。魔法も剣技も兄に負けていないというのも知っているし聞いている。




「レ、レント……あ、の………」

「ん?」

「あ、えと……ごめんなさい」

「何で謝るの?」

「………わ、私が色々と忘れていたから………です」




 目の前で行われている攻防は既に数分は経っている。

 ウィルスと言う名も顔も、ディーデット国とハーベルト国の王子達が来た時に紹介はされたが、あの時の彼女は疲れた様子だったからあまり記憶に残っていないのだろう。


 チラチラと私の事を見ており、困ったように視線を彷徨わせている。後ろから抱いているレントはむすっとなって「リラルの方を見ないで」と言って無理矢理自分の方へと顔を向けさせる。


 警備達のあの出迎えにより、委縮してしまった彼女はレントに助けを求めた事により怒らせたらしい……。まぁ、バラカンスとスティングの報告だから事実だろう。

 そして、城で噂になっていた事が現実なんだと感じた。



 レント王子は婚約者の事を溺愛している。

 誰が見ても、両思いであるあの2人の邪魔をさせる訳にはいかない。



 と、女官や護衛を務める兵士達からの話題。警備達の者達も交流がある事から、彼等から王城での噂を聞くのも楽しみでもある。




(へぇ……凄い構いっぷりだね)

「リ、リラル様!!! あの、あのっ、レントの事を、きゃう!?」




 首筋に息を吹きかけて悪戯を始めたレントに、大げさに反応を示す。涙目で逃げようとしているが、レントの膝の上だから元々ないんだよね。




「う、うぅ、レント。ごめんなさい、ごめんなさい!!!」

「やだ」

「やっ、やだ!?」




 ジタバタする彼女が面白いのか、レントは笑顔で追い詰めていく。前は笑顔であってもどこか距離を感じさせたが、今のレントは彼女の事を愛おしそうに見ており、そこに嘘はないのだと分かる。




「城での噂は本当だったのは聞いてるし、実際に夜会の時でも知っていたけど……変わったね、レント」




 嫌味はない。

 ピタリと攻防は止められ、彼女はレントと私とを交互に見る。少し間があってからレントは答えた。




「私は彼女の為に頑張ります。ウィルスと一緒ならそれでいい。でも、そのワガママを通すのに力や権力が必要なら躊躇しない。リナール公爵家のように潰す所は潰す」




 自分と彼女の邪魔をするなら、誰であろうと容赦しない。

 そう言われている気がして、ちょっと寒気を覚えた。彼女は途端に青ざめるが、私は何でもないように振る舞う。




「溺愛ぶりがなかなかのもので。君の機嫌を損ねたらダメだと彼等にも言っておくね」

「そうしてくれると助かります」




 彼等、とは怒らせた警備達の事だ。

 港を管理するからなのか、いつの間にか屈強な体を持ってしまった。最初は普通の体型だったのに、過ごす内に日に日に増すらしい筋肉。

 結果、港を防衛する者は筋肉が多く、体が大きい者達により目を光らせる事と言う体制に。聞く所によれば、悪さをした人達を吊し上げそのまま独房行き。


 どのような経緯かは分からないが、筋肉について知りたくもない事を1日中聞かされたらしい。別に父も私も体格が良いとは言わない。

 普通の体型で、高身長と言う訳でもない。

 王族として銀髪かエメラルドの瞳を持っているかに限るなら、私はレントと同じ銀髪だ。鍛えはするが、警備をする者達と比べれば小さいものだ。




「おぉ、レント。ちょうど良かった。色々と話をしたくてね」

「ハルート叔父様」



 

