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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第50話:得られたもの

 あれから夜会も滞りなく終わりを告げ、一波乱あったものの行事を終えられた事に安堵を漏らすのは料理人達だ。彼等は夜会での会場であるダンスパーティの片付けを行っていた。

 無論、城の使用人達も合わせて行っているが今日は他国の王子達が来た事もあり出された料理の数はかなり多い。後始末も含めて彼等も駆り出された、と言うのが本当の理由だ。




「それにしても、ゼスト王太子様とギルダーツ様が一触即発だった時は肝を冷やしたな」

「王族同士の睨みは……迫力ありすぎ、だ」




 そう語るのは、追加の料理を運んだ見習いだ。

 王城での料理人と言う夢を追い、必死の思いでどうにかして入る事が出来た。彼は今も身震いをするのは、ダンスを終えた後の2国の王子達での一幕。しかも、中心に居るとされるのは第2王子レントの婚約者でありウィルスだ。


 そして、副料理長を務めるリーガルの知り合いらしい。

 王族に会うなど、夢のまた夢だと思っていたが給仕係の者達も人手はあったが他国の王子の登場、隣国のディルランド国の王族と言う異様な雰囲気の為に、友好にと結ぼうとする貴族達は多い。


 実際、いつもの夜会などの比ではなく人も多ければ料理が減るスピードも早い。給仕係でまかなえない部分は、料理を作った責任のある自分達が運ぶなんて言うハプニングも起きてしまう。




「………初めて見たけど、ウィルス様……可愛かったなぁ」

「バカ。鼻の下を伸ばすな。レント王子に睨まれるぞっ」




 ゲシッと足を踏みつけ注意するのは、同じ見習いでもあるが入ったのは自分よりも早い先輩だ。リグート国の王子達に婚約者が発表されたのは知っていたが、この目で見られるとは思わず嬉しさが込み上げて来る。




「そうは言うがな………あんなに綺麗な人、もう見れないのかと思うと寂しくて」

「レント様の寵愛を受けて、尚且つ猫好きで可愛らしい……惚れるなと言うのは無理だろ」

「いや、知られたら王子絶対に許さないっての」




 零れる言葉に次々と言葉が飛んでくる。同じように片付けをしている料理人達は、既に手を付けられていない料理も含めて破棄しなければならない。




「ん、あれ………これ誰が食べた?」

「どういう事?」




 片付けたしていた時、さっきまであった筈の料理の数々がいつの間にか消え失せていたのだ。誰かが片付けたのだろうか、と思っていると別の所でも同じような事が起きていると言う。




「おいおい、冗談だろ……怪奇現象かよ……」




 彼等は知らない。そう話している間にも、ナークがひょいひょいと料理を取り黙々と食べているのを……。ついで猫でも食べられそうな物を物色し、持ち帰って後であげようと思っているのを。




「あ、おい、こっちもないぞ」

「あ、あれ、片付けようと思ってたのにいつの間に……」




 この日、料理人達の間では呟かれた。

 豪華な夜会の後、料理が消えると言う事件を。副料理長のリーガルは「バカか。んなもんあるかよ」と笑い飛ばし、料理長は「ん。美味しく頂いたなのなら良いだろ」と何とも器の大きい発言をした。


 怪奇現象か、と言われているが実は暗殺者でありウィルスと主従関係を結んでいるナークの無邪気な行動だと。彼等が今後、この先それを知ることはないし似た様な事がこれからも起きるのだ。


 見習いは身震いをするが、上が笑い飛ばし「幽霊でも料理が上手いとなるなら良いじゃないか!!!」と凄い意見を持ち出してきた。

 思わず、俺達はあんなに器の大きい大人になれるのだろうかと不安になった見習い達だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーリベリー視点ー



「なにしてんだよ、お前は」

「いてっ………」




 ペシッと叩きナークはまたも「うぅ、良いじゃんかぁ」と恨めしそうに言う。その間にまた猫達からせがむような鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。

 



