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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第52話:3人で

ーバーナン視点ー



 ウィルスを執務室に案内する前にその手前で、服を新しく着替えて貰った。上着を掛けた時にほのかに香った柑橘系の匂い。薔薇園での薔薇の匂いよりも薄いが、いつも朝起きたらお風呂に入る習慣をしていたからすぐに気付いた。

 今日は柑橘系の香る湯だったな、と。




「ありがとう、ごさいます……」




 女官に新たに服を着替えさせる前に、念の為にと体を拭いたのだろう。さっきよりはスッキリしている様子のウィルスに、私は向かい合わせのソファーに座る様にと頼みそこにおずおずと座る。紅茶を出した後、女官はすぐに執務室から出て行く。

 私は視線でそうするようにと、お願いしたからね。




「主……」

「わうっ……」




 座った途端にシュンと言う風を切る音が聞こえたのと、ウィルスの悲鳴染みた声が聞こえたのは同時だ。見ればナークがウィルスの事をギュっと抱きしめ不安げに見つめている。




「……アイツに、何かされた?」

「え、っと………」

「ナーク、近いよ」




 ぐっと彼の首根っこを引っ張るのは、いつの間にか居るレントだ。思わず何でかと思ったが、すぐに気付いた。刻印の危険を知らせるものかな、と思いながら隣に来ていたリベリーに視線を合わせる。




「あーー。ナークがゼストの奴に向かって殺気を……な。弟君はお察しの通り、刻印の力だ」

「あぁ、だから簡単に退いたんだ」




 退いたゼスト王太子の行動は少し気になっていた。

 私が睨む前に何かを感じ取った様な様子。まぁ、ウィルスの護衛なんだから近くに居るのは当然だし、すぐに姿を現さないだけでもマシなのかも知れないが。




「ナーク。その辺にしたあげて」

「うぅ、だってあの王太子に迫られて怯えてるんだもん。………ね、怖かったよね?」




 おーい、いきなり爆弾発言は止めようか。

 後ろにいたレントの表情が怖くなっているし、ウィルスはそれに驚いて青ざめるしリベリーは溜め息を吐くし。……いや、ナーク。君はワザとか、ワザとウィルスにピンチを与えるんだ。




「あの、その……」

「ウィルス?」

「はひっ……」




 ほら王太子よりも今のレントの方が怖いんだって。止めるように言い、ウィルスを私の膝の上に乗せて落ち着かせる。リベリーが視線で「何、してんの?」と、訴えて来るが何のことだか分からないから無視をする。




「誰かさんがこわーいからだよ。ウィルス、今から出掛けない? 仕事終わったし、レントの方は──」

「私も終わらせました」

「「………」」




 管理してるのはジークだったね。

 よりによって今日終わらすのか。試しにウィルスの事を撫でれば、レントの態度は明らかに悪くなる。その一方でウィルスは怯えて私にすり寄るから、さらに不機嫌になるってね。


 うわー、この2人面白いな。

 

 


「おい……」




 リベリーがジト目で見てくる。え、何? 遊んだらいけないの?

 そう思っていたら既にレントにウィルスは抱えられているし、未だに青い顔で私に助けを求めて来るんだけど……睨みがキツイぞ。




「平気だよ、ウィルス。怒ってないから」




 ブンブンと首を振られて否定されてるから説得力ないよ。それでも平気だよ言うレント。何処から来るんだろうその自信は……。




「兄様。何でウィルスと居るの?」

「っ!?」




 あー、それ聞くんだ。

 ウィルスから言わないでオーラをヒシヒシと向けられるんだけど、ナークも知ってる事だし。あ、彼はウィルスが不利になる様な事は絶対に言わないから知らないフリするのか。




「んー。たまたまだよ」




 嘘ではない。あの薔薇園には本当に偶然だ。庭園が幾つかあるから幼い時には冒険しているみたいで楽しかった思い出がある。この所、頭を使うから癒しだよ、リラックスだよ。

 何で疑いの目を向けてられるのかな。




「……たまたま、ね」

「ボク、知らない」




 すぐにナークを見るが、思っていた通りの回答をしてくる。リベリーに聞かない辺り聞く気がないのか、元から外しているのかは分からないけど。少しイラっとした表情をしているリベリーを見ると元から無視したんだろうなと、予想はつく。





「そう……そんな事があったんだ」




 元からウィルスに関して妥協しないレントだ。秘密にして後々ウィルスに被害が来る位なら、今知っておいて少しでも軽くすました方が良いなと思って私から話した。

 ウィルスはその間、生きた心地がしないのがずっと視線を彷徨わせ落ち着かない。ナークが手を握って安心させるように、ニコッと笑顔を向けて少しでも不安をなくすようにしている。


 なんというか、ウィルスが主なのに時々ナークの方が主じゃないかなって思う事が多々あるんだけど……。




「刻印の方はどうなの?」

「……途中から急に熱くなったから気にはなっていたんだ。でも、少ししたら急に冷めていくから不思議に思ってたんだけど、兄様が助けたから安心したんだね」




 本当はルベルト王子とギルダーツ王子だけど、余計な事は言わない方が良いだろう。ウィルスも何だか言いづらそうにしているから、何か理由があるんだろうしね。

 そう言えばあの時のギルダーツ王子の反応も妙なものだったな。




「ウィルス。ギルダーツ王子と何かあった?」




 ピキッと面白い位にウィルスの体が固まる。レントと私の事を交互に見て「……られたかも、知れない……」とぼそぼそと言っている。そこから素早くナークの後ろに隠れ、彼の背中越しから私達2人を見て申し訳なさそうにしている。