 少し考えていたら、父がノックをしながら入って来た。

 まぁ、私の執務室だから別に構わないけれど。そして、彼女が気付いたようにレントの隣へと移動しようとするも、拒否するようにぎゅっと抱き締められる。


 むっとなり、渾身の力を持って抜け出そうとする。しかし男と女の力は歴然だ。すぐに根を上げた彼女に、レントは満足そうな笑顔になった。




「別に構わんさ。公式でもなんでもないのだから、気を楽にしていて。姫も必死に逃げ出そうとしなくても平気だ。それが普通なのだろう?」

「い、いえっ……!! あ、えっと………は、はぃ………」




 すぐに否定したが、レントからのプレッシャーだろう。一瞬、体を強張らせて肯定の言葉を口にする。父も分かっていての言葉だから酷いなと思う。




「改めてだな、姫。俺はハルート・セルロース・リグート。レントとバーナンにとっては叔父にあたる。王城に退屈したならこちらに来ると良い。いつでも歓迎しよう」




 来客とは言え、親族にあるからかいつもは威厳のある父は雰囲気を柔らかくした。内心、警備達の身が引き締まったのは絶対に父の所為だと思う。知ってか知らずなのか、父は威圧する。周りにも息子にも容赦なしの手加減抜きだ。


 そう言う所をレントは影響されたのか手加減抜きだ。

 威圧するのは無論だし、警備の人間が密かに「ハルート様と……同じだ……」とレントには父と同じように逆らってはいけない人物だと認識させられた。




「ウィルスには私がいれば平気ですよ。お誘いはありがたいですけどね」

「…………」




 彼女が答える前にレントがすぐに答える。

 思わず私と父が顔を見合わせる程に時が止まったようにそのままだ。彼女はじっとしながらも「と、時々………い、行きます………」とか細く答えたら、レントがすかさず「何で?」と聞いてくる。




「ウィルスは私といるの嫌なの?」

「嫌とかじゃなくて、せっかくお誘いしてくれたんだから行くのが筋でしょ? レント、縛り過ぎだよ」

「縛り付けるのが何がいけないの。城内では自由に行動をしてるんだから、1日居ても全部を把握するのには時間は掛かるでしょ?」

「そ、そうじゃなくて………朝も昼も夜も居るんだから少し位散歩しても良いじゃない」

「本当なら政務なんてしないで、1日中ウィルスと居たいんだよ。でも、それだといけないから仕方なく仕事に行ってるの」

「い、息つまらない?」

「全然」

「……………」




 真顔で答えたレントに彼女はポカンとなり、すぐに顔を赤くする。次に「も、もうっ、そうのは言わないの!!!」と言ってレントの頭をバシバシと叩いている。

 本気で叩かれていないからか、レントは笑顔で受け止めている。その光景に父のハルートが大声で笑った。私も気が抜けて、張り詰めていたものがすぅと軽くなる。




「ふ。噂以上だな……。レント、お前がそこまで惚れ込んでいるとは思わなかったぞ」

「政略結婚ではありますが、そうでなくても私はウィルスの事を愛しています」

「う、うぅ~~」




 今度は恥ずかしがって、耳を塞ぎ下に俯いてしまった。観察していると色々と表情が変わっているから、ずっと見ていても飽きないね。そう思ってずっと見ていたらレントに軽く睨まれた。

 ………独占欲、強いね。




「ははははっ、こりゃあやられた。いやー、幸せそうならいい。ただ、気を付けろよ。未だにレントと婚約を望もうとする者達が居るからな」

「嫌な話。夜会で堂々とウィルスを紹介して、エリンスとアクリア王にも公認して貰ったと言うのに………」

「やっぱり、な。あんな強引なやり方を誰が考えたんだと思ったが……」

「言っておくけど、兄様も同じ事を言ったからね」

「ほう、あのバーナンが?」




 それは初耳だ。バーナンは例の公爵家の娘の起こした行動で、1度死にかけた事がある。毒入りの物を飲んだ事も、宰相の息子であるバラカンスが巻き込まれたのも知っている。

 彼はあれ以来、周りを信用しない態度を貫いて来た。

 今でもここにバーナンが来るだけで空気が重くなるのは、ここで働いている者達が過去のバーナンを知っており彼も逆らえない人物に密かに認定されている。




「……バーナンにも信用に当たる人物がいるのならいい。他国の交流での彼を見た時には驚いたぞ。別人かと思う程の振る舞いだったからな」




 父とレントが話した話をしている間、彼女は静かに離れて私の隣に来て良いのかと視線で訴えてきた。無論、私は無言のまま頷き隣に来て良いと示せばおずおずとしながらも座ってくれた。