「ミャーミャー」

「フニャニャ、フミャフミャ」

「ミー、ミー」




 おい、さらっとオレの肩に乗るな。

 あぁもう……何で、足元からせがむ。オレはご飯なんて持ってないっての。




「リベリーさん、人気ですね」

「単に珍しいからだよ」




 姫さんが弟君の膝の上に抱えられると言うある意味、定位置になりつつも2人からそんな声が聞こえてくる。姫さんの事を飽きもせずに頭を撫で続ける弟君は、言わずもがないつも以上に嬉しそうにしている。




「破棄される前に食べただけだし、こんな機会ないからと思って食べたんだけど……ダメ?」




 おい、ナーク。だからって怪奇現象か、みたいな噂を流されるなよ。しかも作った料理人からだなんて、その人達がいなきゃ今、お前が食べてる物もないんだぞ。


 


「今度、3人で食べる?」




 おーい、姫さん。自分から行くな、そして気付け。今のでナークと弟君の目の色変わったぞ。




「2人が良いなら一緒にいたい!!!」

「良いよね、レント」

「うん、たまにならね。じゃあナーク、また2人でウィルスの事を食べさせ合おうか。ついで3人で寝ようか」

「えっ……」

「うん!!!」




 ギギ、とぎこちなくオレに視線を合わせてくる姫さん。だから外堀を埋めに行くなって……。オレ、注意したいけど弟君から睨まれてるから口はさめない。悪いな。




「あ、そ、その……」

「平気だよね、ウィルス」

「主、良いよね?」

「っ……」




 後ろからは弟君に言われ、正面からはナークに聞かれる。姫さんはさっと青ざめやっと自分の失敗に気付く。オレにすがる様な視線を送ってるんだが、悪い……何も出来ない。

 姫さんの後ろでは相変わらず弟君が睨んでくるし、ナークはずっと姫さんしか見ていない。……なんだろうな、この雰囲気。オレは邪魔者って言いたいのかな。




「わーい。今日は主と寝られるし、明日は食事も一緒だ。わーーい」

「あ、え………うぅ」




 目の前であんなに喜んでいるナークに「実は違うんだ。ごめんなさい」なんて言ったらショック受けてずっと張り付かれるぞ。多分な……。




「な、なら、リベリーさんも」

「何でそうなる!?」




 おいおい、オレを巻き込まないでくれよ。って、ほらほら、弟君が明らかに嫌がっているし不満げなのを気付こうぜ。サンドイッチになるから恥ずかしいとか言ってるけどな、姫さん……。

 当然のように弟君の膝に乗せられて、そのまま大人しくしているのって意外に恥ずかしい事なんだぞ。まぁ、本人は絶対に分かっていないからこのままでもいいか。




「んじゃ、オレは外で寝てるから」

「か、風邪ひいちゃいますよ!?」

「平気平気。オレ等は慣れてるし、野外でに何処でも寝れるようにはなってるから」

「っ、で、でもっ………」




 うぅ、と何とかこの状況を抜け出したい姫さんは考える。が、それは全て弟君の「私はウィルスと寝たいなぁ………ダメ?」と言う言葉に前では無意味だった。

 すぐに顔を赤くして思わず「良い」と言いかけるのを必死で抑えてる姿は……うん、パタパタと手をバタつかせても可愛い反応としか見られてないからな?




「主、ダメなの? ボク、久々に誰かと寝たい」

「っ………」




 言葉に詰まるだろう。ナークは帰る場所もない、姫さんもないのなら彼の言葉の意味も重みも分かる。が、騙されるな姫さん。

 コイツ、素であざとく聞いてるからな。年下に弱いのを最近知ったからか、ナークは姫さんにお願いをする時によく上目遣いをして落としていく。

 必死で避けたり、言葉を探す内にどんどん追い込まれて最終的には――




「う、うん。ナーク君が、そう……言う、なら……」




 と、陥落する。

 姫さん、弱い……心を保つのが弱すぎるぞ。もう少し頑張れ。ナークの主なんだろ? 主ならちゃんと御しないとえらい目に合うぞ。いや、既に合っているか。悪い、なんでもないわ……頑張れ。




「じゃあ、どう寝る? 主をはさんで寝る? ボクは何処に居て良いの?」

「んー、私はこうして後ろから抱いて寝るからナークは前かな」

「はーい」

「………」




 おい、男共。それ、ワザとだろう。間にはさまれた姫さんがいたたまれなくて、顔を真っ赤にしながら大人しくしてるんだ。逃げたいよなぁ、そりゃあ。だからそんな涙目でオレに助けを求めるなって。