「姫さん。話してみろって……抱え込んでいると爆発するぞ」

「うぅ……で、でも………」

「安心しろ。ナークが一番の味方になるんだから、姫さんはもっと構えとけばいんだよ」

「………でも………」




 何気にリベリーが説得している。


 そのまま困ったように、悩みに悩んで……覚悟を決める様に深呼吸をして私達に向き直り話し出していく。

 風呂場でギルダーツ王子と遭遇した事。その時にカルラから自分に戻る所を見られてしまったかも、知れないと……。

 そのまま慌てていた時に庭園に来ていた事。そこで運悪くゼスト王太子と遭遇してしまった事……よくもまぁ、そんなに遭遇するね。


 レントは溜め息を吐き、私は「ふふっ、それは危なかったね」と呑気に言った。すぐにリベリーが反応を示す。




「軽いな!!! 姫さんのこの体質は知られないようにするのが良いんだろう? でないとあの怖い宰相に叱られるだけじゃ、すまなくなるんだぞ」

「あ、う……そうだ。私、昨日……目立ってしまった」




 何の引き金を引いたのか。ウィルスはずっと小声で懺悔を始めてしまった。あ、もしかして会見が始まる前に「目立たない様に」と釘を刺されて、守れなかった事を後悔しているようだ。




「平気だよ、ウィルス。昨日のアレは仕方ないよ。誰も王太子から2曲も連続で踊らされるなんて思わなかったんだし」

「その割には慌てずに踊り切ったよね」




 素敵で可愛かったよ、と優しい表情のまま頭を撫でるレント。それに気を良くしたのか急にふにゃりと表情を変える。




「んふふっ。予定にないからやり返しに、ゼスト様の足をワザと踏んだんだ♪」

「「「…………」」」

「流石、主!!!」




 私とレント、リベリーが反応に困っている時にナークはウィルスと「偉い!!」と褒め合っている。……えーと、ウィルス。それも原因に含まれてるんじゃないかな、彼が異様にウィルスの事を狙ってるのって。




「ま、まぁ……突然のハプニングでも冷静さを失わずにやり切ったのは凄いよ。あとウィルス。やり返し禁止。妙な輩に気に入られるかも知れないから」

「ふえっ!?」




 私の言葉に無言で頷くレントとリベリー。

 ウィルスは分からないと言った表情でナークの事を見ており、彼も不思議そうに首を傾げている。




「ダンスが好きなのは報告で聞いているから良いんだけど、バルム国でも学んだの?」

「うん。ダンスは嗜みだから知っておいて損はないし、他国に嫁ぐ時には楽しませるのも1つの武器だってお父様が言ってた」

「武器ね。まぁ、今回はそれでほぼ乗り切れたから良いんだけど………余計に気に入られる要素を自分で作らないでね?」

「うん。ゼスト様には絶対に近付かないよ。例えお菓子とか出されても」

「…………」




 黙ったレントの事を不思議そうに見上げるウィルス。

 あぁ、これは気付いていないんだな。……ウィルス、前にスティングと出掛けた時の事を思い出そうかと私が投げかければ「ふむふむ」と思い出すように、目を閉じた。




「聞いた話だと、スティングと限定スイーツを食べるのに王都に向かったんだよね?」

「………」

「他に理由があったとしても、半分以上はそのスイーツが目的でしょ? ウィルス、食べるの好きだからホイホイついて行かない確証はないしね」

「ボクが護衛する」

「君も付いて行かない。約束できる?」

「……約束する」



 

 ちょっと、その間はなに?

 君、本当にウィルスと似て来たね……。




「ディーデット国とはこれから貿易をするという約束の元、約束として条約を結んだから王子達は誰かに口外すると言うのは無いから平気だと思うよ」

「でも、秘密にしないといけないのに……。すみません、色々とよくしていただいたのに」

「だったら、今日私の部屋で一緒に寝ない?」

「なんでそうなるの………」




 分かりやすくレントの声が低い。さらに不機嫌さを増して睨んできた。いやいや、それに退く気は無いよ。だってズルいじゃないか。お父様とお母様もウィルスと一緒に寝たというのに私は一回も無いんだよ?


 理不尽でしょ?


 あれからレントは私とウィルスを会わさない様にしているから、殆ど彼女と話せてないんだ。こんなに話せたのは何かのきっかけだと思ってこれは譲らないからね。




「なんならレントもどう? 久々の兄弟で寝るのもありでしょ」

「いやだ」




 早い拒否だな。うぅ、ちょっと胸が痛い。あれかな、心が傷付くとこんなにも痛いのかな。




「3人で出かけるのもありか。じゃ、スティングからおすすめのスイーツを教わったんだ。行かない?」

「い、行きたいです……」




 うん。予想していた通りだよ、ウィルス。 

 目が嬉しそうにしているし、既に纏う空気も甘い物を食べられるという気合を入れている。レントを見ればやれやれと言った感じで降参のようだ。



 よし、今からスイーツを食べに王都に行こうか♪

 難しい話はその後でも全然平気だしね!!!



 


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