「あの、バーナン様……前と今とでそんなに違うんですか?」

「そうだよ。多分、貴方には言っていないんだと思うんだ」




 耳打ちで話をし、詳細までは伝えていないが軽くは言った。彼女はその公爵令嬢に酷い仕打ちをされたのも聞いているから、全くの部外者と言う訳でもない。終わった事を話さないだけかも知れないけれど、レントはあまり彼女に心配をさせない様に行動をしているのだと思われる。




「………そんな事が………。だから、ラウド様があんなことを……」

「あ、これ食べる? 南の国のお菓子なんだって」




 そう言って彼女に差し出したのは、透明な袋に包まれた水色の飴だ。透明度の高い水色で、何とも幻想的な色と見た目にすぐに目を輝かせる。ふふっ、本当に感情を素直に出すんだね。




「はい。あーん」

「あ、あーん」




 パクン、と食べて口の中で転がす。

 初めは恥ずかしがっていたが、段々と飴の味を味わう様にし表情が緩む。凄く幸せそうに食べるから、私も1つ色の違う飴を食べてみる。南の国だからか、フルーツの甘みがしっかりとあり子供が喜びそうな味だと堪能する。


 いつの間にか会話が止まっていたから、そちらに視線を向ければ父はニヤニヤとしレントは私の事を睨み付けていた。………なんで、殺気を器用に向けて来るのかな?




「ウィルス………何で移動しているの」




 え、聞く所はそこなの。

 でも、彼女は気付いていないのかそのままコロコロと口の中で飴を転がす事に夢中でレントに気付いていない。うん、ある意味凄いね。




「あ、そう言えばギルダーツ王子が貴方にってお土産があるんだ。昨日、渡そうと思ったのにごめんね」




 そう言って彼女に小さな袋を渡した。中身を見れば、自分が食べている飴だと気付きさらに目を輝かせた。………向かい合わせにいるレントが不機嫌になっているのに、気付かないのは凄いね。




「ありが……っ!?」




 お礼を言い切る事は出来なかった。

 何故なら真後ろに引っ張られた拍子にキスをされたからだ。驚いて目を見開く彼女に構わず、長い長いキスを終えてヘロヘロになる。結構なものを見せ付けて来たねと思うも彼女からしたら恥ずかしさマックスだろうなと思う。

 そして、レントの目が勝手に触るなと言う意思表示にも見え、私はそれを綺麗に無視する。




「言っておくけど、彼女はレントの邪魔にならないようにって離れたんだから責めないであげてね? 気が利く子で可愛いじゃないか」

「………牽制に来たのが間違いだったか」

「避難場所として使って貰って良いのにって言う父の言葉を無視するの?」

「そう言う事にしておくよ。では私達はこれで」

「あぁ。………ハーベルト国には目を光らせておけ」

「分かっていますよ」




 父がレントに耳打ちしていたが、私には内容は聞き取れない。ヘロヘロの彼女は、何とか気力を振り絞る様に私に手を振ってくれるから私もそれに応える。

 彼女は周りを元気に華やかにする不思議な子だね。


 私がそう思っている内に、レントはすぐに王城へと向かった。慌ただしく付いていくバラカンスとジークが大変だ。彼の護衛兼側近は毎日が大変なんだなと思っていると、父が笑いながら話しかけてきた。




「お前も早く結婚しろ」

「はいはい。自分で少しは考えたいんだから……ってかレントの奴、ただ自慢しに来ただけでしょ」

「まぁ、誰しも可愛い嫁を紹介して触れるなと言う事を言いたいんだろう」

「………それ以上の意味もありそうだけど」




 不思議そうな顔をする父だが、私には何となく分かった。

 避難場所として紹介したけど、彼女が男性と話すのが嫌なのだろうと気付いた。だから、親族であっても自分以外は許せないと言う呼び起こさなくてもいい感情を呼んでしまったようだ。


 あの独占欲に彼女は気付いているのかいないのか……。いや、あれは気付いてないだろうね。可哀想に……他人の幸せを邪魔する気はないよ。でも、レント。彼女が自分から来たら対応するよ。



 君があんな悔しそうな表情するのは珍しいからね。

 あぁ……恋って凄いなぁ。あんなイチャイチャを見せつけられていると、自分にも欲しいなとか思わせてしまうのが不思議だ。


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