ーうぅ、意地悪だ……ー

ーふふっ、もう諦めなよウィルス。ナークが喜んでるんだからさー

ーだ、だからって………あっ!!!ー




 何を思ったのか姫さんは周りで遊んでいた猫を1匹掴み「この子もどう?」と苦し紛れの提案をしてきた。あぁ、猫でモフモフしたいのか……それで2人にはさまれると言う状況を少しでも緩和したいってか。




「猫?」

「ミャーン」




 コテン、と明らかによく分かっていない様子の猫はなんとなしに首を傾げながら鳴いている。時々、手をパタパタと動かしながら尻尾でナークの顔に当てると言う器用な真似をしている。

 よし、もって当てろ。いつもオレの事をバカにしてんだ、それくらい良いだろう。




「良いよ。じゃあお風呂入って寝ようか」

「ふえっ!?」

「ボク、見回りしてから入る~」




 シュタッ、といつものようにナークが消える。あとに残ったのは猫達の鳴き声と、真っ赤な姫さんにニコニコの弟君だけだ。逃げようよしてもすぐに捕まって抱き寄せられてるから、もう諦めていいよなって言いたくなる。




「別に初めてではないんだから平気でしょ?」

「へ、へへ、平気じゃない!!!」




 1人で入るーーー、と言う姫さんの抗議もむなしく弟君はそのまま連れ去っていく。ふぅ、と息を吐き面白いものを見たなと言う気持ちでオレはそのままバーナンの所へと向かった。


 それを報告した時のバーナンの顔と言ったら……。あぁ、マジで面白かった。久々に見た笑顔満載で「ウィルスも大変だね」と言いつつ、次の日に何か喜んで貰えそうな物を考えている中でオレは言った。




「なら、姫さんと出掛ければ良いんじゃね? 護衛はオレとナークで行けばいいし、あの王太子と顔を合わせないならそれに越したことはない」

「あぁ……彼か。そう言えばまだ居るんだよね」




 途端に雰囲気が暗くなる。あ、やっぱりバーナンも嫌いになったんだな。ゼスト王太子は自国から出てこないことで有名だ。武功をあげてもなかなか国外へと目を向けない謎の存在。

 その分、支配欲が強いのは聞いている。現にオレやナークの住んでいた里を襲撃したのだってトルド族の特殊的な力を手にしたが為の事。




「オレもナークも出てこないだけマシだ。まぁ、必死で前には晒さないって言う気持ちが強いんだがな」

「ナークはウィルスの事、本当に好きだもんね」




 姉弟みたいだもんね、と言えばオレはそれに驚てい反応に遅れた。……そうか、アイツは得られるものを得たんだから当たり前か。主を得ただけでなく、自分の居場所もナークは掴みとった。

 まだまだ若いだけのガキだと思っていたが、オレよりも充実した感じに少しムカついた。




「リベリー。君はどうなの?」




 バーナンを見る。その視線が「君も得られたんじゃないの?」と語っているようで気付いていた筈なのに、今まで気付かないフリをしていた。




「そう、だな………居心地が良いから言いそびれた。ありがとう、バーナン。オレと契約してくれて」




 かけがえなのない仲間を得られて、と微笑んだ。そうしたらバーナンが始めて見たと言い秘蔵の酒があるから今から飲まないか? と誘ってきた。




「おっ、飲んで良いなら飲むぞ。良いのかよ、明日だって仕事だろ」

「たまには良いでしょ。どうせレント達だってゆっくりしてんだし」

「あぁ、今頃……姫さん、逃げ回ってるのかなぁ」

「レントが逃がす訳ないでしょ。無理だよ無理」

「容赦ないな、おい」




 そう言いながらも互いに大笑いをする。どうやら今日、オレは久々にいい夢を見れそうだ。そう思いながら2人でバカ騒ぎをして、酒をたくさん飲んだ。その翌日、さっそくとばかりにクレール姉さんに怒られた。


 あ、オレはこれを機に姉さん呼びだ。いや、だって………怖いし。

 姫さんが癒しだからあとで会いに行こう♪ 

 


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