第5話:2人だけの印
ーウィルス視点ー
今日を入れれば1週間経つ事になり、明日からレントの所に迎えに行くようにと言われました。……レントの家なのに? と思ったがすぐに王妃様から言われたのだ。
「許嫁だもの。迎えに行くのも義務よ」
そう、なんだ。
じゃあ明日、レントに思い切り甘えよう。どんな顔するかな?
国王様と王妃様と共に親子のように過ごしていただいた。ふかふかのベッド、温かい食事。なんだが自分が暮らしていた国のようなとても暖かな……懐かしく思うような雰囲気に思わず泣きそうになった。
今日は水色のワンピース着てます。採寸を済ませたあの日から、物凄い勢いで服を持って色んな服を試着されました。魔法師団を統括するラーファルさんと言う人と、国王様が何やら話し込んでいるのを見かけますが……試着された身なので内容は全然分からない。
あっ。でも、国王様が私にと次の日に赤いチョーカーをくれました。水晶が埋め込まれていて、キラキラしていたからレントも喜んでくれるかな?……難しい、かな?
「……息子が色々とすまないな」
「いえ。あの、ここまでしていただいて……何だが申し訳ない気がします」
気恥ずかしい。……本当、お父様とお母様みたいな温かい人。レントが笑顔が似合う理由が分かった気がする。こんなに暖かい人達なら自然とそうなるんだろうな、と嬉しくなった。
レントは私を守ると言ってくれた。
ここに居て良い、と何度も言っくれた。
何かお礼がしたい。レントにも、国王様にも、王妃様にも。
でも、ふと思った。猫の生活に5年……仕事らしい仕事なんてした事ない。
(……どうやったらお金、貰えるんだろう)
剣を扱える訳でもない。料理もした事がない。
魔法……ダメだ。魔力はあっても使えないって言われたから。ってなると、私は与え続けられている事になる。
「あ、あの……」
王妃様の方に顔を向ける。
薄いピンク色の寝る用のドレスを着た王妃様。……色気が凄い。ちょっとクラクラしてきた。
「どうしたの?」
うっ、レントみたいに優しくて安心しちゃう。で、でも聞かなきゃ……お世話になりぱっなしだと。
「気にしないで。レーベのお嬢さんがこんなに可愛いなんて……男の子しか生まれなかったから、娘を持つってこんな気持ちなのね」
「お母様の事、知ってるんですか?」
「えぇ、私達4人は幼なじみなの。まぁ、それで一緒に居て結婚して子供も授かったんだから嬉しい事ばかり」
スッと王妃様は私の頭を撫でます。
髪の色はお母様、瞳はお父様と嬉しそうに話をしてくれた。何だか、私まで嬉しい気持ちになって夜中まで話ふけってしまった。
「ふふ、本当に可愛い。レントが夢中になる訳だ」
最後にその言葉を聞いた。私は心地良さに体を預けそのまま眠った。
「どうか……この子に災難が降りかからないように。貴方も守ってね、レーベ」
「大丈夫だ。あの2人の子供だ。……不安ではあるが息子も居るのだし」
「ふふ、あの時の顔凄かったものね。大事な物を取られて拗ねるだなんて……彼女の事が愛しくて仕方がない。そんな雰囲気で私まで睨まれたもの」
不安があるとすれば弟のレントだ。
歯止めが段々効かなくなっていると感じたが、既に彼女にはレントの物だと言う印がある。
途端にウィルスの左手の甲から光が灯される。
彼女の首には赤いチョーカーが付けられていた。そこに2センチ程の水晶が全部で2つ埋め込まれてる。その内の1つが同様に光が灯され、主張するように輝きが増す。
共通しているのはそのどちらも、半月の形をしており淡く、だけど主張するように輝いていた。
「……魔方陣を2つに割り、片方に半分の印として残す魔法刻印。まさか、レントが幼い時にやるなど予想もつかんよ」
魔法刻印。
リグート国で扱う事は殆どなく珍しいもの。一度発動させたらその印は消える事無く、付けた側と受け取った側にのみに力を放出させ続けるもの。扱い方は様々であり、互いの考えが読めたり、危険を察知できるなど効果は様々である。
扱うのには魔力が多くないと発動出来ない上、受け取る側も同じように高い魔力がないと刻印は発動しない。リグート国でこれを知っているのは、魔法に詳しい魔法師団に所属している人間と王族のみ。
「……誰から教わったのか、または自分で見付けたのかは分からないが……運命と言うのは複雑だな」
「でも、そのお陰で彼女の無事をレントは誰よりも早く分かっていた。その為にこの子を守ると決めた時から……あんなに頑張っていたんですね」
恋する気持ちが力を与えてくれた、と言いながら眠ったウィルスの髪をかき分けながら見つめた。その時、人の気配を感じた王妃は振り向いて思わずクスリと笑った。
何故なら今話題に出していた、レントが不機嫌そうに現れたからだ。
「もう、レント……雰囲気を壊さないで」
「雰囲気もなにも私は、ウィルスと1週間も離れてたんだけど?」
「……ホント彼女の事しか頭にないんだな」
呆れたように言った父であり国王の言葉も、レントは無視して寝ていたウィルスを抱き抱える。
「じゃ、散々楽しんだんだからもう良いでしょ。……仕事はきちんとこなしているんだから休ませてよ」
ジト目で睨みながらも、ウィルスを見つめる目はとても優しい表情をする。同時に彼の右手の甲にも同じように光り輝く印が浮かび上がっている。その現象を見て改めて国王は彼に告げる。
「覚悟はとっくにしている、と言った表情だな」
「当たり前です。その為に力を付けて来たんですから。では、夜遅くにすみませんでした」
刻印が光ったと同時、2人の姿が消えた。行き先はレントの部屋だと分かり「意地悪しすぎたかな……」と言いながらも何処か楽しそうにしている国王。その姿に王妃は「娘が出来るなら大歓迎よ」とウィルスの事を気に入っているのがよく分かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーレント視点ー
「レ……ン……ト」
「なあに、ウィルス」
自分の部屋の寝室に着けばウィルスは私の名前を呼んだ。夢でも見ているのだろうと思いながらも、呼ばれたのだからと思い返事をすれば彼女はとても嬉しそうに微笑んでいるようにも見えた。
……ジークに言われたが、そんなにウィルスしか見てないかな?
