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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第53話:魔女と王子

 ウィルスがバーナンに問いただされている頃。ギルダーツとルベルトは、自国に帰る為に馬車に乗っていた。ルベルトは向かい合わせて座るギルダーツの事をじっと見ていた。

 いつもの観察する為のものではなく、弟として兄を心配する目だ。しかし、兄は気付かない。

 ずっと、上の空のまま馬車から見える空を眺めているだけだ。




「良い気分転換になったね」

「そうだな」

「ウィルスが元気そうで良かったよ。遠見の魔法で見たのは、たまたまだったからさ」

「ラーグレスから聞いていただろ。リグート国はバルム国と交流していた、と」

「他人から聞くのと自分で見た感想は違うよ。他人は色々と嘘をつくし、私達の事を利用しようとする人達はいっぱいいる」 




 そのいっぱいには、欲に目の眩んだ連中を指し貴族も含まれる。そう思わせるセリフにギルダーツは、やっとルベルトを正面から見た。




「リグート国の評価をしていたのか?」

「当たり前でしょ? 従妹にあたるウィルスが酷い事をされていないか、親族としては心配だよ。されているようなら、連れ帰る気でいたんだ」

「………父の命か」




 思わずギルダーツはルベルトを睨んだ。しかし、兄の睨みに対しルベルトはいつものように、何の事は無いように受け流す。




「安心して、父の命ではないよ。私個人のものだから」

「なに……?」

「父の良いように動く人形ではないなよ。私にだって意思はあるよ」




 父親と仲が悪いと言う訳ではない。ただ、父親は強引に事を運ぼうとする時がある。それがゼストを思い出させて苦手意識が多少あったのだ。

 ルベルトは良くも悪くも父親の言う事は守ってきた。だから、今回の件ではギルダーツは少し警戒をしていた。普段では行かない外交を行くと聞いた時は驚いた。




「それを父に報告するのか」

「祖父から見たらウィルスは孫にあたる。しかも、彼女の母親は光の魔法の使い手だった。……遺伝的に見て娘の彼女に、力が流れていると思わない?」

「なにを」

「今代の光の魔法を扱うのが、ウィルスだった場合……ギルダーツはどうする?」

「………」



 光の魔法。


 この魔法を扱う時に髪が白銀へと変わる特殊な力。魔獣を倒す事に特化し、何度もぶつかり合いその使い手もその時の怪我が、原因で早死にしたりする。

 短命になりやすいのは、魔獣が警戒して先に潰そうとするからだ。魔獣に近付かなければ、魔法を任意で発動出来ない。死と隣り合わせになり、魔獣を倒す責務も付いてくる。


 理解者は少ない。

 その魔法の発現も、最低2人までは確認出来るが基本的には1人しか扱えない仕様のもの。高い魔力と急に変わる髪の色。忌み嫌われ、生まれ育った場所すら追い出されて途方にくれる。


 同じように、魔女も魔獣と同じように疎まれてきた。そんな光の魔法の使い手と、魔女が共に行き安らぎを得られたのは幸福かも知れない。


 もし、ウィルスがその使い手なら……。




「あり得ん。彼女は魔力はあるが、魔法を扱う為の教育は行っていない」

「それもおかしな話だよね。……魔力があることが分かった時点で、魔法の発動から理論まで習うはずだよ。現に私やギルダーツも知っているのに」




 最初から隠しているようにしか見えない。


 そう含んだ言い方にギルダーツ自身も気付いているし、ルベルトの疑問ももっともだと思っている。それでもギルダーツにはここまでウィルスを遠ざける理由がある。




「仮に……仮に彼女が光の魔法の使い手だとしよう。……両親も住んでいた国も、魔獣に奪われたとされている彼女を、戦いに赴けと言うのか? 奪われて苦しんでいる彼女に、さらに追い打ちを掛けろとお前は言うのか!!!」




 今まで魔獣を倒せた記録は魔法のみ。それも魔力量が多いもののみと言う限定的なもの。


 今でこそ白銀に髪が変わる彼等を気味悪がったが、魔獣と言うイレギュラーが出て来た上に誰も倒せなかった魔獣を倒したと記録では残っている。この事から、大国のごく少数に魔獣を倒せる手段として彼等を我が物にしようと動く所があった。


 それらの行動に、魔女の怒りを買い滅んだとされている国もある。

 バルム国は唯一、魔女と人とが分かち合い国として設立で来た場所。それも長い年月が経てたば風化し、その事を知っているのは王族の中でもその代の国王のみに語り継がれている形へとなった。


 光の魔法の使い手はその力を知る者達から英雄視され、期待を背負わされる。家族を失っているウィルスにさらに辛い目に合わせる気かと言う意味も込めて、ギルダーツはルベルトを睨み怒鳴る。





「そうでなければ良いけれど、と私は思うよ。でも、調べてみる価値はあると思わない? リグート国に現れたとされる魔獣がどうなったのか、知る必要があるよ」

「………っ」




 すぐに顔をそらしたギルダーツはそのまま何も言わないまま、再び空を見る。その姿勢にルベルトが静かにため息を吐き、仕方ないとばかりに頭の中で考える。




『また会えると嬉しいよ、ウィルス』




 自分があんな台詞を吐くとは思わなかった。

 余程、夜会で交流できなかったのが腹立たしいのかと思ったが……ふと思った。自分は……他人との交流を望んでいるのかも知れない、と。




(レント王子……か。やっぱり弟だからと思って話しかけておいて良かった)




 少なからずルベルトにも変化が起きていた。

 いつもは一線を引き、兄の後ろから事が起こるのを見てきたが……今回の事で少し積極的に動いてみようと目標を作る。




(まずは国に帰ってからウィルスに手紙を書こう……。密かに文通すれば、あとで兄の悔しがる姿が目に浮かぶ。それを楽しみにしておくか)




 どうやら自分はからかうのが好きらしい。特に生真面目な兄に対して。

 それを教えてくれたレント王子には感謝をしつつ、長い旅路の馬車の中でも退屈はしなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その頃、カラスが飛び立ちリグート国から出て行く馬車を2つ確認した。

 1つはギルダーツとルベルトが乗っている馬車。もう1つはゼストが乗っている場所。それぞれの国に帰るのを確認した後、一瞬で崩れ去る。




「やっと帰ったようだよ」

「はぁ……退屈だった」




 使い魔のカラスを使い、それ等の様子を覗いていたのは大ババ様とネルだ。彼女達のお店は今日も人が来ないからと、早い段階で閉店の札を出していた。


 ある日、大ババ様の所に1匹の白いハトが現れたのだ。

 使い魔の類だと感じ取った彼女は警戒をするが、そこから聞こえてきた声に驚きを隠せなかった。




≪ババ、様………大……ババ……様≫


「ミリア……か?」





 紅蓮の魔女ミリア。

 彼女は元から炎に対する相性がよく、その炎の多彩さと彼女の豪快さもあり瞬く間に成長し外の世界を見てきた。炎の色のような紅い瞳と髪は、ミリアの特徴を表わしていると仲間内で言っている。


 バルム国での消失を聞き、大ババ様は半ば諦めていたが生存してたと思い嬉しく思った。が、それでもおかしいと気付く。




(何で、ミリアの魔力が感じ取れない……?)




 使い魔であろうと魔法で行えば、小さくとも魔力を感じとる事が出来る。しかし、白いハトの使い魔は少しずつではあるが姿が半透明になり姿を保てなくなっている。




『事情、は……あとで。お店、開けて置いて……』




 時間は夕方に来ると言う。分かったと言えば、途端に使い魔のハトは一気に崩れ去る。ネムには内緒にしておいた方が良いかと、彼女には適当に王都を散歩してきて良いと言い大ババ様はミリアと対面した。

 

 今のミリアは魔力を封じられ、魔法の類を扱うのに不便である事。今も使い魔と言う簡単なものでも、疲れた様な表情をしており原因を探っていると。だから、彼女は何処で働きこの国にいつから住んでいたのかも話を聞き知っていた。


 今回の婚約祝いと言う他国からの交流。


 彼女達はそれを遠くから使い魔を通して見ていた。ゼスト王太子、ギルダーツ王子とルベルト王子の姿を確認し、そしてリグート国の王子の事も確認できた。




「はぁ。じっとしてるのは暇」

「これも修行だよ」




 むっとなるネルに大ババ様は何でもない様に言う。

 出されたお茶を飲みつつ、だらけるも収穫が無いのでは彼女のようになるのは仕方ない事。光の魔法を扱う者を見付け、保護しなければ争いが起きてしまう。


 イーゼストを落としたとされる王太子の力は要注意だと感じ取り、警戒を怠らない様にしていようと決めた。ネルにもその辺の事をしっかりと言い聞かし、大ババ様はチラリと水晶に映った1人の女性を見てふと思う。




(彼女が、バルム国の姫………ウィルス姫か)




 昨日の夜会でのダンスを映し出し、王太子相手に一歩も引かずに堂々とした態度。王族とは言え、相手は一国を潰した者だ。恐ろしくて怖がる所か、逆に向かって行く気もある面白い女性として映る。




(それに、ミリアの呪いの魔力も少しだけど感知できる。……呪いを行ったというのは彼女にかねぇ)




 じっとただ静かに見る。

 ミリアの呪いを身に受け、今でも不便をしていると思われている者。もし、ミリアの呪いを受けたのが姫だったなら光の魔法についても何か知っている可能性がある。

 だって、彼女は魔女との交流があった国の1人娘。

 何も知らなかったとしても、聞いてみる必要があるなと密かに思った。




(それにはまず使い魔を破壊する奴が邪魔だねぇ……)




 話を聞く前に色々と準備が必要かと思った大ババ様は、クツクツと面白そうに笑い策を練る。




「え、なに……怖いよ」

「…………」




 真顔で言うネルに大ババ様は無言でチョップを繰り出す。そんな事をしている間に、外は夜になり王都はまだ賑わう。

 

 一方のウィルスとレント、バーナンは彼女をどっちの部屋で寝るかと言う議論をかわしていた。




「何度言えば分かるの? ウィルスは私の部屋で今日も寝るの!!!」

「だからそれはズルいって。久々に兄弟仲良く寝ようよ。ウィルスも一緒で良いって言うのに頑固だね」

「あ、あの……」

「兄様にはクレールが居るでしょ? 私達ではなく彼女を誘えば良いだろうに」

「…………」

「あ、あの……」




 急に黙ったバーナンにウィルスは声をかけるも返答はない。すると、何を思ったのか彼はウィルスを抱えてそのまま、自分の部屋と駆けこんでしまった。




「こんの、誘拐犯!!!」

「意地悪レント。彼女はこっちで寝るから良いの!!!」

「よくない!!!」




 兄の部屋のまで言い合いを始めるが、内容はとてもではないが言えない。既に見張りの兵を退かせていたからか、その光景を見る事が出来たリベリーとナーク。





「ナーク」

「ん?」

「オレ等の主っておかしな奴ばっかだな」

「ボクの主はそこに含まないから平気♪」

「あ、そう………」




 そんな会話をしていたら、レントが扉を破壊しようと魔法を発動させようとする。慌てて止めるリベリーが逆に攻撃を喰らってしまうまであと数秒後の事だった。



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