普通じゃない? 好きな人の事を考えて、どんなことが好きで、どんな物が好きなのかとか考えるは楽しんだけど……ダメなのか?
ー好き……だよ。レン、ト……ー
「っ……」
ベッドに寝かせてソファーに寝ようとした時、頭の中に響く彼女の声。手を放そうとした矢先に、不意打ちのように言ってきた彼女の言葉。淡く光る刻印が主張するように何度も彼女の声が頭の中に響いていく。
ーありがとう……楽しい事を教えてくれてー
ーカルラも喜んでるよー
ー次は……ちゃんと言葉に、出したいな……ー
彼女は知らないだろうけれど、思った事は刻印を刻んだ者同士なら筒抜けなんだ。猫になっている間も、彼女が何を思い考えているのか頭に響いてくる。
今は左手に光っているが、猫の時は額に一瞬だけ光が灯る。
私が近くに居る時は光るのだ。周りにはそれが見えていないから、私にしか分からない事なのだろう。
ウィルスには説明してないし、まだ刻印の事もゆっくりと話せていない。だからあの時に話そうとして、父と母に連れて行かれたんだ。私は悪くない。……悪いのはあの2人だ。
「今日は一緒に寝るね、ウィルス」
ギシッと2人分の重みでベッドが軋む。
彼女を抱きしめ逃げられないように、しっかりと抱き込む。フワリと石鹸の香りは鼻をくすぐる。今度一緒に入りたいなんて言ったら、顔を赤くして拒否するだろうね。……試しに言うだけ言ってみるか。
「大丈夫。……不安になんてさせないよ。私の、私だけのお姫様」
チュッ、と額にキスを落とし刻印が浮かび上がっている左手、首筋にキスを落としていく。私が残す印だし、彼女は気付くことはないだろうから……気付くまで印を残し続けようと思った。
ふふっ、本当ウィルスと居ると飽きないな。
君は貰ってばかりだと言うけれど、私はウィルスに会ってから楽しい日々を過ごしてる。お互い様だと思うけど、多分納得しないよね、君は。
「今日は……よく眠れそうだ」
気持ち良さそうに寝ている彼女の寝顔を見ながら、自分も眠りに入るのはとても心地よく嬉しい気持ちが沸き上がる。
今までの仕事の疲れもストレスも、彼女の顔を見て吹っ切れるのだから……本当に恋と言うのは信じられない力を持っている。
「私に恋を教えてくれて、ありがとう。……私も好きだよ、ウィルス」
翌朝、目が覚めて最悪な事が起きた。
「………」
同じ銀髪の、これまた気持ち良さそうに寝ている男。しかも、猫になったウィルスを抱えて時々頬を摩っている。
「はぁ……」
目覚めて最悪な気持ちになるとは、ウィルスと会ってからは飽きないが今はいらない。と言うか、いつ帰って来ていた。
報告書にはなかったぞ。あぁ、そうか……ワザと私のだけは遅らせてた日にちを教えていたのか。
あとでジークとバラカンスに問い詰める。確実に、徹底的に追い詰めるよ……!!!
「フニャー……ニャ?」
ウトウトしながらも私に気付くカルラが可愛い。ウィルスはもっともっと可愛いもんね♪
「ウニャ♪」
喜んでいるから同志だと思って良いよね?
さっそく、その男を起こすついでに蹴りを加えるように言えばこちらを見た目が一瞬だけ悪い顔をしている、ように見えた。
「シャアアアアッ!!!」
「うっ、ぐえっ……」
まずは頭に頭突きを喰らわし、爪で顔を引っかいたカルラ。物凄く良い笑顔でやったね。うん、偉い偉い。
「カルラー。こっちの方が安全だよ」
「ニャニャーン」
私の胸に勢いよく飛び付き褒めて欲しいのか、尻尾を振りキラキラした目で伺っている。私の事も主人として認めてくれるかなと思っていると、猫パンチを食らった。
「フニャニャ」
じゃれて欲しいのか、頭をこすり付けてくる。認めてくれたと思い、今の行動を咎めはしない。勝手に入って来たのが悪い。カルラは防衛しただけだ。
うん、全然悪くない、悪くない。
「い、つっ……レント、教育なってないんじゃないか?」
「何を言っているのか分かりません。そっちだって、私に報告した日数をワザと多く言いましたよね?」
「腹いせにしては随分な歓迎、だな……」
「カルラ」
「フシャアアア!!」
私の命令にカルラは勢いよく兄に飛び掛かった。
第一王子にして私の兄であるバーナン・セレロール・リグートは、カルラの攻撃に絶叫した。
うん、気分が良い。カルラ、もっとやれ。
察したカルラが元気よく兄を自分のおもちゃとして、遊び回した。遊び道具が増えて良かった、良かった。